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ロイヤルベビー誕生へ(6)Tradition(伝統)かTwitterか

木村正人在英国際ジャーナリスト

世界中が英国のウィリアム王子とキャサリン妃の第1子の誕生を今か今かと待ち構えています。こればかりはコウノトリに任せるしかありませんが、つぶやいたろう(筆者)も少々、待ち疲れてきました。

キャサリン妃の母、キャロル・ミドルトンさんが「赤ちゃんは獅子座(7月22日~8月22日)」と漏らしたと報じられたかと思えば、チャールズ皇太子が「そろそろ生まれてくれれば」とジョークを飛ばし、カミラ夫人は16日、「週末までに」と発言しました。

ウィリアム王子は出産予定日の13日休暇をとり、14日は弟のヘンリー王子とともにポロの親善試合に出場。ウィリアム王子がそのまま休暇を取っているのか、ノース・ウェールズのアングルシーというところにある英空軍部隊に戻ったのか、はっきりした報道はありません。

アングルシーからロンドンへは車で4時間。ウィリアム王子がアングルシーの空軍基地に戻っていたとしても、陣痛が始まるとヘリコプターで将来、2人の居宅となるケンジントン宮殿に舞い降り、車でセント・メアリー病院リンド病棟に向かうと報じられています。

将来の国王であっても、育児休暇は他の隊員と同じ2週間、特別扱いはしないのが英王室と軍の伝統です。ウィリアム王子がすでに休暇を取っているなら、有給休暇として処理していると思います。

ウィリアム王子が何らかの事情で出産に間に合わない場合に備えてキャサリン妃の母キャロルさんがリンド病棟で出産に立ち会う予定です。キャロルさんは昔、BA(ブリティッシュ・エアウェイズ)の客室乗務員をしていましたが、その頃、緊急出産の訓練を受けたことがあります。

エリザベス女王の産婦人科医、マーカス・セトチェル氏、アラン・ファーシング氏の2人がリンド病棟に赴き、キャサリン妃の出産を担当します。70歳のセトチェル氏は1990年から2008年にかけエリザベス女王の主治医を務めた経験豊富なドクターです。

キャサリン妃のつわりがひどかったため、予定していた引退を先延ばしにしてお世継ぎ誕生に備えてきました。

ファーシング氏は昔、英BBC放送の人気司会者ジル・ダンドさんと婚約していましたが、結婚を5カ月後に控えた1994年4月、ダンドさんは何者かによって殺害されました。犯人はまだ捕まっていません。もちろんファーシング医師は事件にまったく関係がありません。しかし、英国という国にはシェークスピアの劇ではありませんが、何が起きてもおかしくない怖さがあります。

ウィリアム王子とキャサリン妃の第1子が生まれると、性別、体重、出産した時間が書き込まれた出生証明証にセトチェル、ファーシング両医師が署名をします。この出生証明書は警察に先導され車でリンド病棟からバッキンガム宮殿に運ばれ、真っ先にエリザベス女王に知らされます。

キャメロン首相、英連邦各国に赴任している総督、王族、ミドルトン家にも知らされます。出産が夜中でエリザベス女王が就寝になっている場合は翌朝、女王が目を覚まされてから出産が伝えられるそうです。

それまで性別は明らかにされません。しかし、王位継承法が約310年ぶりに改正されて性別にかかわりなく長子が継承できるようになったため、性別はそれほど大きな意味を持たなくなりました。

これが伝統的な段取りですが、ウィリアム王子とキャサリン妃の私設秘書かウィリアム王子本人が電話でエリザベス女王に伝えるという報道も一部にはあります。Twitterなどソーシャルメディアが発達し、エリザベス女王が知るより先に情報が拡散する事態に備えた措置だと思います。

このあと、バッキンガム宮殿の前庭に金縁の額に入れた出生証明書がイーゼル(画架)にのせられて掲示されます。出生証明書には目の色や生まれたときの様子が書き込まれるという報道もあります。

グリーンパークで王立騎馬砲兵・国王中隊が41発、ロンドン塔でも名誉砲兵中隊が62発の祝砲を撃ち鳴らします。

英王室がTwitterのスピードと情報の拡散に対抗して伝統を守り抜けるのかも、今回のロイヤルベビー誕生では注目されています。

(つづく)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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