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フランス大統領にまたも不倫疑惑 訴訟で対抗

木村正人在英国際ジャーナリスト

欧州統合を崩壊させる真の「時限爆弾」ともいわれるフランスで、オランド大統領(59)と美人女優の間で不倫疑惑が持ち上がった。オランド大統領は「プライバシーの侵害だ」と法的措置も検討しているという。

ドイツのメルケル首相はスキーで骨盤を折って3週間休養、オランド大統領は不倫疑惑という調子で欧州は大丈夫なのか。

オランド大統領のお相手とされるのはジュリー・ガイエさん(41)。これまでに「トリコロール/青の愛」(1993年)、「百一夜」 (95年)、「ぼくの大切なともだち」(2006年)など多数の映画に出演している。

10日に発売されたフランス週刊誌クローサーは7ページにわたって、

オランド大統領とジュリーさんが「お泊り密会」を繰り返していた疑惑を写真付きで報じている。

黒いヘルメットをかぶったオランド大統領とおぼしき男性がお付のボディーガードと一緒にスクーターでパリを疾走して、お決まりの密会場所に駆けつける。

しばらくするとジュリーさんとみられる女性がやって来て、2人は一晩を過ごす様子がばっちりカメラにとらえられているという。

欧州メディアによると、オランド大統領サイドは「大統領にも一般市民と同じようにプライバシーが認められている。法的措置を含めて対応を検討している」と話している。

2人の不倫疑惑が取り沙汰されるのはこれが初めてではない。インターネット上でうわさが駆け巡り、昨年3月、ジュリーさんが「根も葉もないうわさを流した」としてブロガーやウェブサイトを刑事告発したことがある。

ところが今回、オランド大統領は報道内容を否定していないので、2人の不倫関係は実は本当なのかもしれない。

それよりも心配なのが、オランド大統領と暮らしている現在のパートナーで、ジャーナリストのバレリー・トリルベレールさん(48)の反応だ。

ご存じの方もいらっしゃると思うが、オランド大統領とバレリーさんの関係も最初は不倫からスタートした。

オランド大統領は、元パートナーで社会党の前大統領候補セゴレーヌ・ロワイヤルさん(60)と4人の子供をもうけたが、2007年、30年間続いた関係に終止符を打ち、バレリーさんと新しい生活を始めた。

12年に発売された暴露本『二つの炎のはざまで』によると、正式な破局の数年前に、オランド大統領の不倫関係に気づいたセゴレーヌさんが、バレリーさんを呼びつけ、「あなたには3人の子供がいる。私には4人の子供がいる。気をつけなさい」と警告したという。

前回のフランス国民議会(下院)総選挙で、バレリーさんはTwitterで、社会党を離党してセゴレーヌさんと議席を争ったライバル候補を応援。セゴレーヌさんは落選し、「ひどい裏切り行為だ」とバレリーさんを非難した。

また、バレリーさんは、オランド大統領がセゴレーヌさんを入閣させたがっているのを知ってエリゼ宮から妨害ツィートを発信したこともあるというから相当なものである。

暴露本『二つの炎のはざまで』では、バレリーさんは感情的で、恋敵に嫌悪を抱く執念深い女性として描かれているだけに、不倫疑惑報道とオランド大統領にどんな反応を示すのか、とても気になるところだ。

政治家の不倫に厳しくなったプライバシー大国フランス

フランスでは、ミッテラン大統領(故人)が愛人との間に娘をもうけていたことが、政権末期の1994年に週刊誌にスクープされるまで長らく報じられなかった。フランスの民法第9条は「各自は私生活を尊重する権利がある」とプライバシー保護を明確にうたっている。

しかし、クローサー誌は英国のキャサリン妃のトップレス写真を掲載したことでも悪名高きゴシップ週刊誌だ。

フランスは伝統的にプライバシーが世界で最も守られる国として有名だった。1960~70年にはアラン・ドロンやブリジット・バルドーなどの大スターは必ずと言って良いほど、休暇をフランスで過ごした。プライバシーが守られているからだ。

今でもカンヌ国際映画祭のレッドカーペットでスターを撮影できても、次の日、ビーチにトップレスで現れた女性スターをパパラッチするのはご法度になっている。

それが「プライバシー天国」フランスのエチケットで不文律、奥ゆかしい文化であり伝統だった。だが、それも今や昔日の感が漂う。

フランスでは裁判に8~12カ月かかり、プライバシー侵害と判断されても罰金額は最高で6万ユーロ、1万~1万2千ユーロが相場という。写真掲載で雑誌が売れさえすれば、判決で罰金をくらっても十分に元が取れるーという計算が働く。

ニューヨークのホテルで女性従業員に性的暴行を加えたとして、国際通貨基金(IMF)のドミニク・ストロスカーン専務理事(当時)がニューヨーク捜査当局に逮捕された。ストロスカーン氏は社会党の有力大統領候補だったが、失脚。

この事件をきっかけに「プライバシーは公務に密接に関係している」として、政治家や有名人のプライバシーに厳しい目が注がれるようになってきたのは確かだ。

今、景気低迷にあえぐ欧州には移民排斥という暗い空気が流れる。フランスでも反ユダヤ主義ととられかねないコメディアンのジェスチャーをめぐって「表現の自由だ。何が悪い」という極右ポピュリズムが吹き荒れている。

5月末の欧州議会選で極右政党・国民戦線が第1党になるといわれている。不倫疑惑が本当ならオランド大統領の政治感覚にフランス国内だけでなく、欧州連合(EU)加盟国からも「いったい、どういうつもり?」という本音が聞こえてきそうだ。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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