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ジェンダー・フリー世界104位のニッポン 究極の男女平等・少子化対策はポルノ禁止法だ!?

木村正人在英国際ジャーナリスト

男女平等世界1は

「ダボス会議」を主催していることで有名な世界経済フォーラム(WEF、本部・ジュネーブ)が28日、各国の男女平等度を指数化した「ザ・グローバル・ジェンダー・ギャップ報告書2014」を発表した。

世界142カ国を対象に(1)健康医療の機会(2)教育機会(3)政治参加(4)経済的平等の4項目について男女格差を調べたもので、日本はカフカス山脈の南に位置するアルメニアより下の104位。

世界金融危機後の改革で男女平等世界1を2009年から6年連続で達成したアイスランドは人口33万人。北極圏に接する世界最北の島国だ。

なぜ、日本の男女平等は進まないのか、アイスランドと比較しながら考察してみる。

(1)健康医療の機会

赤ん坊の男女比1位(日本は94位)

平均寿命137位(1位)

男女格差が残る日本では女性の平均寿命が男性よりかなり長くなっている。男女平等が進むアイスランドでは負担するストレスも同レベルになり、女性の平均寿命も男性と同じぐらいになる傾向が見られる。

(2)教育機会

識字率の男女平等1位(日本は1位)

初等教育1位(―)

中等教育1位(1位)

高等教育1位(105位)

日本は女性の大学進学率がまだまだ低いことがうかがえる。

(3)政治参加

国会議員の女性比率11位(日本は126位)

閣僚の女性比率15位(98位)

女性国家元首の在位期間4位(64位)

日本では皇室典範第1条で「皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承する」と定められており、女性天皇は禁止されている。

安倍晋三首相は9月の内閣改造で歴代最多タイとなる女性5人を入閣させたが、「政治とカネ」の問題で小渕優子経済産業相と松島みどり法相が辞任。

男女平等を進める大きな理由の一つに、女性は男性よりクリーンで堅実、血縁・地縁といった縁故より能力を公平にみることができるというイメージがある。

アイスランドでは大手3銀行が破綻する未曾有の金融危機を受け、2009年2月に同性愛者であることを公言している女性のシグルザルドッティル首相が誕生。男女平等が一段と進んだ。

13年4月まで首相を務めたシグルザルドッティルさんは「ジェンダーの平等は社会の質を表す最上の指標」が信念だ。

方や日本、小渕経産相は首相だった父親から地盤・看板・カバンを引き継いだ典型的な二世議員。残り4人も「安倍首相の女性親衛隊」と言っていい取り巻き連中だ。

結局、安倍首相の女性登用でオトコ社会の論理を受け入れたオンナだけが登用されている悲しい現実を浮き彫りにしてしまった。

(4)経済的平等

労働参加の男女平等10位(日本は83位)

賃金の男女平等19位(53位)

所得の男女平等22位(74位)

女性の昇進22位(112位)

専門職・技術職1位(78位)

安倍首相はアベノミクス第3の矢である成長戦略の中核に「女性の活躍」を位置づける。「社会のあらゆる分野で2020年までに指導的地位に女性が占める割合を30%以上とする」

日本の女性の就業率は現在約60%。これを男性並みの80%に近づければ労働人口は推定約820万人も増加し、国内総生産(GDP)は最大14%押し上げられる。

しかし、男女の経済的平等の道はまだ遠い。

オンライン・ポルノ禁止法の是非

東京では毎年2万本のAV(アダルト・ビデオ)が撮影され、「ポルノの首都」という有り難くない冠がつけられる。一方、アイスランドではオンライン上のハードコア・ポルノを禁止しようという運動が進められている。

アイスランドでは1869年からポルノが禁止され、2009年に売春婦を買った人に罰金や禁錮が科せられるようになった。10年にはストリップクラブが違法になった。

そして昨年4月の総選挙前、オンライン・ポルノ禁止法案が盛んに議論された。

アイスランド議会のOgmundur Jonasson議員は筆者の電話取材に「議論は続いていますが、オンライン上のポルノを取り締まるのは実際問題としては難しい」と語る。

実際には、暴力や無理強い、児童ポルノなどを除くと、アイスランドの性産業が徹底的に取り締まられているわけではないようだ。

アイスランドと同様にストリップクラブや買春、ポルノを禁止しているのは中東のサウジアラビア。しかし、同国では女性が車を運転したり、男性の許可なく旅行するのを禁じている。サウジの男女平等度ランキングは130位だ。

先進国はポルノを解禁する方向で進んできた。これに逆行するアイスランドの試みには「表現の自由の侵害」「権威主義」という批判が寄せられている。

一方、日本では一般女性がAV女優になるケースが後を絶たない現状について、「職業選択の自由」「男性のほとんどがお世話になっているのだから堅いことは言いっこなし」という意見がまかり通る。

Jonasson議員は完全なる男女平等社会を目指すアイスランドの原動力について、「男女が平等に社会に貢献していこうという精神です」と説明する。

「失われた20年」で日本では非正規雇用が拡大し、婚姻率(人口千対)は低迷、出生数は減少している。日本が滅びのスパイラルから抜け出すためには、公平で公正な社会をみんなで築いていこうというコンセンサスが欠かせない。

男女格差の問題をアベノミクスの成長戦略という文脈だけで語るのではなく、まず、男女が平等に公平で公正な社会に貢献しようという心構えを説くことが必要だ。

その意味で、男女平等先進国アイスランドのオンライン・ポルノ論争を議論してみるのは日本にとっても有意義と言えるかもしれない。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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