Yahoo!ニュース

英国、放火でワンちゃん53匹焼死 3日で寄付2億円超える

木村正人在英国際ジャーナリスト

11日夕、英国中部のマンチェスターにある捨て犬や迷い犬の民間保護センター「マンチェスター・ドッグズ・ホーム」から異常な犬の鳴き声がするのに近所の住民が気づいた。

このドッグズ・ホームは1883年にオープン。開所以来、100万匹以上の犬を預かり、新しい家族を探しては引き渡している。深い愛情を注がれてしつけられた犬は激しく吠えることは少ない。

しかし、その日は200匹以上の犬が一斉に大きな声で吠え出した。そんなことはこれまで一度もなかった。近所の住民が飛び出したところ、施設から煙が立ち上っていた。

「このままでは犬が丸焼けになってしまう」。住民たちは消防車を呼ぶとともに、高さ3メートルのフェンスを乗り越え、犬舎の扉を蹴破った。室内には煙が充満していた。

尻込みする犬を抱きかかえ、噛まれた住民もいた。結局、150匹以上が近所の住民やボランティア、消防士、警察官に救助された。

犬舎の大半が焼け落ち、53匹が焼け死んだ。放火だった。容疑をかけられた15歳の少年が逮捕された。救出された犬は車で30分ほどの姉妹施設、チェシャー・ドッグズ・ホームに移された。

炎に包まれた犬がトラウマに苦しまないように、専門のボランティア120人が駆けつけた。

焼け落ちた犬舎を建て直すため、地元紙マンチェスター・イブニング・ニューズがオンラインで募金を呼びかけたところ、13日現在で130万ポンド(2億2700万円)が集まった。

英紙ガーディアンの記者は「もちろん15歳の少年が放火しなければ53匹の犬が死ぬことはなかった。しかし、何百人の愚かな人が飼い犬を捨てなければ、犬はドッグズ・ホームに来ることはなかった」と報じた。

英国にはこれまでのエントリーで紹介した「バタシー・ドッグズ&キャッツ・ホーム」をはじめ、全国19カ所のセンターで1万6千匹を世話するドッグズ・トラストなど、多くのアニマル・シェルターがある。

今回の放火事件は本当に悲しい出来事だが、わずか3日で2億円以上の善意が集まったことに少し救われた思いがした。

(おわり)

日本の犬と猫のいのちを守る物語はこちらから。

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

木村正人の最近の記事