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母乳で育てれば3万円の商品券という英国の試み

木村正人在英国際ジャーナリスト
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先進国の中でも赤ちゃんへの母乳の授乳率が最下位の英国で、母乳を赤ちゃんに6カ月間、与え続けた母親に200ポンド(約3万1千円)のお買い物券を進呈するという試みが始まった。

経済協力開発機構(OECD)などの統計では、生後3カ月の時点で母乳のみで赤ちゃんを育てている母親の割合はハンガリーが最高で95.8%。日本は38%で15位。英国は最下位の13%。

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世界保健機関(WHO)のガイドラインは、生後6カ月まで母乳のみで育てることを推奨している。OECDによると、実際に生後6カ月まで母乳のみで育てている母親の割合もハンガリーが最高で43.9%。

日本は34.7%で4位に上昇。一方、英国はBBC放送によると、やはり最下位で1%止まりだ。

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英国ではウィリアム王子とキャサリン妃の第1子、ジョージ王子が誕生。キャサリン妃は母乳でジョージ王子を育てていると報じられている。

キャサリン妃が産後のスピード・ダイエットに成功したのは「母乳の授乳で自然に体重が減少した」という解説記事まで登場している。

英国では身近で母乳を授ける母親の姿を見たことがない女性が増えたため、国営医療制度(NHS)では「母乳を赤ちゃんにあげると産後ダイエットになる」などとPRしている。

あまりに低い母乳授乳率を上げるため、キャサリン妃に対して「公衆の面前で母乳をあげて」と促す女性コラムニストも現れたほどだ。

ロンドン大学ユニバーシティー・カレッジの小児科医の研究チームが、母乳のみで育てられた赤ちゃんは鉄分不足に陥り、アレルギー症状を起こしやすくなる危険性があるという論文を発表したことがある。

しかし、一般的には母乳で育てると赤ちゃんの胃腸の働きを整え、免疫力が高まる上、アレルギーや肥満防止の効果もあり、赤ちゃんの知能指数も良くなるといわれている。

英国の試みはまずイングランド北部のサウスヨークシャー、同中部のダービーシャーで導入される。最初の2日間、母乳を授乳すれば、量販店やスーパーで使える40ポンドの商品券が支給される。

生後100日間、母乳を与え続ければさらに40ポンド。6週間、3カ月、6カ月の節目ごとに母親の申告に基づいて助産婦さんが母乳の授乳を確認し、40ポンドずつ支給する仕組みになっている。

サウスヨークシャーなどでの取り組みが上手く行けば来年はイングランド全域で導入するという。

NHSはこれまでにも「23キログラム体重を落としたら425ポンドの商品券を進呈します」と言って肥満対策を進めようとしたことがあったが、挫折。

今回の試みについても、「お金で母乳の授乳を促進しようというのはいかがなものか。まず、母乳の授乳は母子の健康に良いことを母親に啓蒙するのが先決では」との声も上がっている。

果たして、英国は母乳授乳率ワースト1の汚名を返上できるか。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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