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中国の同盟国は北朝鮮とカンボジアとカンボジアとカンボジアだ

木村正人在英国際ジャーナリスト

21世紀の世界をリードするのは米国か、中国か――。

トップ20のうち15カ国は米国の同盟国

新著『Still Ours to Lead』を上梓した米シンクタンク、ブルッキングス研究所のブルース・ジョーンズ上級研究員が17日、ロンドンの英王立国際問題研究所(チャタムハウス)で講演した。

ジョーンズ氏は米国が唯一の超大国だった時代は終わったものの、世界経済トップ20のうち15カ国は米国の同盟国で、米国がリードする国際秩序は生き残ると予測する。

米国はグローバル化に対応しているため、20世紀に崩壊した大英帝国と同じシナリオはたどらないと分析し、米国は依然として世界で最も影響力を持つプレーヤーだと語る。

これに対して、新興国のBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)は結束を欠いており、「中国の同盟国は北朝鮮とカンボジアと、カンボジア、カンボジアだ」と皮肉った。

「米国が衰退、新興国が台頭し、西側に対抗するというシナリオは誇張に過ぎない。米国のリーダーシップはこれまでも容易だったことはない。これからも容易ではないだけだ」という。

「Gゼロ」時代は来ない

中国の影に隠れて目立たないものの、韓国、トルコ、インドネシア、ドイツも急成長した。

米政治学者イアン・ブレマー氏が予言する「Gゼロ(指導者なき世界)」ではなく、米国が西側の中心となり努力して世界をリードする時代に入っているという。

欧州連合(EU)は債務危機に見舞われ、ウクライナ危機で米国の同盟国であるドイツやフランスが経済関係に配慮してロシアに対して宥和的な態度をとる。

アジア・太平洋地域でも、米国の同盟国の韓国とオーストラリアは中国との経済関係を重視する。

安全保障では米国と同盟関係を結んでいるのに、経済ではロシアや中国を大切にするというジレンマを抱えている。しかし、その一方で、インド、ブラジル、インドネシアは米国の友人ではないが、敵対しているわけでもない。

米国のリーダーシップを削ごうとしている中国でさえ、多くの外交問題では、米国とその同盟国と協力する道しか残されていない。中国が本気で米国を追い落とそうと考えるのは、他の国が中国に追従するときだけだ――とジョーンズ氏はみる。

中国に代表される新興国が経済成長を維持しようと思ったら、世界経済と国際システムの安定、航海と航空の自由が不可欠だ。それは新興国の力だけでは達成できず、米国を中心とした西側の指導力が求められる。

たとえば、湾岸諸国の石油を輸入する中国はシーレーン(海上輸送)の安全を西側諸国に依存しているのだ。中国もロシアも米国への挑戦を抑制しなければ、安定と成長を手にすることができない。

スノーデン事件の影響

ジョーンズ氏は「米国の強みは広範囲に多種多様な同盟関係を構築するユニークな能力だ」という。しかし、米国が体現する自由と繁栄のパーセプションが衰退し、深刻な財政問題が足かせとなっている。

米国家安全保障局(NSA)の監視プログラムを暴露したスノーデン事件で、米国と同盟国の間に心理的な亀裂が入った。

シリアに続いてウクライナのクリミア編入でも地政学に基づき行動したロシアのプーチン大統領は西側との対決姿勢を鮮明にしている。しばらく世界は地政学的な競争と21世紀型のウィンウィン経済という複雑な状況が共存することになる。

最大のリスクは、ウクライナ問題で中国やインドが力による現状変更を快く思っていないにもかかわらず、西側にも賛同しないなど新興国が独自の行動をとる傾向が強まっていることだ。

中国は賢明に行動するか

筆者は「東シナ海や南シナ海では領土問題が過熱している。安全保障では中国が力による現状変更を試みないように抑えこみ、経済では関与を続けるという政策は破綻しているのではないか。経済力をつけるほど、中国は傍若無人に振る舞うようになる」と質問した。

これに対して、ジョーンズ氏はこう語る。

「米国は尖閣諸島をめぐって恐ろしい状況に追い込まれた。中国が尖閣を占拠した場合、米国は最も近い同盟国のサイドに立つのか否かという究極の問いを突き付けられた。日本とともに行動を起こさなければ同盟国を失い、日本サイドに立てば中国を怒らせる」

「しかし、中国が昨年、尖閣を含む東シナ海上空に防空識別圏(ADIZ)を設定した後、(核搭載能力を持つ)B52戦略爆撃機軍用機2機を飛行させた。日米安全保障条約に基づき、米国は尖閣防衛義務を負うとも明言した。これで米国の立場ははっきりした」

「(安全保障上の安心を改めて与える)再保証問題など同盟国への対応がなっていないとオバマ米政権は批判されるが、同盟国にも米国への配慮が求められる。中国が設定した防空識別圏を民間航空機が通過する際、飛行計画の事前提出に応じるか否かの問題は、日米間の対立を表面化させるよりも、水面下で協議すべき問題だ」

21世紀の国際秩序は、米国と同盟国の同盟力がカギを握る。ウクライナ問題では対ロシア外交をめぐる米国と欧州のミゾがプーチン大統領につけ入るスキを与えた。

アジア・太平洋でも、中国との経済関係を優先する韓国やオーストラリア、領土問題で中国と対峙する日本、フィリピン、ベトナムとの間に距離ができている。日本にとっては韓国との関係を修復し、日米韓の安全保障トライアングルを機能させることが急務だ。

さらに、新興国のインドを日本と米国が取り込めるかどうかが大きなカギを握る。

中国の習近平国家主席が進める「経済のリバランス政策」が今後、中国共産党内部、中央と地方政府の間で凄まじい権力闘争を引き起こしていく政治リスクは否定できない。リスクのはけ口が、歴史問題のシンボルに祭り上げられた尖閣に向けられる恐れは十分にある。

中国が「経済のリバランス」を成功させ、成長を維持するためには地域の安定と周辺諸国との友好関係が不可欠だ。しかし、「強兵路線」を進め、プーチン大統領との関係を強化する習近平氏の中国は、ジョーンズ氏が分析するようには行動していない。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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