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学校教材も脱プラスチックしませんか?~鎌倉発、教材サステナブル化プロジェクトが見据える教育の未来~

木村麻紀フリージャーナリスト(SDGs、サステナビリティ)
(写真:イメージマート)

新学期を迎えた4月1日、私たちの身近でさまざまな物品に使われているプラスチックをめぐる新しい法律が施行されました。いわゆる「プラスチック新法」(プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律)は、コンビニなどで配られるカトラリーをはじめ、特定の使い捨てプラスチック製品を提供する企業に使用の削減を求めるもので、2021年7月の全国でのレジ袋有料化に続いて、プラスチック削減の機運をさらに高めることが期待されています。

一方で、未来を担う子どもたちの学校教材には依然として多くのプラスチックが使われたままです。学校教材業界による教材のプラ使用削減に向けた具体的な対応も残念ながら目立ちませんが、地域の保護者や教育関係者の間で学校教材の脱プラスチック化を模索する動きが出てきました。

朝顔プランターはなくせる?リサイクルできる?

2021年夏、神奈川県鎌倉市内で学校教材をより環境に配慮したものにするための方策を提言しようと「サステな学校プロジェクト」のキックオフイベントが開かれました。プロジェクト立ち上げのきっかけは、一人の保護者が朝顔栽培用のプラスチック鉢を生分解性の素材に変えられないか小学校に相談したこと。実現はできませんでしたが、プラスチック製の教材が多すぎる現状に同じように違和感を抱いていた地元の小中学校の保護者や教育関係者らから共感の声が寄せられ、プロジェクトが発足しました。

小学校で使われる朝顔栽培用のプラスチック鉢。セットになっている支柱などもプラスチック製です(提供:高山商会)

キックオフイベントでは、湘南地域で小学校への教材販売を手掛ける高山商会(本社鎌倉市)のスタッフが、小学校で使われているプラスチック製の補助教材の現状や環境負荷についてレクチャーしました。それによると、全国101万人余の児童が使う朝顔鉢と支柱などのセット教材だけで、日本全体で50万トン余のCO2が排出されているとのこと。このほか、小学3年生以降に使われることの多い豆電球付きの電池セットやゴムの力を学ぶプロペラカーセットなど、理科教材を中心に多くのプラスチックが使われています。

こうした教材類はいずれも使い終わったら各家庭で自治体によるごみ回収を通じて処分され、再びプラスチック製品にリサイクルされることは極めて少ないとみられます。特に朝顔鉢は屋外で太陽に当たると材質が劣化するため、リサイクルにも適さない状態になってしまいがち。製品の耐久性を高めるために石油由来のバージンプラスチックで作り、一度使ったら廃棄されるワンウェイプラスチックが、子どもたちの教育の場では事実上放置されていると言わざるを得ないのです。

学校で教材を回収、リサイクルできる仕組みに期待感

キックオフイベントを経てプラスチック教材を何とかできないかという思いを強めたプロジェクトメンバーの皆さんはその後、他の保護者たちの考えを知ろうと「学校教材アンケート~公立小学校の補助教材に関する意識および実態調査」を実施。鎌倉市内だけでなく市外、県外からも230人余の保護者からの声が集まりました。

調査結果からは、現状の学校教材に対して3つの要望があることが伺えました。まず何よりも、補助教材のリユース・リサイクルを進めてほしいということ。それがすぐには難しい場合でも、せめて環境負荷の低い素材に替えてほしい。さらに、小学校での環境教育を推進してほしい——ということです。リユース・リサイクルについては、学校を起点とした回収などの仕組みづくりが進むことへの期待感も見えてきました。

*調査の設問や結果の詳しい内容はこちら

調査結果のまとめに携わったメンバーの一人は「地元の保護者同士ではなかなか話さないテーマですが、多くの保護者の皆さんが同じ問題意識を持っていることが分かって勇気づけられました」と話してくれました。プロジェクトでは今後、この調査結果をもとに行政や各小学校に働きかけていくそうです。

筆者も参加した2022年2月に行ったアンケート調査報告会では、自由記述として寄せられた内容を参加者間でシェア。「学校、家庭、地域の連携によってできること」「学校に取り組んでほしいこと」「行政が旗振り役になってほしいこと」などといった形で分類しながら、今後の活動方針を話し合いました(筆者撮影)

捨てられる教材を循環させて子どもたちの学びにつなげる

サステな学校プロジェクトにも参加している教材販売会社の高山商会では、先のアンケートを通じて浮き彫りになった、学校を起点とした教材の回収、リサイクルや環境教育への期待感を具体化しようと動き始めています。

同社ではプラスチック製の補助教材循環プロジェクト「まなびのもと」と題して、神奈川県逗子市内の小学校で使い終わったプラスチック製の学校教材を回収、分別、ペレット化して再び新たなモノや教材を作り出すことを目指した取り組みを進めています。2021年度は小学5年生が教材などの廃プラを回収して洗浄、粉砕、製品づくりを行い、気づいたことを発表する一連の授業を支援しました。

神奈川県逗子市内の小学校で、児童たちがプラスチックについて探求学習を行った成果を発表しました(提供:高山商会)

同社は今後、プラスチック教材を学校などで回収、3Dプリンタなど新しい技術も生かして教材を自分たちで作る風土を醸成するとともに、素材のシフトなど循環型の教材づくりを既存メーカーへ提案したいとしています。実現できれば、将来的にバージン素材からの製作や教材の配送時に生じるCO2の排出を削減することにもつながります。

同社の荒井理美さんは「このプロジェクトの主役は子どもたちと先生方です。プラスチック製の教材をできるだけ減らしながら、本当に必要な教材は素材を変えて提供することで、教材を使う人たちが幸せになってほしいと思っています」とした上で、「子どもの学びを支え、その成長の一端を担う。新しい学びを提案し、最前線で子どもと向き合う先生も一緒に楽しめるような教材開発をしていきたい。それこそが、会社としての存在価値だと考えています」と話しています。

学校で、地域で、循環を学ぶ機会を!

不要なプラスチックを減らすとともに、ただちに減らすことが難しい場合はリユースやリサイクルを行うことは、プラスチックにおけるサーキュラーエコノミー(循環型経済)が目指すところそのものです。海外では、学校のカリキュラムの中でサーキュラーエコノミーをテーマとして取り入れる動きも出てきています。

例えば、フィンランドでは2018-19年にかけて約7万人の小中学生、職業学校生、大学生がサーキュラーエコノミーを学習。これは、12歳では人口の75%、15歳では同40%が学んだことに相当するそうです。投資ファンド機能を持つシンクタンクであるフィンランド・イノベーション基金(SITRA)が、サーキュラーエコノミーの実現に求められる知識・スキルの可視化とともに、すべての教育課程でサーキュラーエコノミーを学習できるようにするための授業プログラム開発を支援したことで実現しました。

日本では2020年以降、小中高等学校で順次適用されている新学習指導要領で「持続可能な社会の創り手」の育成が明確に謳われるようになりました。プラスチック削減を入り口に、気候変動対策、2050年を目指したカーボンニュートラルなど、社会環境が大きく変化していく中で、それぞれの学校や地域発でサステナブルかつサーキュラーな学びのあり方を作り上げることが今こそ求められています。

【参考記事】

How to make the circular economy part of the national education system – Tips from Finland(SITRAウェブサイト)

【ご案内】

*「サステな学校プロジェクト」では、こちらのFacebookページで活動状況を随時発信中。教材を通じたサステナブルでサーキュラー志向の教育にご関心をお持ちの方は、どなたでも参加できます。

フリージャーナリスト(SDGs、サステナビリティ)

環境と健康を重視したライフスタイルを指すLOHAS(ロハス)について、ジャーナリストとしては初めて日本の媒体で本格的に取り上げて以来、地球環境の持続可能性を重視したビジネスやライフスタイルを分野横断的に取材し続けている。時事通信社記者、自然エネルギー事業者育成講座「まちエネ大学」事務局長などを経て、現在は国連持続可能な開発目標(SDGs)の普及啓発映像メディアSDGs.tvの編集ディレクター、サーキュラーエコノミー情報プラットフォームCircular Economy Hub編集パートナーなど、サステナビリティに関わる取材・編集、学びの場づくりを行っている。

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