Yahoo!ニュース

エリザベス英女王の退位はあるのか?

木村正人在英国際ジャーナリスト

英連邦首脳会議の大役、チャールズ皇太子に

イギリス王室は7日、エリザベス女王(87)が今年11月にスリランカで予定されているイギリス連邦首脳会議を欠席し、代わりにチャールズ皇太子が出席すると発表した。今年3月、エリザベス女王は体調を崩しており、王室ウォッチャーは「チャールズ皇太子への王位継承の布石」とみている。

イギリス連邦はイギリスとその旧植民地をはじめ54カ国で構成される。2年に1回開催される首脳会議に、エリザベス女王は2回目の1973年カナダ開催から毎回出席している。前回2011年、オーストラリアで開かれた首脳会議にも夫のフィリップ殿下と元気に出席した。

チャールズ皇太子がエリザベス女王の代わりに首脳会議に出席するということは、次の王位は王位継承順位2位のウィリアム王子ではなく同1位のチャールズ皇太子に継承されることを意味している。

ウィリアム王子とキャサリン妃の結婚式、エリザベス女王の在位60周年の記念行事でも、チャールズ皇太子とカミラ夫人はカップルでバッキンガム宮殿のバルコニーに姿を見せ、イギリス国民にその存在をそれとなくアピールしている。

英国民の8割が王室存続を支持

王室ウォッチャーによると、イギリス王室の王位継承は少しずつ準備が進められるという。バッキンガム宮殿でエリザベス女王が車まで歩く距離が短くなるなど、その兆候は徐々に現れている。ダイアナ元皇太子妃の死の影を今も引きずるチャールズ皇太子にイギリス連邦首脳会議出席の大役を任せるのは、王位継承に向けた非常に大きなステップだ。

ウィリアム王子とキャサリン妃の間に待望のお世継ぎが生まれることも大きく影響している。

エリザベス女王在位60周年に合わせた昨年5月の世論調査で、イギリス国民の8割が王室の存続を望んでいた。カミラ夫人との不倫でダイアナ元妃を死に追い込んだ形となったチャールズ皇太子の王位継承を支持したのは51%。チャールズ皇太子は王位継承をあきらめてウィリアム王子に譲るべきだと答えたのは40%だった。

高齢化が進むヨーロッパの王室

エリザベス女王はイギリス史上最高齢の君主で、在位期間もビクトリア女王の63年7カ月3日に次いで史上2番目の長さを誇っている。最高齢で王位を継承したのは1830年のウィリアム4世の64歳10カ月5日だが、チャールズ皇太子は今年9月19日にウィリアム4世が即位したのと同じ年齢になる。

ヨーロッパの王室はベルギーのアルベール国王(78)、ノルウェーのハラルド国王(76)、スペインのフアン・カルロス国王(75)、デンマークのマルグレーテ女王(73)と高齢化が進んでいる。オランダのベアトリックス女王(75)が退位を表明し、先日、アレクサンダー新国王(46)の即位式が行われた。

千両役者のエリザベス女王が退位してチャールズ皇太子が即位するような事態になれば、イギリス君主を国家元首に据えるオーストラリアやカナダで共和制移行論が再び頭をもたげかねない。果たして、87歳のエリザベス女王が退位するようなことはあるのだろうか。

オランダ王室では退位して王位を次の世代に譲った女王はベアトリックス女王で3人目。退位が珍しくないオランダ王室に比べて、イギリス王室で退位したのは、シンプソン夫人との「王冠を賭けた恋」で有名なエドワード8世(1894~1972年)だけである。

イギリス王室の伝統

ジョージ3世(1738~1820年)は晩年、正気ではなくなり、ビクトリア女王(1819~1901年)も不眠症などに悩まされたが、それでも亡くなるまで君主の役割を果たした。君主は息を引き取るまで君主であり続けるのがイギリス王室の伝統なのだ。

エリザベス女王は25歳で即位。第二次大戦からの復興、ダイアナ元妃の事故死など数々の苦難を乗り越え、今も年間410もの公務をこなす。朝食を済ませると300通もの手紙や政府文書に目を通す。さらに週に1度、首相との会見をこなしている。

エリザベス1世、ビクトリア女王と、イギリスは女王の治世下に発展している。英王室に詳しい歴史家ルーシー・ウォズリーさんは「女性の方が外交力と柔軟性に富んでいる」と解説する。

エリザベス女王の母親エリザベス王妃は101歳まで生きた。王位継承を待ち続けるチャールズ皇太子には本当に気の毒だが、エリザベス女王は神から与えられた君主の責任を命が続く限り果す覚悟だとみられている。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

木村正人の最近の記事