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ルール無用のキプロス救済 ロシアの大口預金踏み倒し

木村正人在英国際ジャーナリスト

超法規的措置は許されるか

ユーロ圏や国際通貨基金(IMF)から100億ユーロ(約1兆2300億円)の支援を受ける代わりに国内金融機関の全預金に一律、税金をかけ58億ユーロを捻出する救済案を拒否したキプロスは、同国第2位のライキ銀行を解体、ロシアのオリガルヒ(新興財閥)の大口預金を踏み倒し問題の58億ユーロを穴埋めすることでユーロ圏、IMFと合意した。

英紙フィナンシャル・タイムズが伝えた。

欧州中央銀行(ECB)は25日までに58億ユーロを調達する代替案で合意できなければ、キプロス最大手のキプロス銀行とライキ銀行への緊急流動性支援を打ち切ると最後通牒を突きつけていたが、最悪の事態はとりあえず回避された。

26日にはキプロスの金融機関は10日ぶりに再開するが、10万ユーロ(約1230万円)以上の大口預金者について資本逃避を防ぐため、引き出しや送金を規制する。

EUは(欧州連合)は基本法・リスボン条約で(1)商品(2)人(3)サービス(4)資本の移動の自由を認めている。特に、資本の移動については、加盟国間だけでなく、加盟国と第3国との間でも制限することを禁じている。

当初の預金課税案は、本来なら法的に保護されている10万ユーロ未満の小口預金についても6・57%を一時的に課税する「禁じ手」だった。

しかし、最終的にまとまった銀行分割と大口預金踏み倒しのための資本規制はEUの基本理念に反している。

これまでEUは構造的欠陥を抱える単一通貨ユーロを守るため、他の加盟国の財政赤字を肩代わりしないというリスボン条約の「非救済条項」などを次々と反故にしてきた。

10万ユーロ未満の小口預金への課税はまだ「違法」で済まされるかもしれないが、資本規制はリスボン条約違反、明らかな「違憲」と言わざるを得ない。

ECBによる国債の無制限購入でひとまずユーロ危機を脱し、金融危機のリスクが遠のく中、明らかに「違憲」な資本規制が、危機回避のための「超法規的措置」として許されるのかどうか大きな疑問を残す。

英誌エコノミストが主張するようにESM(欧州安定メカニズム)を通じて救済する方が、信用不安の火種を残さずに済んだのではないだろうか。

銀行解体

42億ユーロの預金を持つライキ銀行を10万ユーロ未満の小口預金とそれ以上の大口預金に分割。小口預金は全額保護するため同国最大手のキプロス銀行に移す。大口預金はバッド・バンクに移して、全額踏み倒す。

キプロス銀行についても10万ユーロ以上の大口預金は凍結するとみられている。

IMFの資産では大口預金者は預金の20%以上を失うことになる。当初の銀行課税案で、小口預金者が負担するはずだった20億ユーロを大口預金者に肩代わりさせた格好だ。

キプロス救済のモデルは、2008年の世界金融危機で金融システムが破綻したものの、その後、V字回復したEU非加盟の島国アイスランドだ。アイスランドの金融資産は国内総生産(GDP)の10倍、キプロスの場合は8倍に達していた。

アイスランドは世界金融危機で国内銀行大手をすべて国有化し、グッド・バンクとバット・バンクに分割。優良資産をグッド・バンクに移して国内預金者を保護するための資金を確保した。その一方で、英国やオランダの預金者を含めて国外債権をバット・バンクに集めて踏み倒すという荒業を見せた。

アイスランド型を強く主張してきたのはドイツとIMFだった。

アイスランドは自国通貨を持つため、通貨暴落を利用して観光や輸出を促進、2011年には早くも2・9%のプラス成長に転じた。しかし、ユーロに縛られたキプロスに通貨安の追い風は吹かない。

待っているのは歳出カット、賃金カット、雇用削減など、ギリシャが進む辛くて厳しい「いばら(内的減価)の道」である。

トロイの木馬

米格付け会社ムーディーズによると、キプロスの預金の3分の1に相当する310億ドル(約2兆9400億円)がロシア資金だ。

キプロス救済のためにいち早く25億ユーロを融資したロシアは、キプロスとユーロ圏、IMFの交渉からつんぼ桟敷に置かれた上、返済期限の延長と利子の減免を求められている。

キプロスは海底ガス利権を取引条件に、ロシアから追加の援助を引き出そうとしたが、頓挫した。返済期限の延長や利子の減免についても、キプロスのサリス財務相は「条件が調整されると思う」というだけで、どうなるかプーチン露大統領の腹一つだ。

キプロスはEU内でロシアの「トロイの木馬」と言われてきた。

2008年、コソボが独立を宣言した際、EUは独立を承認しようとしたが、キプロスはロシアの言い分を代弁するように独立に反対。ロシアが軍事介入したグルジア紛争でも、ロシアに制裁を加えようとするEUに反対した。

ロシア海軍は地中海に面したシリア西部タルトゥスの軍港を使用してきた。しかし、内戦の激化で使用できなくなる恐れがあり、できれば代替港をキプロスに置きたいと考えている。

メルケルの「逆襲」

メルケル独首相との首脳会談で、プーチンは大型の愛犬を同席させてきた。幼い頃、犬にかまれた思い出があるメルケルにとっては、犬の存在は快くなかったに違いない。

今回の措置でロシアのオリガルヒはすでにラトビア、スイスなどに預金を移す動きを見せている。

強硬策には外交・安全保障でプーチンを牽制する狙いも含まれている。シリア内戦やイラン核問題の行き詰まりを打開するにはプーチンの協力が不可欠なのだが、メルケルの「逆襲」はプーチンを硬化させ、裏目に出る恐れが十二分にある。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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