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働き方改革の核心!? なぜ「ワーケーション」が必要なのか

木村麻紀フリージャーナリスト(SDGs、サステナビリティ)
長野県信濃町にオープンした「ノマドワークセンター」

2019年も半分が終わり、そろそろ夏休みが気になり始める頃でしょうか。

皆さん、ワーケーションという言葉をご存知でしょうか。

ワーケーション(Workation)とは、休暇中に国内外の旅行先や帰省先などでテレワークにより仕事をする働き方のこと。旅行などを楽しみながら特定の時間帯だけ仕事に充てながら休暇を過ごすのが一般的で、元々は米国など海外で広まったワークスタイルです。

日本では、2016年に日本マイクロソフトが導入を発表。その後、日本航空が2017年に働き方改革の一環として、期間限定で国内だけではなく海外でのワーケーションも認め、メディアでも大きく取り上げられました。

こうした企業側の動きと並行して、地方創生の文脈も絡ませつつ、移住に次ぐ第二の柱として交流人口増加に向けた期待の星と位置付けて具体策を推進する自治体も出てきました。

遊ぶように働ける場「信濃町ノマドワークセンター」

その一つが長野県です。豊かな自然環境と首都圏からのアクセスにおける優位性を活かそうと、2018年度からワーケーションを本格的に推進する「信州リゾートテレワーク」を始めています。

2018年度は県中部の茅野市、1998年の長野冬季五輪の競技会場にもなった白馬村、軽井沢町を実証地域に指定。2019年度は県北部の信濃町を含め新たに4か所指定して、県全域でのワーケーション推進を目指しています。

このうち、長野市から車で約40分の信濃町に5月末、ワーケーション推進施設「ノマドワークセンター(Nomad Work Center 以下NWC)」がオープンしました。

長野県信濃町にオープンしたワーケーション推進施設「ノマドワークセンター」
長野県信濃町にオープンしたワーケーション推進施設「ノマドワークセンター」

NWCは、信濃町が町内にある農業交流施設をリノベーションして開設、都市生活者への自然体験の機会を提供する活動を行うNPO法人Nature Service(埼玉県坂戸市)が運営しています。約40名収容可能なホールや複数の会議スペースがあり、企業のイノベーション促進で期待される集合研修や、個々の社員のリモートワークやノマドワークの拠点として利用できます。

NWCの入口。国産材をふんだんに使った内装です
NWCの入口。国産材をふんだんに使った内装です
オープンスペースの全景
オープンスペースの全景
打ち合わせなどに利用できる個室ブースも複数設けられている
打ち合わせなどに利用できる個室ブースも複数設けられている

NWC近隣には野尻湖や黒姫高原など信州・長野県を代表する自然環境があり、周辺の森林では森の癒し効果に注目した「森林セラピー」のプログラムが数多く実施されています。ウインタースポーツを楽しめるスキー場などへのアクセスも良く、季節を問わず「遊ぶように働く」を実現するにはもってこいの場です。

*NWCは通常、法人向け貸し切り型リモートオフィス施設で、2019年は特別企画で個人でのドロップイン(日にち、時間限定)は夏休みなど長期休暇期間限定で実施予定。

NWCでは、若者の起業を支援するインキュベーション機能も担おうとしています。施設内には、3Dプリンタや各種工作機を備えたメイクラボを設置。さらに、都市部では不可能なドローンや自走車を実際に動かせるフィールドも提供できます。若者が進学、就職で地域を去るのは、日本のどこの地域にも共通する課題です。地域に少しでも若者の仕事場を作ろうと、都市部の企業のイノベーション誘発と若者による起業促進との相乗効果を目指すNWCが、信州発のモデルケースとなるかどうかも注目です。

リラックス効果でパフォーマンス向上も

なぜ今、ワーケーションが必要とされるのでしょうか?まずは、ストレス軽減効果が大きいところです。

NWCを運営するNPO法人Nature Serviceが信濃町との協力で実施した脳波測定調査では、信濃町で実際に森林セラピーを含むワーケーションを体験した調査参加者の8割に、心身の自覚症状の改善が見られました。また、同じく調査参加者の8割は、都内のオフィスにいる時よりも脳が活性化している状態になったことも分かりました。

こうしたストレス軽減効果もさることながら、パフォーマンスの向上につながる可能性を示す興味深い結果も。同調査では、信濃町でのワーケーション実施時は、都会のオフィスにいる時よりも作業成績が5.3%向上しました。一連の脳波測定結果から、自然環境豊かな場所での仕事では「興味関心が向上し」「心穏やかに快適性を保ちながら作業している」ことが明らかになったのです。

自分の仕事に興味関心を持ち、快適な環境で仕事をすることは、成果を上げるための必須条件とも言えるでしょう。ワーケーションに注目すべき理由が、ここにあります。

脳波測定による自然体験が寄与する効果の検証

(NPO法人Nature Serviceホームページ)

窓から黒姫山が望める眺めの良さも、リラックスさせてくれる
窓から黒姫山が望める眺めの良さも、リラックスさせてくれる

ワーケーションは持続可能なワークスタイル創出のカギ

日本では、生産年齢人口の減少や昨今の働き方改革の流れを受けて、長時間労働せずとも成果を上げることが、これからの時代の社会を支える持続可能な働き方としていよいよ求められてきました。さらに、国連持続可能な開発目標(SDGs)の中でも、働き甲斐のある仕事と経済成長の両立を目指す目標の中に、働き甲斐のある人間らしい仕事の確立が位置付けられるなど、今や世界的なテーマとなっています。

ワーケーションは、単なるテレワークの延長、発展型では決してありません。一人ひとりの可能性を最大限に開花させながら成果を創出できる環境づくりに欠かせない、働き方改革の核心とも言えるのではないでしょうか。

リラックスできる環境と新たな交流を通じて、イノベーションを生み出すことが期待される
リラックスできる環境と新たな交流を通じて、イノベーションを生み出すことが期待される

一人の働き手として、自分がどのような環境に身を置いて仕事をすると最大限に力を発揮できるかを知ることは、納得のいく成果を上げるためには欠かせません。さらに言えば、所属メンバーが最大限の能力を発揮できる環境を用意できるかどうかが、生き残る組織とそうでない組織を分かつことになる――。

施設の窓から快晴の妙高山を望みながら、そんなことを考えさせられたNWCへの訪問でした。

<写真はいずれもNPO法人Nature Service提供>

【参考情報】

▼2019年8月10日(土)〜8月18日(日)の夏休み期間、無料でノマドワークセンターをコワーキングスペースとして開放予定です。

<プレスリリース:ワーケーション体験キャンペーン詳細

▼NWCの価格体系など詳細はこちら

フリージャーナリスト(SDGs、サステナビリティ)

環境と健康を重視したライフスタイルを指すLOHAS(ロハス)について、ジャーナリストとしては初めて日本の媒体で本格的に取り上げて以来、地球環境の持続可能性を重視したビジネスやライフスタイルを分野横断的に取材し続けている。時事通信社記者、自然エネルギー事業者育成講座「まちエネ大学」事務局長などを経て、現在は国連持続可能な開発目標(SDGs)の普及啓発映像メディアSDGs.tvの編集ディレクター、サーキュラーエコノミー情報プラットフォームCircular Economy Hub編集パートナーなど、サステナビリティに関わる取材・編集、学びの場づくりを行っている。

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