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北朝鮮の核実験「ノドンに搭載できる小型核弾頭のテストだ」元米国務次官補代理

木村正人在英国際ジャーナリスト
12日の豊渓里実験場=DigitalGlobe/HIS提供
12日の豊渓里実験場=DigitalGlobe/HIS提供

北朝鮮が3度目の核実験を強行する狙いは何か、米国務次官補代理として大量破壊兵器拡散防止構想(PSI)にかかわったことがある英シンクタンク、国際戦略研究所(IISS)軍縮・核不拡散プログラム部長のマーク・フィッツパトリック氏にインタビューした。

――北朝鮮が2006年と2009年の2回にわたって核実験を行なった北東部の豊渓里(プンゲリ)で3回目の核実験を準備しています。DigitalGlobe/HISが撮影した1月12日の豊渓里実験場の衛星写真からは機材の動きや除雪された周辺道路が確認できます。3回目の狙いは何でしょうか

「中距離弾道ミサイルのノドン(射程距離1000キロ)に搭載できるよう小型化した核弾頭がうまく爆発するかテストするとみています。3度目の核実験で自信をつけるという軍事技術上の狙いが一つ。もう一つはこれまでのプルトニウム型核爆弾と異なる高濃縮ウラン(HEU)型核爆弾をテストすることで核兵器の幅を広げたことを見せつける政治的な狙いがあると分析しています。これまでも弾道ミサイルの発射実験を行ったことに対する国連安全保障理事会の制裁決議に反発し、核実験を強行するというパターンを繰り返しています」

――プルトニウム型核爆弾ではない理由は他にありますか

「北朝鮮が保有しているプルトニウムの量が限られているからです。2007年夏に西部にある寧辺(ニョンビョン)核施設の5メガワット原子炉が停止したため、プルトニウムを製造できなくなりました。どうして原子炉を再開しないか不思議ですが、技術的な問題があるのでしょう。プルトニウムと違って高濃縮ウランは隠しやすく、外国の査察を逃れやすいというメリットもあります。核保有国はプルトニウム型核爆弾と高濃縮ウラン型核爆弾の2つの開発を目指すのが普通です」

――爆発の威力はどれぐらいでしょうか

「2回目の核実験ではガスが検出されていないので、100%プルトニウム型核爆弾と断定はできませんが、米国の情報機関はプルトニウム型と結論づけています。(広島に落とされた核爆弾の爆発の威力を示す核出力は15キロトンといわれているが)3回目の核実験では通常の20キロトンを目標にしているとみています。もし北朝鮮が違う核爆弾のデザインを採用していれば核出力は20キロトン未満になる可能性もあります。また、核出力が20キロトンに達しない場合は失敗したとみることもできます。失敗だった1回目の核実験の核出力は1キロトン。2回目は10キロトン未満でした」

――3回目の核爆弾が成功した場合、どんな意味があるのでしょうか

「ノドンに核爆弾を搭載できることになり、北朝鮮の核開発は大きな節目を迎える可能性があります」

マーク・フィッツパトリック氏(木村正人撮影)
マーク・フィッツパトリック氏(木村正人撮影)

――3回目の核実験は金日成(イルソン)主席の生誕100年を祝う昨年4月以降に行われるとの見方が有力でしたが

「昨年4月に北朝鮮は3段式長距離弾道ミサイルの発射実験に失敗したのに続いて核実験にも失敗して威信を失うことを恐れたのでしょう。それと胡錦濤国家主席から習近平・中国共産党総書記への権力移行を控え、薄煕来・元重慶市党委書記のスキャンダルを抱えた中国は、ミサイル発射実験を行った北朝鮮にこれ以上騒がしくしてほしくなかったのだと思います。ロシアも北朝鮮に対する借款の90%に相当する110億ドルを放棄したうえ、ガスパイプラインの建設などの投資を約束していました。中国、ロシア両国からの圧力もあって、昨年中に核実験を行うのは断念したのだと思います」

――最近、米グーグルのエリック・シュミット会長の訪朝が話題になりましたが

「北朝鮮のプロパガンダに利用されただけです。北朝鮮国内ではグーグルがインターネット上で果たしている役割には言及がなく、米国で有名な重要人物がわざわざ北朝鮮にやってきて金正恩第1書記と衛星の打ち上げ成功をたたえたということだけが強調されました。シュミット会長の訪朝には旅行以上の意味はありませんでした」

――グーグルマップに北朝鮮の強制収容所や核実験場まで登場しましたが

「普通の人々が調べる分には役立つのかもしれませんが、専門家には新しい情報は何一つありません」

――昨年12月の3段式長距離弾道ミサイルの発射実験をどう評価しますか

「3段式の切り離しは、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発に必要不可欠なものです。それに成功したことが、人口衛星を軌道に乗せたことよりも大きいと思います。しかし、大気圏への再突入に耐えるシールドの強度などの技術は確立されていません。核弾頭は周辺の電子機器も含めると1000キログラムぐらいになります。人工衛星は1000キログラムよりも随分軽く、核弾頭を搭載する能力を備えているわけではありません」

――再突入の技術といえば、ミサイル開発で北朝鮮と協力しているイランが最近、サルを大気圏外の高度120キロメートルに送り込み、帰還にも成功したというニュースが流れました

「そのニュースの真偽はわかりません。もし本当ならイランは再突入について何らかの進んだ技術を獲得している可能性がありますが、核弾頭を搭載した弾道ミサイルの再突入技術を保証するものではありません。北朝鮮とイランは昨年、ミサイル開発で新たな合意を結んでいます。国防上の協力で軍事技術に関するものです」

――実際のところ北朝鮮の弾道ミサイル能力は

「射程1000キロのノドンの能力は証明済みです。しかし、同2200キロのテポドン以上の弾道ミサイルの能力はまだ証明されておらず、射程1000~1300キロぐらいだと分析しています」

――中国と北朝鮮、イランの関係はどうでしょうか

「中国が北朝鮮の森林省に輸出したと釈明している中国製車両が、北朝鮮の新型とみられる弾道ミサイルを搭載する発射台付き車両として使われていました。中国は最終的に何に使われるか確かめた上で、北朝鮮に輸出すべきです。中国とイランの関係は北朝鮮レベルではありませんが、多くの中国企業がイランに対して国連安全保障理事会決議で禁止された部品を輸出している疑いがあります」

――最近、故金正日総書記が「遺訓」で「核兵器と長距離ミサイル、生物化学兵器を絶えず発展させ十分に保有せよ」「(北朝鮮の非核化を目指す6カ国協議について)われわれの核をなくす会議ではなく、核を認めさせ核保有を公式化する会議にせよ」と述べていたと報じられました

「一部は本物らしいですが、生物兵器の件は不自然です。米国、韓国、日本は6カ国協議については懐疑的です。数年前までは北朝鮮の核保有は経済援助や米朝平和協定などのための取引材料だと分析する専門家がいました。2005年や2007年には北朝鮮は非核化に触れていましたが、2008年以降は非核化には触れなくなりました。今は米国が核を放棄して韓国や日本に対する核の傘がなくなれば北朝鮮は核を放棄してもいいとは言っていますが。北朝鮮が6カ国協議に真摯に臨んだことはありません。常に核保有を目指してきたのです。最近は以前より正直に核保有の意思を明確にするようになったということだと思います」

――中国は北朝鮮との関係をどう考えているのでしょう

「韓国を軍事的に挑発するのではなく、静かにしてほしいと思っています。3度目の核実験を強行すれば日本はますますミサイル防衛の能力を強化します。それは引いては中国の核抑止力を減じることになります。中国は北朝鮮がワイルドカードになることを望んでいません。また、中国にとって北朝鮮が韓国に吸収される形での再統一は決してプラスにならないので、貿易や投資などの経済的関係、政治的関係を強化して、事実上の被保護国化を進めています。これに対して北朝鮮はロシアなどとの関係を深めることで対中国依存度を少しでも和らげようとしています」

――オバマ米大統領の対北朝鮮政策は、結局は北朝鮮の時間稼ぎに使われ、核保有を許してしまった1990年代の朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)と同じような過ちを繰り返すのでしょうか

「私はKEDOに参画していたので、KEDOが失敗だったとは思っていません。あれがなければ北朝鮮は数十発の核弾頭を保有していたはずです。北朝鮮が今、保有しているプルトニウムは、核爆弾約10発を製造できる量だとみています。オバマ大統領はKEDOとは同じアプローチは取らないでしょう。昨年4月、食糧支援の見返りに濃縮ウラン活動の停止と長距離弾道ミサイルの発射凍結を約束した米朝合意を反故にして、3段式長距離弾道ミサイルの発射実験を強行した北朝鮮をワシントンの誰一人として信用していません。北朝鮮が、人工衛星の打ち上げは弾道ミサイルの実験ではない、と強弁してまでオバマ大統領を欺いた理由はまさにミステリーですが、金正日総書記が生前に弾道ミサイルの発射実験を行うよう言い渡していたのが大きな理由の一つでしょう」

――どんな解決策が考えられますか

「北朝鮮が北朝鮮であり続ける限り核保有をあきらめることはありえません。北朝鮮が北朝鮮でなくなることが解決につながるのだと思います。韓国の政治的リーダーシップの下で再統一するしか非核化の道はないと思います。それには外からの圧力ではなく、人々の意思が重要です。北朝鮮の指導部は再統一すれば自分たちは既得権益のすべてを失うだけでなく、殺されるかもしれないことを恐れています。北朝鮮の人民は韓国では就職は難しいと考えており、韓国は脱北者の待遇を良くするなどして再統一のための土壌を作っていく必要があります。北朝鮮が崩壊した場合、危機が発生します。米国や韓国が協力して大量の難民に対応し、北朝鮮の核が流出しないように至急に確保しなければなりません。日本の役割ももちろん重要ですが、陸上自衛隊の派遣は求められないでしょう」

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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