再生可能エネルギーで地域を元気に!再エネ事業の人材育成講座「まちエネ大学」の試み

初めまして、木村麻紀と申します。CSR(企業の社会的責任)はじめ、ビジネスから働き方、育児、ライフスタイルまで、持続可能な社会のあり方を追求するオルタナティブな動きをジャーナリストとして追いかけています。

そんな私の、最近のもう一つの肩書きが「まちエネ大学事務局長」。まちエネ大学って何だろう?とお感じになったと思います。まちエネ大学とは、太陽光、風力、地熱、バイオマスといった環境への負荷の少ない再生可能エネルギーを使って、環境に配慮したビジネスや持続可能な地域づくりを行う人材を育てるサステナブル・ローカル・ビジネススクールです。経済産業省資源エネルギー庁との協働事業として、2013年度は北海道、東京、滋賀、和歌山、山陰(島根・鳥取)の全国5地域で約半年間かけて開講、私はその講座内容の企画と実際の運営に携わっています。

なぜこのタイミングで、これらの地域で、このような試みを始めることになったのでしょうか――。

再エネ×○○=地域活性化という図式づくり

再エネで発電された電力を、国が決めた価格・期間で買い取ることを電力会社に義務づけた「固定価格買取制度」(FIT)が2012年7月にスタートして、1年半余が経過しました。この間、大企業が主体の事業採算性の高い大規模太陽光発電(メガソーラー)の導入が飛躍的に増加。一方で、地域の持続可能な発展につながる、地域貢献志向を持った中小規模の再エネ関連ビジネスは、資金調達や地域での合意形成の難しさなどもあり、なかなか増えていません。

しかし、過疎化・少子化・高齢化に悩まされる地方を、持続可能な環境で人々の集う魅力あふれる土地にしていくには、メガソーラーが増えるだけでは不十分です。地域に利益の落ちる再エネ事業(最近「ご当地電力」といった呼び方もされるようになっています)を増やしていく必要がある。災害時の予備電源を確保する上でも、自立分散型エネルギーの再エネを増やすことは大切。だからこそ、再エネ発電事業や再エネを絡めたまちづくり事業を起こせる人材を育てていこう!そんな問題意識の下に始まったのが、まちエネ大学だったのです。

地域の多様なステークホルダーによるコミュニティづくり

再エネ事業者育成は、過去にもありましたし、他の主体によって今でも行われています。でも、なかなかそれが地域に根付かず、結果として担い手のすそ野はあまり広がりませんでした。同じことを繰り返しては意味がありません。これまで行われたものにはなかった、新しい「仕掛け」を随所に盛り込みました。

その一つが、地域での再エネ事業の担い手にリスクマネーを投じる存在として期待される地方銀行・信用金庫などの地域金融機関に協賛いただき、一緒に講座を運営したことでした。2013年度は、北洋銀行(北海道スクール)、西武信用金庫(東京スクール)、滋賀銀行(滋賀スクール)、紀陽銀行(和歌山スクール)、山陰合同銀行(山陰スクール)という、地域の環境ビジネスへの投融資に積極的な金融機関に協賛していただきました。地域で再エネ事業を起こす人たちにとって、初期資金として、追加投資時に必要な融資を受けるべく地域金融機関に理解してもらうことが、事業を進める上での最難関です。このハードルを越えられないと、事業そのものの持続可能性が危うくなる。事業計画を作らせて終わりではなく、事業計画を作れば金融機関に相談に乗ってもらえる可能性が広がるということは、何より心強いはずです(融資可否の決定は、あくまで金融機関のご判断ですので念のため)。

地域で再エネ事業を起こすには、再エネの意義を認めて応援してもらえるような地域の雰囲気づくり、仲間との出会いも同じぐらい大切です。再エネ事業に好意的な土壌づくりの強い味方になってくれそうな地域の環境NPOや自治体にもお願いして、運営に協力してもらいました。こうして、地域の多様なステークホルダーに関わっていただき、持続可能なビジネスやライフスタイルを志向する地域の新たなコミュニティづくりも目指しました。

講座の進め方も工夫しました。エネルギーと言うとただでさえ敷居が高く、受講生が集まらなくては元も子もないので、プレイベントという形でデンマークのサムソ島を100%クリーンエネルギー化した取り組みなどを紹介したドキュメンタリー映画『パワー・トゥー・ザ・ピープル』の上映と再エネの未来を語り合うワークショップを各地で行いました。映画を見に来てもらうだけでもいい。とにかく敷居をできるだけ低くして、普通の市民も再エネでエネルギーを生み出せることを広く知っていただき、再エネ事業の担い手のすそ野を広げたかったのです。

プレイベント ワークショップの様子(和歌山スクール)
プレイベント ワークショップの様子(和歌山スクール)

その甲斐もあって、その後の本講座はビジネスパーソンだけでなく、NGOパーソン、大学院生、主婦の方、リタイアされた方などなど、実に多彩な人たちに受講していただきました(個人的には、もう少し女性に来ていただきたかったですが)。映画の内容に触発されて、ワークショップが大いに盛り上がったせいか、某所では参加した女性から「宗教団体の集まりかと思った」と言われたり。でも、その後「再エネに関心を持っている人たちが地元でこんなに大勢いることを知り、感動した」とのお言葉もいただきました。東京あたりでは、同じような分野に関心を持った人たち同士が繋がりやすいですが、地方ではなかなかそうもいかないので、こういった仕掛けが大切なのだと実感しました。

プレイベントにご参加の皆さん(東京スクール)
プレイベントにご参加の皆さん(東京スクール)

人脈を超えた仲間づくりが大切

本講座に入ってからの学びの形も、ちょっと変えてみました。せっかく同じテーマに関心を持った人たちが集えたのですから、講師からの一方的な話を聞いて、ちょっと質問して解散、ではもったいない。そこで、知識の習得は講座前に映像教材を視聴してもらうことによる自学自習でカバーし、当日はゲスト講師への質問や受講生同士のグループワークを通じた学び合いを促す「反転授業」を取り入れました。ふたを開けてみると、ほとんどの受講生の方々が事前に映像教材を見てから講座に参加されていて、全体の8割近くの方々にこうした反転授業による進行をご評価いただきました。東京から派遣した講師による一方的な講義ではなく、それぞれの地域にゆかりのあるファシリテーターに受講生からの発言を引き出してもらいながら進めたことも好評でした。

まちエネ大学は、同種の講座と比較すると、知識の習得に関わる部分は質量ともに少ないかもしれません。それはなぜか。実際に地域に入っていって再エネ事業を起こすには、知識があるだけではダメだからです。「言いだしっぺ」のリーダーとして、一緒に事業を進めてくれるフォロワーにどのようにして同じ思いを共有してもらえるか。地域に厳然と存在する利害関係をどのようにして突破していくか――といった点での学びのほうが、はるかに役に立つはず。そう考えて、私たちは本講座の中でのグループワークだけでなく、その後の懇親会も設け、さらには事業計画の策定に向けて講座外でもグル―プで集まるよう促したりもしました。打算的な匂いもする「人脈」というものを超え、より深いレベルの同志的なつながりに至るプロセスを大切にしました。

グループワークの様子(北海道スクール)
グループワークの様子(北海道スクール)

最終回には、全国5つのスクールで31グループによる事業計画プレゼンテーションを行いました。改造電気自動車とドームテントを組み合わせたオフグリッド生活体験施設(北海道スクール)、大学キャンパスで展開するソーラーシェアリング(東京スクール)、小水力発電による売電収入を地域の過疎化対策に還元(滋賀スクール)、バイオマスエネルギーで梅酢を地域ブランド化(和歌山スクール)、温泉地での地熱発電で観光振興(山陰スクール)など、単にFITを使って再エネ発電事業を行うのではなく、持続可能なまちづくりをしていく上でツールの一つとして再エネを取り入れるというマインドが育ったことを裏付けるプランが続々と生まれました。

プレゼンしたリーダーたちの地域への思い、次の世代には再エネを主体とした社会を残したいという熱意に、審査員が思わず涙したスクールもあったほどで、最終的にはそれぞれのスクールで密度の濃いコミュニティが出来上がりました。でも、再エネを通じた持続可能な地域ネットワークを広げる試みは、ここからが始まりです。2014年度は、新たな地域でまちエネ大学を開催すると同時に、こうして生まれた一期生の皆さんのプランにさらに磨きをかけ、事業開始につなげるまでの支援も並行して行っていきます。

プレゼン終了後に修了書を受け取るリーダーの皆さん(滋賀スクール)
プレゼン終了後に修了書を受け取るリーダーの皆さん(滋賀スクール)

イノベーションのカギは「越境」にあり

これまでも再エネ事業者育成の場はありましたが、地域に定着したとは言い難い側面がありました。まちエネ大学もまだまだ改善の余地はありますが、約87%もの受講生が「とてもためになった」「ためになった」と評価、とりわけ映像教材を使った反転授業や受講生同士のつながりができたことに対してご好評いただきました。それはなぜか。私は、まちエネ大学に関わったすべての当事者が、これまでの自らの立場やそこから生じる固定概念から一歩抜け出して、持続可能なコミュニティをつくるという大義に向かって「越境」できたからだと思うのです。

例えば、今回のまちエネ大学に協働事業として携わっていただいた中央官僚(資源エネルギー庁)の皆さん。各地のまちエネ大学に参加して受講生の皆さんと本音のやり取りすることを通して、作成側として取り組んだ政策がきちんと再エネ事業者支援につながっているかを確認し、新たな政策ニーズの発見にもつなげていただけたようでした。

ご協賛いただいた地域金融機関の皆さんも、受講生からの質問や悩みに丁寧に答えて下さいました。金融機関の皆さんにとっても、ゼロから事業が生まれるプロセスを間近で見られることは稀なはずで、貴重な学びの機会になったのではないかと思います。プロフェッショナルコーチ、IT起業家支援、弁護士、公認会計士、地域活性化プロデューサーといった皆さんも、講師陣として日ごろの専門性を生かしつつ、受講生の皆さんのニーズに臨機応変に応えて下さいました。

さらに、受講生の皆さんにとっても、まちエネ大学は「越境」体験だったはずです。市民と行政が対峙すると、市民は「行政はけしからん」とばかりにとかく批判と要求をしがちですが、主張すべきことは言いつつも、自らできることから積極的に行動している講師陣の言動に触発されて、意識改革をされた方々が数多くいらっしゃいました。

私自身も越境しました。これまでは取材して書くことしかしていなかったところに、事業を立案して運営していくというプロジェクト・マネジメントという新たな領域にどっぷりと入り込みました。40を過ぎて新しい領域にチャレンジできるなんて、本当に有難いことです。

「就農」のように「就エネ」を増やす

一橋大学イノベーション研究センターの米倉誠一郎教授は、まちエネ大学受講生へのビデオメッセージの中で「地域で再エネ事業を起こすということは、40億人もの人たちがエネルギーにアクセスできない途上国のエネルギー問題の解決にもつながるイノベーションだ」と呼びかけています。まちエネ大学は、グリーンイノベーションを促し、地域の、さらには世界の課題解決にも資する人材を育てようとしているのです。

これからの時代の地域の課題解決には、政策を司る行政、事業を持続可能なものにしていくためのリスクマネーを投じられる地域金融機関、さらには市民の主体的な参加を促すNPOという地域の主要なステークホルダーが、立場を超えて取り組むプラットフォームが不可欠です。まちエネ大学がそのプラットフォームの役割を今回担えたことで、まちエネ大学で実践してきた様々なノウハウが、再エネだけでなく実は様々な地域の課題解決にも応用できるのではないかという感触を得ました。

日本の総発電量に占める再エネの割合は、大型水力を除けばわずか1.6%。日本の国土が持つポテンシャルを活かして、再エネ比率を20%、30%に増やしていくためにも、就農を促すがごとく、エネルギーの作り手を増やす「就エネ」の流れを、このまちエネ大学から日本全国に広げていきたいと思っています。2014年度は、東日本大震災の被災地・東北でも開催します。再エネ×○○=復興につながる事業を、たくさん育てていきたいものです。

まちエネ大学紹介動画

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