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アルジェリア人質事件の動機はアルカイダ系分派組織の功名心か 裏目に出たアルジェリア政府の強行策

木村正人在英国際ジャーナリスト

過激派封殺を優先し、被害広げたアルジェリア政府

アルジェリア南東部イナメナスの天然ガス関連施設で起きた人質事件は、アルジェリア政府による人質救出作戦の強行で多数の被害を出した。アルジェリアのサイード通信担当相は「テロリズムとの戦いに交渉や脅し、猶予はない」と述べ、交渉の余地はなかったと説明した。

人質が取られている日本や英国など多くの国が人質の安全確保と状況把握を最優先にするよう求めていたにもかかわらず、アルジェリア政府は人質救出作戦を強行した。日米欧諸国との経済関係を拡大するため、イスラム過激派による人質事件に対して断固とした対応を取ることで事件の再発を封じ込めたいとの気負いが勇み足につながった可能性が強い。

先月、フランスのオランド大統領がアルジェリアを訪問、旧宗主国として過去の圧政をわび、関係修復のムードを盛り上げた。フランスによるマリ軍事介入でも、アルジェリアはフランス空軍機の領空通過を許可するとともに、マリ北部から逃げてくるイスラム過激派の退路を断つなど全面協力していた。

アルジェリア政府は日米欧企業による石油・ガス開発を促進し、自国の経済発展につなげたいと考えており、天然ガス関連施設での人質事件は今後の経済交流の妨げとなることを懸念していたとみられている。

しかし、強行策は避けられなかったのか。

「ミスター・マルボロ」は交渉好き

人質事件発生の際、すでに死者が出るなど、アルジェリア政府が説明するように交渉の余地がなかったのかもしれない。

しかし、隻眼の首謀者、モフタール・ベルモフタール司令官は昨年10月、国際テロ組織アルカイダ系武装勢力「イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ(AQIM)」からマリ北部担当司令官の地位をはく奪され、分派組織を発足したばかり。

人質を殺すのをためらわないAQIMと異なり、ベルモフタール司令官は数百万ドルの身代金をせしめるため、人質を殺さず、交渉するのを得意としている。資金稼ぎのためタバコの密輸も手掛け、「ミスター・マルボロ」の異名を持つほどだ。

今回の事件の動機はこれまでと同じカネ目当てなのか、人質を取ってフランスによるマリ軍事介入を阻止するためだったのかはわからない。英紙ガーディアンは、ベルモフタール司令官には人質事件で注目を集め、AQIMを見返す狙いがあったとの見方を伝えている。

犯行グループが人質を連れ出そうとしていたため、アルジェリア軍が一網打尽を図って、逆に犠牲者を拡大させた可能性もある。英国の専門家は「交渉に持ち込めばベルモフタール司令官は人質を殺さなかったはずだ。アルジェリア政府が焦らなければ、英政府は適切なアドバイスを与えることができた」と指摘している。

筋金入りのジハーディスト

ベルモフタール司令官は金目当てのイスラム過激派として悪名高いが、19歳の時、アフガニスタンにわたり、国際テロ組織アルカイダの訓練を受けた筋金入りのジハーディストだ。アルジェリア内戦で左目を失い、眼帯をしている。

サハラ砂漠を知り尽くし、サハラの遊牧民トゥアレグ人勢力に幅広いコネクションを持ち、「決して捕まらない男」とも呼ばれる。しかし、昨年6月、イスラム過激派とトゥアレグ人勢力との戦闘で死亡したと報じられたが、その後、生存していたことが判明した。

ベルモフタール司令官はサハラ砂漠に姿を隠すのか、それとも新たな襲撃事件を起こすのか。

日米欧との経済交流を拡大させたいアルジェリア政府の思惑とは裏腹に、先を越された本家AQIMがベルモフタール司令官に負けじと活動を活発化させる危険性をも膨らんでいる。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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