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子ども2人と父1人 週7500円で生きられますか

木村正人在英国際ジャーナリスト

4月1日から新年度が始まった英国で、ダンカンスミス雇用・年金相が英BBC放送の人気ラジオ番組に出演、「週53ポンドで暮らせる」と豪語してしまったから、さあ、大変。

為替レートは1ポンド=141.44円なので、日本に置き換えると週約7500円。1日の生活費は約1070円。財政が苦しい英国では4月1日から住宅補助などが大幅に削られた。

富裕層に支持者が多い保守党の党首を務めたこともあるダンカンスミスに対し、「やれるものならやってみて」と要求するオンライン署名が瞬く間に10万人も集まった。

事の起こりは、BBCラジオ4の番組「Today」で、市場で働く男性が「週53ポンドで暮らしているのに、新年度から住宅補助が削られた」とダンカンスミスにかみついた。

労働党支持の英大衆紙デーリー・ミラーによると、男性は週70時間働いているが、市場での稼ぎは年2700ポンド(約38万2千円)。

住宅費は月400ポンド。これまで週57ポンドの住宅補助が支給されていたが、18ポンド削られた。子供2人が週の半分は泊まりに来るため、2つの部屋を空けていた。

この4月から空き室は補助できないとしてさらに14.25ポンド削られ、実際に支払う住宅費は月294ポンド(約4万1600円)になった。男性は負担が少ない福祉住宅に引っ越すことになった。

光熱費が月174ポンド(約2万4600円)。税額控除は週50ポンド。これで果たしてやっていけるのか、と男性は絶望的に訴えた。

これに対し、ダンカンスミスは「必要に迫られた週53ポンドで暮らせる」と答えてしまった。

ダンカンスミスの奥さんはお金持ち。義父から200万ポンド(約2億8千万円)の豪邸をただで貸してもらって暮らしている。ダンカンスミスの年収は13万4565ポンド(1900万円)だ。

ダンカンスミスがモーガンの高級オープンカーを乗り回す姿も撮影されている。

議員経費で110ポンドの最新携帯電話を購入。12.42ポンドのUSBケーブルも経費で落としていた。月53ポンドの電話代も、すべて税金持ちだ。

「福祉切り捨ての哀れな犠牲者」というこの話、ここで終わらないのが英国なのだ。

生活保護を食い物にする輩に厳しい保守系大衆紙デーリー・メールは、男性が「趣味はサッカーとポーカー、ビール」「自営のカモ撃ちとダイバー」とツィートしていたことを暴露した。

男性はTwitterで29倍の賭けに勝ったと自慢していた。

ダンカンスミスの曾祖母は日本人。ダンカンスミスは軍隊を除隊した後、失業保険を受給し、民放のドキュメンタリー番組で劣悪な住宅に暮らしたこともある。

男性の告白がウソか本当かは別にして、ダンカンスミスが実際に週53ポンドの極貧生活に挑戦したら、どうなるか。この政治的インパクトは大きい。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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