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絶望世代がぶち上げる「0(ゼロ)党」 日本に風穴を開けれるか(動画)

木村正人在英国際ジャーナリスト
青木大和さん提供
青木大和さん提供

香港で民主化デモが広がっている。その中心にいる学生団体「学民思潮」の団長のひとり、黄之鋒さんは17歳の大学生だ。グローバル化がもたらした格差と民主主義を求める若者たちの声は香港だけでなく日本にも静かに広がっている。

自らの世代を「絶望の世代」と表現する慶応大学2年生、青木大和さん(20)は年内に若者たちの声を政治に届ける「ゼロ党」を立ち上げる。将来は政党に発展させるという。

2年半前、高校生の団体「僕らの一歩が日本を変える。(ぼくいち)」を設立し、「高校生100人×国会議員」といった企画を通じて若者の政治参加を促してきた。

その活動は10代の若者たちの手で1時間弱のドキュメンタリー映画「希望を求めてFile.1『僕らの』世代の政治と学校 学生NPO『ぼくいち』と高校生たち」にまとめられた。「若者が社会をおこす」をスローガンに掲げて活動する青木さんにスカイプでお話をうかがった。

――香港で若者たちを中心に広がる民主化デモをどう見ていますか

「日本でもそういう動きを自分たちも作って行こうとこの2年頑張ってきて、今、3年目に突入しています。僕たちはそう思っていても、彼らほど政治とか社会とかのリアリティーは日本の若者にはないのかなということは実感しています」

「香港の彼らには当事者意識がある。民主化というものを若い人が求めて、自分たちが生きてきた中で抑圧されてきたと思っています。香港の若者たちにはすごく当事者意識があると思います」

――絶望世代と自分たちの世代を表現されています。僕が19歳の頃は毎日が楽しくて仕方ありませんでした

「絶望の世代というのは年齢の幅でいうと15歳から25歳ぐらいまでかなと僕自身は思っています。社会システム的なところで言うと年金がもらえるかわからなかったり、社会保障のシステムがもう破綻しているとかだったりします」

「生まれてこの方、政治不信がずっと続いていたりとか、正直、経済がうまく行っているところがあまり見えてこず、かなり厳しい状況をずっと見てきたなという思いがあります。そういう中を生きてきて、社会的な一面でまず絶望というのがあるのかなと思っています」

「あと、僕たち自身の若者を見つめたときの絶望というのも一方ではあるのかなと思っています。意欲の低下というのが叫ばれている中でまわりの友だちを見ていても、今、慶応大学に通っているんですが、その同級生ですら、一流企業に入りたいだったりとか、安定志向みたいなところがあります」

「こういう世代がまた安定を求めて進んでいくと、今の団塊の世代とあまり変わらないところを目指していくわけで、そこに僕自身はある種、大きなこの国の将来に対する絶望だとか、期待値の低さというのを感じていて、その中で絶望の世代と言っています」

――「ぼくいち」は若者の政治参加を促していますが、きっかけは何だったんでしょう

同

「僕は15歳の頃から米国に留学していて、そこでオバマ選挙を見て、米国の若者がそこに参加して自分たちの意思を発言しているのを目の当たりにしました」

「日本に帰国したときに僕自身が政治経済の授業に入って参加したときにまわりの子たちがあまり興味がありませんでした。学外の友だちに政治の話をしても、みんな政治のことなんか考えなくても明日、明後日は来るし、そんなに触れる必要がないでしょうという反応でした」

「大学受験をしたりとか、進学校だったりとか、早慶や東大に行く子たちですらそう考えているからこそ、まずは、そういう子たちに対しても政治というものをもう一度考えなおしてもらって政治に対して興味や関心をもってもらおうと思いました」

「自分たちで自発的に行動を起こしてもらうような子たちを少しでも国内で増やしていきたいなと思って活動を始めたのが最初です」

――オバマ米大統領の大統領選挙は最初の方ですか

「最初の方です。現地にいてすごく感じたのは黒人で若くて本当に米国の大統領になることは当分ないだろうと言われていた人種の人が、コミュニティーの人がシカゴから出てきてのし上がってきました」

「そこに対して米国の、特に若者たちが期待感を抱きました。オバマ大統領の前がブッシュ大統領ということもあって、かなり政治不信が強まっていたなと友だちから聞いて僕自身感じていました」

「新しいアメリカンドリームのような、米国に対する新しい期待値が上がっていて、そこにオバマが登場してきました」

「普段は、政治はテスト前に勉強して、ディスカッションのときにちゃちゃっと済ませてしまう人たちですら自分たちが関わればオバマを勝たせることができるかもしれないというムーブメントが全米の中で広がりました。それがソーシャル・ネットワーク・サービス(SNS)の中で広がるのを目の当たりにしました」

――日本はレールに乗っていれば大丈夫だとみんなずっと思ってきたように思います。しかし、気がついてみればそのレールに乗っていても行き先がどこになるのかわからないような状況になってきていると思います

同

「本当に二極化しているなと思っていて、特に99%の人たちは正直レールに乗っていればいいのかなと思っていると、僕は全国の高校生、大学生に接してきて感じています」

「反面、1%の子たちが社会のシステムや、今のレールに乗せられていてもまずいんじゃないのかという意識に変わってきていると思います。両極端に二層化、構造が分かれていると感じています」

――僕はロンドンで暮らしていてインターネットで情報を集めていますが、青木さんの世代はどのようにして情報を収集していますか

「みんなあまり新聞を読んだりテレビを観たりする時間は減ってきていると思っています。クラスとか学校とかで、みんなどこでニュースを読んでるのと聞くと、ほとんどが学校に来る電車の中で時間が暇だからスマートホンでニュースを見ている子が多いと思います」

「僕はそれが一つの大きな問題を引き起こしているなと思っていて、最近、ヤフーのニュースをよくみると思うんですが、下にスクロールしていくとコメント欄があります」

「コメント欄がかなりネット右翼化しているというか、かなり荒れています。学校の友だちの話を聞いていると、『大和さん、このニュースを見て今日来たんだけれど、コメント欄にこういうことが書いていて、一番いいねがついていて、すごい賛同している人がいるんだなと思ったんだけど、これ、こういうことなのかな』と言うんです」

「『俺、これ、いいね着いているし、正しいと思ったんだけど、これそうなの』と聞かれて、『いろいろ他のニュースを見てみな』と言いました。『次の日、他のニュース見てみて、あれ、ちょっと偏っていたんだ』みたいなことを話すことがあります」

「慶応の子でしっかり受験をしてきて、いろんな側面から情報を見た方が良いと理解している子たちですら、そうなっています」

「ある程度、多くの子たちがニュースを見たときに、いいねがたくさんついているし、正しい意見なんだなと思っている子が多いのかなと思って、最近、若者の右傾化というのがそういうところから始まっているのではとすごく感じます」

――ネット上の多数意見に流されてしまうということでしょうか

「それはまさに強く感じます」

――それは大変ですね

「大変です」

――情報発信していく上で、そうじゃないんだよと意識しているところはありますか

「学校の友だちと話すと、最低でも二つのニュースを読んでみるとか、そういう文化というか教育というのがなかなか備わっていないなと思います。一つの物事をテレビからならテレビから入ってきた情報がすべてみたいなというのがあるのかなと思います」

「ここはしっかりと物事をいつかの側面から見て自分自身の考えや軸を作っていくというのが大事と思いながら伝えています」

――「ぼくいち」の運動はどれぐらいの広がっていますか

「ぼくいちほどの規模ではないんですが、小さく地元でやろうというのが全国25カ所から35カ所ぐらいに広がってきて、この2年間の活動を通して全国1万5千人強の子たちにはアプローチできました」

「海外ほど大きくはなっていないんですが、国内の中では少しずつ大きな形は作れているのかと思います」

――一番大きなのはフェイスブックやツイッターなんでしょうか、それとも口コミですか

「意外だったのは、何だかんだ言っても口コミが一番強くって、みんなフェイスブックやツイッターは見てくれてはいるんですが、結局は地元とかで僕たちのイベントとか主催する企画に来てくれた子たちが『面白かったから、行ってみなよ』と言ってくれます。口コミが一番、人が来る要因としては強いと思います」

――若い人たちにとって期待を持てる政治家は

「一番知っていて、この人に頑張ってほしいなと思うのは自民党の小泉進次郎さん。特に女子高生の間ではすぐに名前が出てくるかなと思います」

「野党でいうと民主党の細野豪志さんとか、リベラル不在のこの国の中で、そういうところをしっかり担ってほしいと思っている子もたくさんいます。多くの若い子たちが知っていて、パッと名前が出るのはその二人です」

――映画の中で、ゼロ党という計画を立てていましたが

同

「ちょうど映画の撮影が終わったあとに、僕自身もしっかり作っていこうという話になって、12月15日に再度、正式に記者会見を開きます」

「最初は政党という大きなところまで行かずに、全国の若者の声を定量的に集約してそれでしっかりと今の若者たちが何を考えていて、これからどういう指針を持っていかないといけないのかというのを提示していきます」

「初めはシンクタンクとまでは行かないですが、若者たちのデータをしっかり集めていくことをまず1年やろうという方針が決まりました。そこから将来的にはしっかり政党化させていきたいなと僕たち自身は思っています」

――「ぼくいち」の活動と「ゼロ党」の仕分けは

「『ぼくいち』の活動自体は政治的な中立性を保っていて、あまり政治の政策という部分には踏み込まずにこの2年間活動してきました。僕はそれも一つすごく大事だなと思っています」

「なぜかというと優秀な子たちですら政治に興味がない日本で、いきなり政党を作って政治に対して物申そうと言っても、なかなか着いてきて賛同してやっていこうという子がいません」

「まずは下の層、興味のない子たちの掘り下げだったり、開拓をしていく必要があると思っています。そこを担うのが『ぼくいち』で、そこから政策だったりとか、しっかり国に対して発言していく力を持っていくのがゼロ党かなと思います。そこはしっかり棲み分けしていこうと思っています」

――スコットランドの独立を問う住民投票がありました。スコットランド自治政府のサモンド首相は投票年齢を18歳から16歳に引き下げました。住民投票を通じて若者の政治参加を進めていこう、自分たちの未来を自分たちで考えてほしいという問いかけをしました

「僕自身は選挙権も被選挙権もともに18歳に引き下げてほしいと思っています。世界は18歳が主流になっており、20歳の日本は世界に比べて若者という水準がすごく遅れていると思います」

「これだけ若者の人口が少なくて、どう考えても生きていく年数が長いのは若者で、政治を考えるきっかけをつくらないところに僕自身はすごく憤りというか疑問を感じています」

「被選挙権も衆議院は25歳、参議院は30歳。世界では学生や高校生の政治家も珍しくなくなっている中で、わざわざ(衆議院の場合)被選挙権を25歳に設定する必要はないと僕自身はすごく思っています」

――英国の場合、市民の政治参加というのはすごく裾野が広くて、政党の党大会にはいろんな人たちが集まってきて、高校生ぐらいの人も演説します。日本の政党で若者の政治参加を働きかけているところはありますか

「あまりないですね。初め『高校生100人×国会議員』というのを全国から高校生100人を集めて、国会議員の人とのディスカッションイベントというのを僕が2年生のときに企画して高校3年の4月からずっと政党とか議員さんにお願いしたんです」

「どこもほとんど最初は話を聞いてくれずに、3カ月ぐらいホントに毎日通い続けてやっと話を聞いてくれるような感じでした。本当に興味ないんだなということを僕自身が高校生のころ実感しました」

――政党のターゲットは若者じゃなく、お年寄りになっているんでしょうか。ゼロ党の目標はどうなりますか

「1年目は、若者の声を聞いてどんな問題を社会に問いかけていくのかと考えます。僕たちは一番大きな問題になっていくのは社会保障だと思っています」

「社会保障の問題というのはどうしても構造的にわかりにくくなってしまっています。どこがどう問題なのかということを理解しきれていないと思います」

「社会保障というものをもう少し高校生や大学生にもわかりやすくした上で、街頭アンケートないしはネットでアンケートを取って、そこに対して若者が何を考えていて、若者の訴えとしてはどういう政策に持ち上げていくのが重要なのか、しっかり形を作っていきたいと思っています。ひとまず社会保障というところに焦点を絞ってやっていきたいと考えています」

――ターゲットとしてはどれぐらいの人たちを考えていますか

「25歳以下です」

――団塊の世代を中心にした政策、予算もそこに配分されていくと若い人たちにとって辛い時代が30年以上続くかもしれません

「僕がすごく最近、思ったのは孫世代は今のお年寄り世代と比べて1億円ぐらい損をしているとも言われます。僕たちがマイナス2千万円、彼らがプラス8千万円という中で、バスに乗ってもお年寄りは安くて、若者は高い」

「でも社会的に考えたら、あなたたちの方が今まで人生、優遇受けてきたのだから、お金を持っているのなら、お年寄りだけ安くするのはおかしいんじゃないかなと思ったりします」

「お年寄りの方が票になったりとか、お年寄りにやさしい国とか言いますが、若者が切り捨てられている気分になることが結構多くあります」

青木大和(あおき・やまと)

政治活動家。慶応大学法学部2年生。1994年生まれ。15歳で単身渡米。米国の社会活動に参加する中でオバマ氏の大統領選挙を目の当たりにする。帰国後「僕らの一歩が日本を変える。」を創設。2012年夏、討論イベント「高校生100人×国会議員」を国会議事堂で開催して話題を呼ぶ。

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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