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選挙権年齢を「18歳以上」に引き下げるだけでは物足りない

木村正人在英国際ジャーナリスト

新たな有権者は全体の2.34%

選挙権年齢を「18歳以上」に引き下げる公選法改正案を与野党8党のプロジェクトチームが14日、了承した。19日に8党で衆院に共同提出する。

衆院が解散されれば、来年の通常国会で成立させ、2年後の参院選から適用したいという。これまで「20歳以上」だった選挙年齢を「18歳以上」に引き下げたら、どうなるのだろう。

現在、日本人の18歳人口121万1千人、19歳人口121万6千人だから、有権者が242万7千人増える。現在の有権者数が1億123万6千人だから、新たな有権者は全体の2.34%。

憲法改正国民投票の投票年齢を「18歳以上」にすれば、選挙権もそれに合わせざるを得なくなると言い出したのは中山太郎・元衆院憲法調査会長だ。

「国のかたちを問う憲法改正国民投票には国の未来を切り開く次世代も参加すべきだ」というのが中山氏の信念だった。

今年6月には、憲法改正の手続きを定めた改正国民投票法が成立した。改正法は国民投票の投票権年齢を施行4年後に「20歳以上」から「18歳以上」に引き下げるのが柱になっていた。

引き下げに反対していた理由

ようやく日本も世界標準である「選挙権18歳以上」に向かうことになったが、世界の85%の国々が「18歳以上」という中では、遅すぎた対応と言わざるを得ない。

選挙権を引き下げることに抵抗があったのは、(1)若者世代の投票率が低い(2)十分な知識と経験のない若者に選挙権を与えると選挙の質が落ちる(3)若者は保守を好まない――などの理由からだ。

しかし20歳未満の世代を切り捨てることで「政治への無関心が広がる」「高齢者人口が増える中、若者世代の声が政治に届かない」という弊害が目立ち始めた。

安倍晋三首相が憲法改正を目指し、できるだけ幅広い世代の参加を求めていることが選挙権年齢の引き下げを後押しした。これは安倍首相の良い面が出たと言えるだろう。

しかし、世界はさらに進んでいる。

2年半前、高校生の団体「僕らの一歩が日本を変える。(ぼくいち)」を設立し、近々、若者たちの声を政治に届ける「ゼロ党」を立ち上げるという慶応大学2年生、青木大和さん(20)は次のように語っている。

「僕自身は選挙権も被選挙権も年齢をともに18歳に引き下げてほしいと思っています。世界は18歳が主流になっており、20歳の日本は世界に比べて若者という水準がすごく遅れていると思います」

米国では18歳の州議員が誕生

実際に米国では先の中間選挙で、ウェストバージニア州下院選で18歳の共和党女性議員が誕生している。セイラ・ブレアさん。ウェストバージニア大学の1年生だ。

高校時代、早目に単位を取得し、最終年の空いた時間を選挙運動に当てた。セイラさんはお父さんの協力も得て1万5千ドル(約174万6千円)の活動資金を集め、4千ドル(約46万5千円)の貯金もつぎ込んだという。

全米ライフル協会(NRA)の支持も取り付けたセイラさんはバリバリの保守で、フェイスブックやツィッターでビジネス減税を訴え、民主党候補を退けた。

若者が政治参画する仕組みをつくろうと選挙権・被選挙権年齢の引き下げを訴えている特定非営利活動法人「Rights(ライツ)」によると、30歳未満の国会議員の割合は――。

日本 0.6%

ドイツ 6%

ノルウェー 5.6%

スウェーデン 5%

日本の若者の政治参加は欧米に比べてかなり遅れている。

スコットランド独立の住民投票には16歳も参加

9月に行われたスコットランド独立を問う住民投票では特別に投票権年齢が通常の選挙権年齢(18歳以上)から16歳以上に引き下げられた。

16、17歳の若者の約8割に当たる10万9533人が登録。大手世論調査会社YouGovの出口調査では16~24歳の49%が独立に賛成、51%が反対していた。

16、17歳の投票率はまだ明らかになっていないが、予想以上に高かったとみられることから、スコットランド民族党(SNP)のサモンド前党首は来年の総選挙の選挙権年齢を16歳に引き下げるよう呼びかけている。

与党・保守党は歴史的に選挙権年齢の引き下げには慎重な立場で、連立を組む自由民主党は前回2010年総選挙のマニフェスト(政権公約)に選挙権年齢を16歳以上に引き下げると明記し、野党・労働党のミリバンド党首も賛成する意向を示している。

前回2010年総選挙では、18~21歳の投票率は40%前後で、66~80歳の約80%の半分程度だ。一般的に言って、若者世代の投票率は高齢者に比べて低いことは否定のしようがない。

英議会に提出された資料より
英議会に提出された資料より

選挙権年齢引き下げに教育効果

しかし、欧州では唯一、国政と地方選挙での選挙権年齢を16歳に引き下げているオーストリアの調査では、実際に投票を通じて政治に参加することで若者世代の政治意識が高まることが確認されている。

ドイツ、ノルウェー、スイスの特定の州や市町村で引き下げが行なわれ、スロバキアでは働いている16~17歳に限って選挙権が与えられている。日本の特定非営利活動法人「Rights」の調査では、親と同居している16~21歳の投票率は21~30歳よりも高いという。

IT革命でインターネットを上手に活用すれば、若者でも大人より情報を豊富に収集できる。もちろん自分の耳辺りの良い情報ばかりを集めて納得する弊害も指摘されている。

しかし、先進国では共通して既存政党や政治への失望が深まり、「政治離れ」が加速している。政治的マイノリティーで、無力感を募らせている若者に政治参加を促すことはプラスにはなっても、マイナスにはならない。

日本では将来世代へのツケ回しとなる政府債務が国内総生産(GDP)の240%を超え、これから本格的に少子高齢化が進行していく。

社会保障・医療、教育に対する税の徴収と配分を幅広く議論するためには、選挙権・被選挙権年齢のさらなる引き下げを検討する必要があるだろう。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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