モンゴルで強まる資源ナショナリズム 政府と資源メジャーが対立
安倍首相はモンゴルの首都ウランバートルで同国のエルベグドルジ大統領、アルタンホヤグ首相とそれぞれ会談し、日本とモンゴルの経済関係を強化する「エルチ(モンゴル語で活力の意味)・イニシアチブ」で合意した。
世界最大の埋蔵量を誇るタバン・トルゴイ炭田開発について、日本企業の参加を期待するとイニシアチブに明記された。
しかし、モンゴルで資源ナショナリズムが強まり、資源メジャーとの関係がぎくしゃくしていることはあまり伝えられていない。
対中牽制(けんせい)も大切だが、資源外交もモンゴル訪問の大きな柱の一つであることを忘れてはいけない。
日本企業が誘致されているタバン・トルゴイ炭田の埋蔵量は 64 億トンと世界最大規模。同炭田ツァンキ鉱区を東西に分割し、国内資本と外資により開発する大綱案が国会で可決され、国際入札が行われた。
オヨー・トルゴイ銅・金鉱床は、銅が約3600 万トン、金が約1300トンという世界規模の埋蔵量が見込まれている。英豪資源メジャー、リオ・ティントの子会社ターコイズ・ヒルが経営権の66%、モンゴル政府が34%を所有している。
リオ・ティントは1997年から調査を始め、2009 年にモンゴル政府と開発契約を結んだ。
大草原の中に道路、鉄道、発電所、水道、臨時の滑走路を一から建設したため、コストがかさんだ。英紙フィナンシャル・タイムズによると、開発費用は当初の57億ドルから66億ドルに膨らんでいる。
オヨー・トルゴイ銅・金鉱床では今年6月末から年間銅約 54 万トン、金約 18トンの採掘が開始される予定だった。気の早いモンゴル政府は予算に3億ドルのロイヤリティー収入を組み込んだ。
採掘による収入が開発費用を埋めるまで、リオ・ティントからモンゴル政府へのロイヤリティーの支払い義務は生じない。
しかし、モンゴル政府は「コストがかさんだのはリオ・ティントの責任」と譲らない。ついに金鉱床を開発する別の子会社の開発免許を停止する騒ぎに発展してしまった。
リオ・ティントはコスト削減のため、銅の採掘能力を日産10万トンから16万トンに上げる発電所の建設も取りやめた。
世界経済の低迷が続き、モンゴルから外資が撤退、中国も投資を縮小させた。モンゴル政府は資源を開発するオカネに困っており、是が非でも日本企業を呼び込みたいのが本音だ。
オヨー・トルゴイ銅・金鉱床の採掘が本格的に始まれば、40~50年にわたって毎年80億ドルの利益を生み出す「金の卵」だ。モンゴルの地下資源は1兆3000億ドル相当と推定されている。
英BBC放送は、資源ナショナリズムが強くなると、結局は、外資がほそり、生産量が縮小すると、リオ・ティントの言い分を伝えている。
これに対し、エルベグドルジ大統領は「開発計画よりどうしてコストが膨らんだのか、リオ・ティントは説明する必要がある。契約は守らなければならない」と厳しい表情だ。
資源ナショナリズムなのか、リオ・ティントのやり口があくどいのかは、立場によって見方が分かれるところだ。
モンゴル政府とリオ・ティントの交渉の行方は、日本企業が誘致されているタバン・トルゴイ炭田の開発にも影響を与えそうだ。
(おわり)