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世界の視野から消える日本 中国台頭、韓国も存在感

木村正人在英国際ジャーナリスト

英国の市場調査会社Ipsos MORIと大学キングス・カレッジ・ロンドン国際開発研究所が合同で10月前半、新興国11カ国の6千人を対象に「どの国がこれからの世界経済をリードしていくか」についてアンケートを行った。

新興国11カ国はアルゼンチン、ブラジル、メキシコ、南アフリカ、トルコ、サウジアラビア、ロシア、インド、中国、韓国、インドネシア。

第1問目は「経済や雇用についてどの国の考え方を見習うべきだと考えていますか」。結果は下のグラフの通り。

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米国が28%で1位。中国が26%で2位。欧州連合(EU)は16%で3位。ついで韓国が9%で4位。インドはわずか2%で8位。あいにく設問に日本は含まれていなかった。

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国別にみると、インドネシアでは中国への期待が49%と高く、韓国は30%で2位、米国は26%止まり。EUは14%。

一方、韓国ではEUへの期待が1番高く34%、米国は32%で、中国は11%にとどまった。

第2問目は「どの国が今、一番、若者に雇用機会を与えていると考えていますか」。結果は下のグラフの通り。

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米国が1位で29%(実際の若者の失業率は16%)。EUが2位で18%(同23%)。中国は17%(データが入手不能)で3位、韓国は10%(同10%)で4位だった。

第3問目は「次の20年、どの国が世界経済をリードすると考えていますか」。結果は下のグラフの通り、中国が断トツの52%。

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米国は30%で2位、EUが12%で3位。ロシアが11%で4位、インドは10%で5位だった。

Ipsosグローバル・アドバイザー調査と経済協力開発機構(OECD)の予測では20年後の2033年、中国の経済規模は実質国内総生産(GDP)で35.3兆ドル(現在は11.6兆ドル)、米国の21.6兆ドル(現13.9兆ドル)をはるかに凌駕している。

EUは20.8兆ドル(現13.6兆ドル)で3位、インドは16兆ドル(現4.3兆ドル)で4位である。

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今回の調査で改めて確認されたのは、次の20年間で中国がますます経済力を増すということだ。インドへの期待値はかなり低い。サムソンが元気な韓国も注目を集めている。

欧州で日本の存在感が希薄なのは「距離の遠さ」だけが理由ではない。

安倍晋三首相の経済政策アベノミクスついて、英紙フィナンシャル・タイムズは、三木谷浩史・楽天社長の政府産業競争力会議の民間議員辞任表明を取り上げ、「内部分裂で最大の試練」と報じている。

政治的な痛みを伴わない財政出動や金融緩和は簡単だが、政治の強い指導力が求められる構造改革が棚上げされれば、アベノミクスは失速する。デフレがインフレに転じても賃金が上がらず、国民生活の負担が増す懸念が次第に膨らみ始めている。

安倍首相が国内の利益団体を優先する政策に縛られれば、それでなくても消えてなくなりそうな日本は世界の視野から完全に消えてしまう。

「日本には何が欠けているのか」という筆者の疑問に、Ipsos MORIのボビー・ダフィー社会調査研究所理事長は「日本経済は重要だ。今回、日本は設問の中に入っていないが、これまでの調査で、日本人の多くが自信を失い、将来に対して楽観的になれなくなっていることが浮き彫りになっている」と指摘。

「しかし、そうした傾向は日本だけでなく、先進国に共通した問題になってきている。子供世代は自分たちの世代より貧しくなると先進国が心配し始めたのは、この10年が初めてだ。イノベーション(技術革新)の多くが今でも先進国から生み出されているが、これまでイノベーションに向けてきたお金が高齢者の年金や介護に使われる割合が増える」と話した。

成長分野の規制を緩和し、いかに資金を投入するか。安倍政権が過去の既得権に縛られたままなら、日本の衰退スピードがさらに加速するのは避けられないだろう。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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