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「尖閣防衛義務」初明言 オバマ来日7つのポイント【日米首脳会談】

木村正人在英国際ジャーナリスト

アメリカのオバマ大統領は読売新聞との書面インタビューに、沖縄・尖閣諸島について「日本の施政権下にあり、日米安全保障条約5条の適用対象だ」と明言した。

これまでのクリントン、ケリー各国務長官発言に沿ったものだが、オバマが尖閣諸島に対して日本防衛義務を定めた安保条約の適用を明言するのは初めてのことだ。

「アメリカの政策は明確だ。尖閣諸島は日本の施政権下にある。日本の施政権を揺るがす、いかなる一方的な試みにもアメリカは反対する」

「沖縄にアメリカの海兵隊が駐留していることが相互の安全保障にとって決定的に重大だ。海兵隊は日本防衛のカギとなる役割を果たしている」

このようにアメリカのFOXニュースはオバマの発言を伝えている。

オバマのアジア4カ国歴訪について、英紙フィナンシャル・タイムズ(電子版)は23日、10のポイントを挙げる。この中から日本に関係する7つのポイントを拾って、筆者の視点を加えてみた。

(1)どうかアジア・ピボットを忘れないで。

オバマの日本、韓国、マレーシア、フィリピン4カ国歴訪の狙いは、「アジア・ピボット」と呼ばれるアメリカのアジア回帰政策は信じて大丈夫なんですよ、と同盟国を含めアジア諸国に保証することだ。

でも、ウクライナ問題への対応を見ると、本当に大丈夫なの? と思わざるを得ない。アメリカのセオドア・ルーズベルト大統領(1858~1919年)の外交政策が「棍棒外交」と呼ばれたことは広く知られている。

「手に持っている棍棒(砲艦)がデカければ、口調は穏やかでも相手は言うことを聞いてくれる」というのが棍棒外交の真髄だ。しかし、オバマの場合、棍棒がやたら小さくて、メガホンで「外交」「外交」と叫んでいるに過ぎない。

シリアのアサド大統領もロシアのプーチン大統領もオバマの「掛け声外交」には耳を貸さない。所詮、「掛け声倒れ」に終わることがわかっているからだ。

果たして「ピボット・アジア」は、「ピボット・ヨーロッパ」「ピボット・ミドルイースト(中東)」より重視されるのか。

口の悪いコラムニストは、オバマには「ピボット・アメリカ(アメリカ回帰政策)」が精一杯と皮肉る。確かに、オバマは民主党と共和党が激しく対立する米議会の対応に手を焼いて、国内問題の処理に四苦八苦している。

(2)日本の防衛力を強化する安倍晋三首相を支援して。

オバマは中国との対立を避けるため、口を濁す可能性がある。冒頭の「尖閣防衛義務」発言でも、「中国」を名指ししなかった。

しかし、アジアの安全保障を確かなものにするには、減り続けた日本の防衛費を増やし、集団的自衛権の行使を容認しようとする安倍首相を明確に支持する必要がある。

カギは、安倍首相が主張する限定的な集団的自衛権行使の容認をどんな形でオバマがサポート表明するかだ。

(3)TPP交渉の進展を。

日本の農業問題で協議が難航している環太平洋経済連携協定(TPP)交渉を少しでも前に進めなければならない。大きな進展は望めないにしても、日米両首脳のリーダーシップで一歩でも前に進める姿勢を打ち出す必要がある。

(4)尖閣問題で日本支援を。

これは冒頭のオバマ発言を日米首脳会談の場で確認することになるだろう。アメリカは基本的には2国間の領土問題には立ち入らないとの立場を崩していないが、沖縄・尖閣諸島が日本の施政権下にあることを認めている。

「力づくの現状変更は認めない」というオバマの力強いコミットメントが求められている。

(5)日本と韓国の緊張緩和を。

従軍慰安婦問題や安倍首相の靖国参拝で、こじれにこじれた日韓関係をどこまで修復できるのかも、オバマのアジア歴訪の大きな課題だ。

韓国には韓国の主張があるにせよ、日本はもっと謙虚にならなければというのが筆者の考えだ。嫌悪や侮蔑は何も生み出さない。

来年の戦後70年に向け、日本が従軍慰安婦や靖国参拝など歴史問題で事態を好転させるのは非常な困難を伴うだろう。

アジアの安全保障を考えるとき、日韓の国民感情の悪化が日米韓の安全保障トライアングルの阻害要因になっている。

安倍首相は「中国の脅威」を言い立てるだけでなく、韓国との関係修復の努力を怠ってはならないのではないか。あきらめは禁物だ。

(6)北朝鮮の核・ミサイル開発対策。

韓国国防省は22日、北朝鮮が3回の核実験を行ったプンゲリの実験場で「現在、多くの活動が確認されている」と発表した。オバマのアジア歴訪に対する露骨な牽制だ。

万が一、歴訪中に北朝鮮が核実験を強行すれば、オバマがどんな対抗措置をとるのかについても世界は注視している。

ロシアが北朝鮮の債務109億6千万ドルについて約9割を帳消しにしたと報じられた。こうした動きは間接的に北朝鮮の核・ミサイル開発を助けるだろう。

世界は地政学の力学に基づいて動き始めていることを忘れてはならない。

(7)中国問題。

中国は今回のアジア歴訪には含まれていない。秋に予定されているからだ。

中国の劉暁明・駐英大使は今年1月、英高級紙デーリー・テレグラフへの寄稿で人気映画シリーズ「ハリー・ポッター」の悪役ヴォルデモートを例に引いて、安倍首相の靖国参拝を非難した。

「侵略の過去を否認する日本は、世界平和への深刻な脅威になっている」

「魂を分割した7つの分霊箱(ホークラックス)を破壊され、ヴォルデモートは死んだ。軍国主義が日本のヴォルデモートのようなものなら、靖国神社は、国家精神の最も暗い部分を体現する分霊箱のようなものだ」と訴えた。

混乱を巻き起こすとの恐怖心から、イギリスの魔法界では誰も「ヴォルデモート」の名を口にすることがなくなった。オバマが今回のアジア歴訪でどこまで中国の脅威について言及するのかはわからない。

しかし、アジアというより世界の地殻変動の発信源は、アメリカの衰退と中国の台頭であることを疑う人はいない。

「世界のヴォルデモート」というべき存在になった中国が力づくでアジアの現状を変更しないよう歯止めをかける。それがアジア歴訪の核心であることをオバマには忘れないでほしい。

古代中国の兵法書『司馬法』に、「国雖大好戦必亡」(国大なりといえども戦を好めば必ず亡び)、「天下雖安忘戦必危」(天下安なりといえども戦を忘れれば必ず危し)という名言がある。

英キングス・カレッジ・ロンドン大学にある戦争研究の教室には、この名言をしたためた墨書が飾られている。

安倍首相は侵略された国家の国民感情を逆なですることがどれだけ無意味で危険なことか、そろそろ悟るべきだ。中国も日本も『司馬法』の言葉を胸に刻み、安全保障対話を再開する最大限の努力をするときだ。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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