英国など欧州3カ国が「イスラム国」攻撃に参加したホンネ

攻撃参加の有志連合は11カ国に

英下院は26日、賛成524票、反対43票で、イラクで勢力を拡大するイスラム教スンニ派過激派組織「イスラム国」への攻撃を事前承認した。イラク政府の要請を受けたもので、これまでイラク領空で偵察活動を行っていた攻撃機トーネード6機が有志連合の空爆に参加する。

デンマークは戦闘機F16を7機派遣する。ベルギー議会も26日、戦闘機や輸送機をイスラム国掃討作戦に参加させ、軍事支援を行うことを承認した。いずれもイラク国内に活動範囲を限定している。

オバマ米大統領は24日、国連総会での演説で「イスラム国は最終的に打倒されなければならない。米国は単独では行動しない。すでに40カ国以上が参加する意思を表明している」と述べた。

しかし、シリア国内での攻撃に参加しているのはサウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、カタール、ヨルダン、バーレーンの中東5カ国だけ。イラクでの攻撃に加わったのはフランス、オーストラリア、オランダに英国、デンマーク、ベルギーの6カ国。合わせて11カ国で、40カ国には程遠い。

トルコも軍事行動に必要な支援を提供する方針を表明。一方、ドイツは援助と訓練での協力にとどめている。

安倍晋三首相は日本時間26日午前、米ニューヨークで記者会見し、「武装勢力による攻撃を強く非難する。国際社会の戦いを支持し、米国などによるシリアでの空爆はやむを得ない措置であったと理解する。日本は難民支援や人道支援など軍事的貢献ではない支援を行っていく」と述べた。

オランド仏大統領との会談では、安倍首相は「イスラム国の存在は国際秩序全体を揺るがす深刻な脅威だ。今回の行動でイスラム国が弱体化、壊滅につながることを期待している」と強調している。

イラク戦争のトラウマ

参戦の根拠だった大量破壊兵器が実際には存在せず、英国兵士179人が犠牲になったイラク戦争のトラウマが英国には強く残っている。

昨年8月、シリアのアサド政権が化学兵器を使用したとされる問題で、英下院は、懲罰的攻撃の承認を求めるキャメロン首相の動議を反対285票、賛成272票で否決。労働党が突然、反対に回ったからだ。

英議会が軍事攻撃を止めたのは米国独立戦争終盤の1782年、首相の不信任決議案を可決して停戦して以来、231年ぶりのことだった。

今回、キャメロン首相は同じ轍を踏まないよう、機が熟するのを待った。英国の若いイスラム系移民が大量にイスラム国に流入、英国人ジャーナリストがイスラム国の過激派に公開処刑されたことで、慎重だった英国の国内世論は一気に軍事介入に傾いた。

スコットランドの独立を問う住民投票が終わるのを待った。最大野党・労働党のミリバンド党首がシリア国内での軍事介入に慎重なのを確認した上で、イラク国内に限定し、下院に軍事介入の是非を問うた。

英国の首相は軍事行動に関して、議会の承認を省いたり、事後承認でも可とするフリーハンドを残しているが、事実上、議会の事前承認を不可欠とする慣習が定着しつつある。

第二次大戦以来、米国との「特別な関係」を誇ってきた英国をはじめ、欧州の同盟国がシリア国内でのイスラム国攻撃に慎重なのは、シリアのアサド政権からの「援助要請」がない上、イスラム国を壊滅させればアサド政権を決定的に勢いづけてしまうからだ。

英国から作戦に参加するのはトーネード6機だけ。デンマークの7機に数で負けており、リビアに軍事介入したときの規模に比べても極めて限定的だ。「英米の特別な関係」はもはや遠い過去の話になってしまったことを改めて印象づけた。

イスラム国の戦士は3万1千人。このうち3千人は欧州から参戦した若者たちだ。彼らは「カリフ国」建設という熱狂に浮かされている。いずれ欧州でテロの脅威を拡大させる存在になる。

今回の攻撃参加は、単に米国の有志連合に参加したというアリバイ作りなのか、それともイスラム国壊滅に本腰を入れるということなのか、英国の本音は疑わしい。

オバマ大統領の最終ゴールは

オバマ大統領はイスラム国の「弱体化と壊滅」を作戦の目標に掲げている。アフガニスタンとイラクという2つの戦争の終結を掲げてきたオバマ大統領が方針を180度転換し、新たな戦争を始めたホンネはいったい何なのか。

リビア(石油輸出量の日量33万バレル、2013年7月時点)内戦やウクライナ危機では「後部座席」外交に徹してきたオバマ大統領だが、イラク(同約350万バレル、13年末時点)は米国がイラク戦争を始めた道義上の責任から先頭に立たざるを得なかったという事情がまずある。

米国人ジャーナリスト2人がイスラム国に公開処刑され、強硬な国内世論が高まり、米国の中間選挙を控えるオバマ大統領は断固たる行動を求められていた。

イスラム国がイラクの石油を資金源にさらに勢力を増せば、これまでイラク民主化のために費やしてきた米国の膨大な血と汗と資金が無に帰してしまう。

ブッシュ前米大統領は「対テロ戦争」というスローガンを前面に出し、イスラム対西洋という「文明の衝突」の構図をあおってしまった。オバマ大統領はサウジアラビア、UAE、カタールなどスンニ派諸国を巻き込み、イスラム対西洋、宗派対立という色彩を打ち消している。

しかし、「イスラム国の弱体化と壊滅」という目標設定はあまりにも近視眼すぎる。オバマ大統領は長期化の覚悟を示しているが、軍事介入の最終的なゴールはイラクとシリアの平和と安定の回復である。

無主地の秩序

国連の潘基文事務総長は日本時間24日未明、「シリア政府に事前通知された上、地元政府の実効支配が及んでいない場所で行われた」と米国と中東5カ国によるシリア軍事介入に理解を示した。イスラム国の弱体化で利益を受けるシリアのアサド政権も介入に反対しなかった。

日本の立場はシリア軍事介入に関しては「理解」にとどまっている。

潘氏の発言は非常に微妙だ。ロシアのプーチン大統領の意向に沿ってアサド政権を正当な政府と認める一方で、「無主地」の秩序回復には事前通知と当事国の消極的な承認で十分との見方を示し、オバマ大統領を支持したと受け止めることもできる。

問題は対テロ戦争や中東の民主化運動「アラブの春」の影響で中東やアフリカなどに「無主地」が次々と出現していることだ。どうしてイスラム系移民の若者たちがイスラム国に吸い寄せられるのか、欧米社会は過激化の原因とプロセスを完全に解明しているわけではない。

米国はシリア国内でのイスラム国空爆について、「国連憲章51条に基づく自衛権行使」とし、イラクの援助要請に基づく「集団的自衛権」と、自国民を殺されたことやテロ計画を予防するため「個別的な自衛権」を行使したと説明している。

これは、オバマ大統領によるイラクからの拙速な撤収が招いた泥縄式の軍事介入ではないのか。アフガニスタンでも同じ間違いが繰り返されないか。

「自衛権」という法的根拠以上に大切なのは、イスラム国を壊滅させたあとイラクとシリアにどんな国家を建設するかである。イラク戦争とイスラム国出現の失敗を繰り返さないために、有志連合を率いるオバマ大統領は「無主地」の秩序回復とイスラムの過激化防止という大きな戦略を国際社会に示すことが求められている。

(おわり)