ついに出た!これが尖閣の安倍ドクトリン【安倍首相訪欧】

国際司法裁判所を提案

IISSで講演する木原政務官(筆者撮影)
IISSで講演する木原政務官(筆者撮影)

日本の木原稔(みのる)防衛大臣政務官が2日、ロンドンにあるシンクタンク、国際戦略研究所(IISS)で講演し、質疑応答の中で沖縄・尖閣諸島をめぐって、「私の個人的な考えも入っているが」と断った上で、「本気で解決する時期が来れば、国際司法裁判所(ICJ)というものがある」と語った。

会場には中国のテレビ局も取材に来ており、木原政務官も承知の上での発言だった。「日本政府の立場とは異なる」(外交筋)ものの、木原政務官は世界中のメディアが集まる国際都市ロンドンから、「法の支配」と「国際秩序」を順守する日本の立場を明確に発信した。

木原政務官は「個人的な考え」と言ったが、これはどうみても、衆人環視の中、安倍晋三首相から中国の習近平国家主席に送られたメッセージと受け止めざるを得ない。「国際司法裁判所での解決」については谷内正太郎・内閣官房国家安全保障局長が就任前に言及したことがある。

しかし、外務省の公式見解は「領土問題は存在しないというのが日本の立場。国際司法裁判所での解決を日本側から提案することはあり得ない」というものだ。

民主党政権下、玄葉光一郎外相(当時)が2012年11月、米紙ニューヨーク・タイムズへの寄稿で「どうして日本は国際司法裁判所に提訴しないのかと質問されるが、日本は国際法に基づき尖閣諸島を有効支配している。その疑問は領有権を主張する中国に向けられるべきだ」と説明している。

「中国はどうして国際司法裁判所の管轄権を受け入れるいかなる兆候も示さないのか。どうして中国は国際司法裁判所に提訴しないのか」と玄葉外相は指摘した。

日本は国際秩序を守る国だ

これに対して、木原政務官の発言は、中国に「国際司法裁判所での解決」を呼びかけているように聞こえた。正確を期すため、その部分を起こしてみよう。

質問したのは元中国外交官でIISS中国・国際関係コンサルティング上級研究員を務めるWenguang Shao氏だ。こんなところにも人材と資金を投入する中国外交の懐の深さがうかがえる。Shao氏の質問は洗練され、非常に計算されていた。

問い「トウ小平は領土問題を棚上げした。尖閣危機を起こしたのは中国ではない。日本政府には別のやり方があったと思うか。危機から学ぶ教訓は何か」

木原政務官「尖閣における日本の立場は領土問題ではないという立場だ。しかしながら、近年、天然ガスなど日本の領海または接続水域付近に中国のあらゆる船が頻繁に来るようになった。中国の防空識別圏(ADIZ)の設定など近年になって尖閣周辺にさまざまな問題が起きている」

「日本から仕掛けた問題ではないと考えている。領土問題を含めた歴史問題というのはおそらく双方の国でどれだけ話し合っても並行線をたどることが予想される。だからトウ小平はずーっと並行線のままで行きましょうとおそらく言ったのだろう」

「しかし、もしそれを解決しなければいけないという時期がやってきた場合には、これは決して戦争による解決であってはならないと思う。私の個人的な考えも入っているが、どうやって解決するかとなると、一つの方法として、私のアイデアだが、国際司法裁判所というものがあると思う」

「オランダのハーグにある国際司法裁判所で先般、クジラの問題で、残念な結果になったが、南極海において日本は(調査)捕鯨ができなくなった。日本はクジラを食べる文化があるが、国際司法裁判所で決まった判決だから守る」

「なぜなら日本は法の支配が行き届いており、そして国際秩序を守る国だからだ。だから領土問題も国際司法裁判所に提訴するという方法がある。しかし、通常の裁判所と違って、原告も被告も両方が承認しなければ訴訟は始まらない」

「本気で解決をするという時期が来れば、国際司法裁判所ということも考えられるという私のアイデアを紹介した。中国がそれに応えるかどうかはわからない」

尖閣問題をめぐるシナリオは大きく分けて3つある。(1)中国が不法占拠を強行し、紛争に発展(2)棚上げ状態に戻す(3)天然資源の共同管理や国際司法裁判所などで解決――である。

(1)のシナリオはオバマ米大統領が「尖閣防衛義務」を明言したことでなくなった。中国は米国との軍事衝突は考えていない。

中国の立場は、とりあえず(2)の状態に戻して、日本への揺さぶりを続ける。これに対して、日本は(3)の「法の支配」による解決を非公式に中国に投げかけた形になった。

「普通の国」に

訪欧中の安倍晋三首相は1日、キャメロン英首相との首脳会談で、(1)外務・防衛担当閣僚級協議(2プラス2)の早期開催(2)防衛装備品の共同開発の促進(3)物品役務相互提供協定(ACSA)締結に向けた交渉開始――で一致した。

これは、日米同盟による尖閣の防衛義務という「内堀」を強固にした上で、2プラス2や防衛装備品の共同開発、ACSAを通じて英国、オーストラリア、フランスなどとの安全保障協力という「外堀」を築いていく日本の安全保障戦略をより鮮明にしたものだ。

中国の軍備増強でアジア・太平洋の安全保障環境は一変した。中国に配慮するオバマ大統領の優柔不断さから日本は「内堀」も揺らぎかねない状態だった。日本は「内堀」についてオバマ大統領の口からはっきり明言してもらうよう働きかけるとともに、地道に「外堀」を築いてきた。

木原政務官の講演を聞いていて、日本も湾岸戦争以来の課題だった「普通の国」に近づいてきたことを実感した。インド系参加者から「日英両国の防衛協力強化はフィリピン、ベトナム、インドネシア、マレーシア、インドなど中国との間で領有権を抱える国々にとって非常に心強い」と称賛の声が上がった。

日本国内では安倍首相の防衛・安全保障政策に対する批判が強いが、国際的な基準からみると、100点満点ということだ。筆者は7年間、ロンドンで防衛省や自衛隊の駐在文官・武官の方々の活動を見てきたが、本当に地道な努力が実って良かったと思う。

世界が注目する国際舞台で、中国に押されることが多かった日本が初めて見事に押し返してみせた。説得力のある木原政務官のプレゼンテーションには参加者から「素晴らしい」という感想が寄せられた。

英国に関して言えば、日本にまったく関心がなかったブラウン労働党政権から知日派が多いキャメロン保守党政権に交代したのを機に、在英日本大使館が中心になって安全保障協力を働きかけてきた。

英国は防衛大手BAEシステムズが航空自衛隊の次期主力戦闘機に第4・5世代戦闘機ユーロファイターを売り込むのに失敗。キャメロン政権には、日本との安全保障協力を、将来、日本の防衛市場に参入する足掛かりにしようという思惑もある。

「外堀」の構築

「外堀」がどこまで築かれているかをざっと確認しておこう。

【2プラス2】

米国、オーストラリア、ロシア、フランス、英国

【防衛装備品の共同開発】

米国、英国、オーストラリア(交渉入りで合意)、フランス(同)

【ACSA】

米国、オーストラリア、カナダ、英国(交渉開始)

筆者は、米国の国家安全保障局(NSA)、英国の政府通信本部(GCHQ)を中核にカナダ、オーストラリア、ニュージーランドを加えた「ファイブ・アイズ」(スパイ同盟)の英語圏5カ国との関係を強化するのは非常に重要だと考える。

陸・海・空と宇宙空間に次ぐ「サイバー空間」が無限に拡大する中、「ファイブ・アイズ」とサイバーセキュリティの強化で協力することは、サイバー空間でどちらの側につくかを大きく決定づける。中国は「ファイブ・アイズ」とは相容れない。

安倍政権は4月1日、武器輸出3原則に代わる「防衛装備移転3原則」を閣議決定するなど、「外堀」を築く動きを加速させてきた。

中国が台頭し、米国に衰えが見える中、日本は日米同盟を補う形で独自に安全保障を強化する必要に迫られている。限定的に集団的自衛権の行使を容認しようという議論もこの延長線上にある。

安倍首相は4月7日、オーストラリアのアボット首相との首脳会談で、防衛装備の共同開発に向けた交渉入りで正式合意した。最初の防衛装備・技術協力として、船舶の流体力学分野に関する共同研究を進める方針だ。

共同通信の報道では、今回の訪欧で5月5日に予定されているフランスのオランド大統領との首脳会談で警戒監視に使う無人潜水機の共同研究の開始で合意する方向で調整している。水中で長時間の警戒監視活動ができる無人潜水ロボットの燃料電池など関連技術を想定しているという。

対中武器輸出への歯止め

欧州連合(EU)は1989年の天安門事件以降、対中国武器禁輸措置をとった。しかし、民生品としても使用できるものはEUの禁輸対象外とされた。

ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)のデーターによると、2008~12年に、フランスは対空ミサイル、ヘリのユーロコプター、艦載レーダー、フリゲート用ディーゼル・エンジンのライセンス生産を中国に認めている。

英国は戦闘機に使用できるターボファン・エンジンのライセンス生産を中国に認めていた。ドイツは戦車に使えるディーゼル・エンジンを中国に輸出していた。

防衛装備品の共同開発には、中国への武器輸出にブレーキをかけたいとの本音も込められている。

(つづく)