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軍事転用できる半導体めぐり米技術者が変死 華為(ファーウエイ)とFT紙が全面対決

木村正人在英国際ジャーナリスト

中国の通信機器メーカー、華為(ファーウエイ)技術と、軍事技術に転用できる半導体を共同開発するプロジェクトにかかわっていたとみられる米国人技術者が昨年6月、シンガポールの中華街で変死した。この技術者は米国に帰国する直前だったため、家族が「何者かに殺された」と告発している。この疑惑を英紙フィナンシャル・タイムズのFTマガジンが報道したところ、華為技術が否定するなど、全面対決の様相になっている。

FTマガジンの報道によると、昨年6月下旬、シンガポールの中華街のアパートで、米国人技術者シェーン・トッドさん=当時(31)=が浴室で死亡しているのが見つかった。シンガポール警察から「浴室の壁に滑車を取り付けて、首を吊って自殺した」と説明を受けた米モンタナ州在住の家族はシンガポールを訪れ、トッドさんのアパートを確かめた。

しかし、現地警察が現場を保存している形跡もなく、浴室の壁に滑車を取り付けた跡も残っていなかった。トッドさんはすでに米国に帰国する航空券を買って食堂のテーブルの上に置いていた。洋服はたたまれ、スーツケースの中に入れる途中で放置されていた。

トッドさんは18カ月間にわたってシンガポールにあるインスティテュート・マイクロエレクトロニクス(IME)で半導体の開発にかかわっていた。死亡する2日後には任務を終えて、モンタナ州の実家に帰国する予定だった。

トッドさんはIMEで、主に青色発光ダイオード(青色LED)の材料として用いられる半導体、窒化ガリウムの開発を進めていた。窒化ガリウムは、他の半導体と比較して、熱伝導率が大きく放熱性に優れていることや高温での動作が可能であることなどから応用が期待されている。

窒化ガリウムはブルーレイ・プレイヤーやハイブリッド車、携帯電話などの民生品からレーダーや衛星通信などの軍事技術にも使うことができる。

トッドさんは生前、家族や恋人に「IMEでの仕事には中国の企業も関与している。自分のやっていることが米国の国家安全保障を損ねることを心配している」と漏らしていた。

家族がトッドさんのアパートから見つけたコンピューター用の外付けハードディスクには、窒化ガリウムから作った高電子移動度トランジスタのデータや英語で「ファーウェイ」と書かれたファイルが残されていた。

高電子移動度トランジスタは軍事技術にも転用できるものだった。

FBIが2回にわたってシンガポール警察に捜査協力を申し出たが、拒否された。家族は殺人容疑での捜査を要望しており、それがかなわなければ死因審問の開始を求めている。今のところ、シンガポール警察の動きは出ていない。

フィナンシャル・タイムズ紙によると、FTマガジンの疑惑報道について、華為技術は当初、「いかなるプロジェクトも認識していない」と関与を否定していたが、「窒化ガリウムに関してIMEとの協力関係はない」と説明を変え、最新のコメントでは「IMEは一度だけ、窒化ガリウムについて協力するため当社にアプローチしてきた。しかし、当社は提案を断った」と話している。IMEも「IMEもトッドさんもいかなる機密研究にも関与していない」と説明している。

フィナンシャル・タイムズ紙以外の主要紙は静観の構えだ。

急速に世界でシェアを拡大している華為技術をめぐっては以前から、中国人民解放軍とのつながりが取り沙汰されている。

米下院情報特別委員会は昨年10月、華為技術などが中国共産党や人民解放軍と密接につながっており、対米スパイ工作に関与している恐れを指摘した。

オーストラリアは華為技術が同国内でブロードバンド・ネットワークを構築することに反対。カナダも企業名を特定しなかったが、華為技術を念頭に置いた上で、安全保障上に問題が生じる場合、外国企業を排除できる例外規定を設けた。インドも華為技術が同国内で企業活動を拡大させることに反対している。

こうした国々は、中国側がサイバー・スパイをしやすいように補助金や低利での融資、有利な輸出金融で華為技術の世界進出を後押しし、平時は華為技術の通信インフラを悪用してスパイ活動を展開、有事には通信インフラをシャットダウンさせる恐れがあると懸念している。

これに対して、華為技術は「中国企業の海外活動を妨害するためのでっち上げだ」と反発している。

華為技術は1988年、人民解放軍出身の任正非総裁が創設。現在では世界140カ国に展開し、従業員数は14万人。今や世界最大の通信機器メーカーになった華為技術は欧州の第4世代移動通信システム市場の50%以上を占めている。昨年の売上高はスウェーデンのエリクソンを上回り、世界最大の通信機器メーカーとなった。

欧州連合(EU)は米国とは一線を画しているものの、欧州市場での華為技術の販売について、ダンピング(不当廉売)の疑いがあるとして中国当局との協議に着手、中国側とEUの間で緊張が高まっている。

日本でも華為技術がシェアを伸ばしているが、安全保障上の脅威としてはとらえられていない。米国人技術者変死事件が今後どんな展開を見せるのか、注意が必要だ。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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