「報道の自由度」59位は何を物語るのか

国際ジャーナリスト団体「国境なき記者団(本部パリ)」が12日公表した「報道の自由度」指数(世界180カ国・地域)で日本は順位を前年の53位から59位に下げた。

東日本大震災の福島第1原子力発電所事故で情報公開と報道への信頼が大きく揺らいでいるところに、昨年12月の特定秘密保護法成立が追い打ちをかけた格好だ。

日本のランキングは2010年の11位、11~12年の22位からつるべ落としになっている。国境なき記者団はこう指摘する。

「特定秘密保護法が成立したことで、タブーになっている原子力や対米関係のような重要な国家事項について政府の透明性を減じるだろう」

「立法府が望まぬ暴露を避けるのに熱心になることで調査報道、公共の利益、情報源の秘匿のすべてが犠牲にされる」

2014年ランキングの日本の前後を見ると欧州では54位セルビア、64位ハンガリー(ちなみに韓国は57位)。日本がセルビアとハンガリーの間というのは、かなり低い。

ハンガリーといえば、オルバン首相が2010年12月、政権に批判的な左派・リベラル系メディアの口を封じるため、メディア規制法を成立させて大騒ぎになった。

政府に属する評議会が「バランスを欠く報道」と判断すれば、新聞・雑誌、インターネット・ニュースに最大2500万フォリント(約1128万円)、テレビやラジオには最大2億フォリント(約9022万円)の罰金を科すことができるという内容だった。

採決の際、議場には「報道の自由 享年21」のプラカードが掲げられ、野党議員は口にテープを貼って抗議した。ブダペストの広場では1万人の抗議集会が開かれた。

独全国紙ウェルトは「独裁と反ユダヤ主義が台頭した1930年代の映画が再び始まったかのようだ」と懸念をあらわにし、米紙ワシントン・ポストも「プーチン化するハンガリー」と題して「新メディア法はロシアやベラルーシ並み」と批判した。

結局、オルバン首相は11年3月、外国メディアを対象外にする修正案を可決し、欧州連合(EU)との関係改善に努めた。

一方、日本でも安倍晋三首相の肝いり人事といわれるNHKの籾井勝人会長、百田尚樹経営委員の歴史認識をめぐる問題発言が相次ぎ、海外からは「NHKの独立性」に疑念を唱える声が上がっている。

ランキングが148位だったロシアではプーチン大統領が昨年12月、事前通告もせず、同国内最大の通信社、リア・ノーボスチ通信を解体した。

知人のノーボスチ通信ロンドン支局長はフリーランスになり、地道に活動を続けている。いろいろロシア関係の情報を提供してくれていた若手記者は英国籍を取得、国際コンサルタント会社に転職した。

では日本でハンガリーやロシアのような形で報道の自由が損なわれていくかと言えば、そんなことはないと思う。それより心配なのは報道機関が自壊していくことだ。

先日、産経新聞神戸総局の1年生記者が交際中の女性に暴行を加えて逮捕された。筆者も振り出しは神戸支局(当時)だったので強いショックを受けた。

女性に暴力をふるうのはもってのほかだが、当の記者が容疑を否認しており、男女間のことなので示談の可能性もある。断定的なことはまだ言えない。

ある大手新聞の方と話していて驚いたのだが、今、新聞記者の希望者はかつてより一桁少なく、筆記試験とは名ばかりで、受験者全員が面接に進むことができるのだという。

さらに女性の比率が7~8割にのぼり、永久就職を希望する男性は新聞社を回避する傾向が強く現れているそうだ。地方紙でも新入社員は女性が圧倒的に多いと聞いたことがある。

筆者が主宰する勉強会「つぶやいたろうジャーナリズム塾」の塾生も女性が多数を占めている。

体力勝負の新聞社が確保できる男性社員の質は昔に比べてかなり下がっているのではないだろうか。女性が将来、新聞社で活躍して社会に影響力を持つのは良いことだが、まだ大きな問題が残っている。

デジタル・ジャーナリズムへの対応の遅れである。

28年余勤めた新聞社を早期退職し、12年8月からブログで情報発信を始めた筆者には3つのこだわりがある。

インターナショナリズム(国際主義)、インディビデュアリズム(個人主義)、そしてインターネットだ。国際都市ロンドンは、3つの「I」を実験的に実践してみるには最高の舞台である。

ブログを書き始めた当初、筆者のページビュー(PV)は1日3PV程度。要するに家族しか読んでくれる人がいなかったわけだが、昨年は累計で1500万PVを突破した。

11日、それぞれロンドンで講演された慶応大学の細谷雄一教授(国際政治学)、政策研究大学院大学の竹中治堅教授からも「ブログ、読んでいますよ」と声をかけられ、すっかり恐縮してしまった。

欧州に出張しても、ロンドンで会合に顔を出しても、自分のことを知らない人はほとんどいなくなった。こんなことは新聞記者時代には考えられなかったことだ。

日本では新聞各社が強力で大掛かりな専売店網を抱え込むため、即売店中心の英国ほど新聞のデジタル化が進んでいない。

日本の新聞が「紙」から「ネット」へ完全に移行するには、さらに10年以上の歳月を要するという予想すらある。

英国の新聞がネットにカジを切らざるを得なくなったのはメディアの巨人BBCが「いつでも、どこでも」を合言葉に一気呵成に放送のオンライン化を進めたからだ。

メディアを制する者は世界を制す、というフロンティア精神が英国には息づく。新聞ではガーディアン紙が1999年、「アンリミテッド(無制限)」と銘打ち、「紙」の新聞には翌日掲載されるニュースを前日から流し始めた。

オカネを払わなくてもネットで記事を読めるようになるのだから新聞社の販売収入は激減した。が、その一方で報道の可能性は劇的に拡大した。

誰もがニュースの発信者になれる市民ジャーナリズム。告発サイト「ウィキリークス」や米中央情報局(CIA)元職員スノーデン氏の機密情報をもとにした報道、そして各国メディア間の連携。

デジタル化されたデータをコンピュータで解析して問題の核心に切り込むデータ・ジャーナリズムとデジタル・インベスティゲーション(調査)。

新聞のデジタル化、政府や国際機関のデータのオープン化でジャーナリズムはものすごいスピードで発展している。

スノーデン氏が持ちだした機密資料を報道するガーディアン紙の情報処理スピード、規模、質は10年前には想像もできなかったレベルに達している。

報道の世界も他分野と同様、「高・高速化」「高・高度化」「高・専門化」が進む。

英語は世界の共通言語だ。ネット上に蓄積される英語のデータ量も天文学的なスピードで増えていく。

これをコンピュータで処理して報道する欧米メディアに、ガラパゴス化した日本メディアが追いつけるとは筆者には思えない。

「紙」の新聞をできるだけ長く生きながらえさせることに主眼を置く日本の新聞社は欧米の進歩に太刀打ちできなくなっている。

新聞経営者は自分の老い先を考えるのが精一杯で、ジャーナリズムを目指す若者の未来を何一つ考えていない。1年生記者の逮捕は、新聞社のそんな現状を物語っているように思えてならなかった。

「公平で、少しでも住みやすい社会を築こう。そのためには情報の共有が必要だ」という志がジャーナリズムを支えている。筆者には特定秘密保護法や安倍首相のNHK人事への介入以上に、報道の現場で起きている劣化と士気の低下が気にかかる。

(おわり)

(参考)英国ニュースダイジェスト「第27回データ・ジャーナリズムに入門」