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世界の10大リスク「欧州の政治」がトップ、尖閣は圏外

木村正人在英国際ジャーナリスト

指導国なき「Gゼロ」や「Gゼロ」後の世界を描いた米政治学者イアン・ブレマー氏率いる米ユーラシア・グループは5日、10大リスク予想を発表、2015年最大のリスクとして「欧州の政治」を挙げた。

ユーラシア・グループのHPより
ユーラシア・グループのHPより

欧州単一通貨ユーロ圏(19カ国)からギリシャが離脱するシナリオが現実になった場合、欧州にとって吉と出るか、凶と出るか、正確に予想するのは難しい。

「借金の帳消しにしたいのなら、欧州統合のシンボルである単一通貨ユーロから出て行け」。「統合」より「分裂」を強調する言葉がドイツのメルケル政権内で公然と語られ、メディアをにぎわわせている。

ドイツを中心とした欧州「北部」と、債務危機の震源地ギリシャの民意は埋めようがないほど、距離が広がっている。実際にギリシャにとってユーロから離脱し、借金を踏み倒した方がギリシャ経済の回復は速くなる可能性がある。

そうした方がギリシャだけでなく、欧州全体で極左政党と極右政党の台頭を抑えることができるかもしれない。このまま行くとユーロという欧州統合のシステムが「欧州の政治」をカオス(混沌)へと追いやってしまう。

そうしたリスクは米国から見れば明白なのだが、メルケル首相や欧州連合(EU)本部のあるブリュッセルの官僚たちが目を向けようとしないところに最大の問題がある。

ブレマー氏とクリフ・カプチャン議長による10大リスク予想をみてみる。

(1)欧州の政治

欧州経済はユーロ危機の最悪期に比べると、本質的には良くなっている。しかし、欧州の政治は状況がすごく悪くなっている。

草の根レベルの有権者の怒りが欧州全体に広がっている。欧州懐疑主義を唱える極左政党と極右政党が既存の主要政党を脅かしている。このため、主要政党も欧州懐疑主義というポピュリズムに走り始めている。

フランスでは極右の国民戦線(FN)が台頭し、英国では欧州連合(EU)離脱を唱える英国独立党(UKIP)が保守党のキャメロン首相を揺さぶっている。

EU内部では、これまで欧州の核となってきたドイツ、フランス、英国の足並みが乱れる。フランスのオランド大統領の支持率は13%に落ち込み、財政赤字の削減目標は達成できそうにない。英国はEUに残留するかどうかが問題になっている。

EU全体が緊縮策で意見を一致させるのは難しい。さらにウクライナ危機でロシアのプーチン大統領は領土的野心をむき出しにした。米国家安全保障局(NSA)の監視プログラムで米国に対するドイツの不信感が膨らんでいる。

イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」によるテロの脅威も予測できない。

(2)プーチン大統領が主導するロシア・リスク

(3)中国経済の減速が世界経済に及ぼす影響のリスク

(4)最終兵器として米国が金融制裁を使うリスク

(5)イスラム国がイラクやシリアを越えて拡大するリスク

(6)新興国のブラジルや南アフリカ、ナイジェリア、トルコ、コロンビアの現職指導者の求心力低下がもたらすリスク

(7)経済活動への戦略的な国家関与が強まり、経済の自由を制約するリスク

(8)中東でイスラム教スンニ派とシーア派の対立が深まる中、サウジアラビアとイランの緊張が一気に高まるリスク

(9)台湾の最大野党・民進党の台頭で、中国と台湾の関係が急激に悪化するリスク

(10)トルコのエルドアン大統領の強引な政治手法がもたらすリスク

アジアで強まるナショナリズムについて、米国のパワーが相対化する「Gゼロ」の中で、中国は南シナ海や東シナ海で圧力を増すものの、15年に限ってみれば、中国の習近平国家主席、インドのモディ首相、日本の安倍晋三首相、インドネシアのジョコ大統領の4人は国内の経済改革を最優先課題にしている。

ナショナリズムによる求心力を経済改革に使い、現実主義から緊張がエスカレートし、紛争が拡大するのを避けるだろうとブレマー氏らは分析している。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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