日米欧を覆う右傾化のワナ「さまよえる靖国」(18)

ヤマモト ジュンさんのYahooニュース個人へのコメント

「中国経済は二つの事は確定事項と言われている。一つはルイスの転換点を過ぎ、もはや『世界の工場』の地位をASEANやインドに奪われつつある事、もう一つは中国経済を支えてきた不動産バブルの崩壊が始まった事である」

ジュンさんの予想通り事が運べば良いのだが、中国の経済成長は7%台にペースダウンしながらもしばらく続くだろうというのが国際金融都市ロンドンの見方だと思う。シャドーバンキング問題は米国も日本も通り抜けてきた道。中国が抱える真の問題はオーバーキャパシティーになった国営・公営企業だ。

「収益が上がらなくなった公営企業を他の企業の収益で埋め合わせる状態が地方全体に蔓延してくる。それが徐々に成長を止めて巨大なゾンビ集団が出来上がる。中国は日本の旧国鉄みたいな国営・公営企業が200も300もある感じ。それをいかに処理していくかが問題だ」(ロンドンの巨大ファンド、キャプラ・インベストメント・マネジメント共同創業者、浅井将雄氏)

ジュンさんが言う「ルイスの転換点」とは、工業化の過程で農村の余剰労働力が底をつき、賃金の上昇や労働力不足で経済成長が鈍化することだ。

ソ連崩壊や米国の衰退を見事に予想したフランスの歴史人口学者エマニュエル・トッド氏は日経新聞のインタビューに「人口学者で中国の輝かしい未来を信じる人はいない。人口構造の転換や出生率の低下があまりにも早い。一人っ子政策の転換も手遅れだ」と指摘、日本と米国が緊密に協力すれば中国の軍事力を恐れる必要はないという。

世界は主導する国のない「Gゼロ」(米政治学者イアン・ブレマー氏)に突入。新興国BRICsの成長神話は、米国の超金融緩和策の出口戦略でフラジャル・ファイブ(fragile five、脆弱な5カ国=ブラジル、インド、インドネシア、南アフリカ、トルコ)に早変わりした。「21世紀、米国、欧州、中国のどこが頭一つ抜けるのかは誰にも予想できない」(英社会学者アンソニー・ギデンズ氏)

日本人なら中国崩壊説を信じたいところだが、苦しいときは楽観シナリオに飛びつきがちだ。危機管理は最悪シナリオを想定することから始まると筆者は思う。

一国主義に走ったブッシュ前米政権がイラク戦争を強行した際、著書『アメリカの時代の終わり』で米国の衰退を指摘した米国際政治学者チャールズ・カプチャン・ジョージタウン大学教授が1月23日に英議会内で講演したので、2つ質問した。カプチャン教授はクリントン政権の国家安全保障会議(NSC)で欧州問題を担当した。

カプチャン教授は日米欧の先進国がグローバル化による格差拡大で「政府が有権者に提供できるもの」と「有権者が政府に求めるもの」のギャップが開き過ぎ、民主主義が機能不全に陥っていると分析。そのスキをついて国家統制型資本主義をとる中国が台頭していると解説する。

筆者「このまま西洋の政治も経済も機能不全に陥り、中国の前に屈するのでしょうか。中国モデルの強みは何なのでしょう」

カプチャン教授「私は西洋モデルが終わり、中国モデルが勝つことを示唆しようとしているわけではありません。中国にも腐敗、不良債権、環境破壊などの問題があります。今の中国はイノベーションもなく、ただ大量に生産しているだけです。しかし、世界金融危機で中国は資本や銀行をコントロールし、うまく乗り切りました。中国の国家統制型資本主義が今のところ日米欧の先進国モデルより効果的なのです。しかし、今日は中国モデルが良かったとしても、明日は米国モデルの方が良くなっているかもしれません」

筆者「尖閣をめぐって日中間の緊張が高まっています。日本はどう対応すれば良いでしょう」

カプチャン教授「まず尖閣の有効支配をしっかり守ることです。偶発事件を避けながら慎重に制御不能になるのを防止しなければなりません。と同時に日中間の政治的な温度を下げる必要があります。不幸にもナショナリズムと歴史問題が領土問題の緊張を高めています。領土問題が解決するとは思いませんが、温度を下げることはできるかもしれません」

カプチャン教授は講演の中で「尖閣をめぐって日中が全面的な戦争に突入するとは思いませんが、少なくとも今日、日中が交戦状態に陥った場合、米国には同盟国を見捨てるという選択肢はありません。しかし、(そのコミットメントが)いつまで続くかはわかりません」と発言した。

オバマ政権は中国に対して「現状変更を目的にした、いかなる一方的で威圧的な行動にも反対する」という立場を明確にしている。しかし、中・長期的にみて中国が日米同盟に対して軍事的優位を確保した場合、米国による尖閣の安全保障を期待するのは難しくなる。

カプチャン教授によると、米自動車メーカー、ゼネラル・モーターズの企業価値(推定)は350億ドル。米国で7万7千人、世界で20万8千人の雇用を生み出している。これに対してソーシャルメディアのフェイスブックの企業価値は倍の700億ドルなのに雇用はわずか2千人だ。中産階級へのトリクルダウン効果はとても期待できない。

欧州単一通貨ユーロ圏(18カ国)の中で世界最大の貿易黒字を積み上げ、独り勝ちになっているドイツでさえ中産階級は縮小しているのだ。緊縮財政策をとるギリシャ、イタリアなどで乳児死亡率が上昇するなど、欧州連合(EU)の成長・社会保障モデルはほころび始めている。

中産階級が細った米国では保守強硬派ティーパーティー(茶会党)が勢力を拡大し、米国の政治をマヒさせている。今年5月に欧州議会選を控えるEUでも移民排斥を訴える極右政党や欧州懐疑政党が大躍進すると予想されている。

貧富の格差が拡大し、健全な中産階級が弱体化すれば、右翼勢力が台頭するのは世の常だ。しかし、「右傾化のワナ」にハマれば、政治も経済も停滞を余儀なくされる。安倍晋三首相の最大の強みは米国と違って盤石な政権基盤を有していることだ。

オバマ大統領の4月訪日が固まった。安倍政権は「右」に頼らなくても、健全なミドルグラウンドを押さえることができる。集団的自衛権の限定的行使容認は日米同盟を強化する上で避けては通れない。自公連立にヒビを入れず、限定的行使容認まで持っていけるのか。

靖国参拝以上に重要な課題であるのは間違いない。

(つづく)