ドイツはいったいいつからこんなチームになってしまったのか?

14年ブラジルW杯で世界王者に輝いた時は、当時流行のパスサッカーにドイツらしい守備の耐性を加え、圧倒的な強さを誇った。ブラジル相手に1-7と衝撃的な大勝もした。EURO2016も準決勝進出で面目を保った。それが3年前のロシアW杯ではグループステージで敗退。そして、今大会は「優勝候補」と推す声もあったが、内容にはずっと納得がいかなかった。

昨日のイングランド対ドイツも「やっぱりな」だった。

だいたい、ドイツの3バックは何のためにあるのか?

■24チーム15が3バック採用

3バックが流行っている。

伝統的に3バックは弱者の守備固め(実質5バック)に過ぎなかったスペインでも、昨季はレアル・マドリー、バルセロナ、アトレティコ・マドリーが採り入れた。“戦術的な進化”というより、ケガ人続出でSBがいなくなったとか、余剰戦力の有効活用とかの意味合いが強かったが、まあそれはいい。CLを制して欧州の頂点に立ったのも3バックのチェルシーだった。

で、EURO2020が幕を開けてみると、3バックだらけである。採用しているチームを挙げてみる(一時的に使ったところも含め)。

スイス、フィンランド、ベルギー、ロシア、オーストリア、北マケドニア、オランダ、スコットランド、ポーランド、ハンガリー、ドイツ、デンマーク、ウェールズ、フランス、イングランドとなんと15チームもある!

■3バックのメリットとは?

なぜ、3バックなのか?

まず単純に言って、守備を固めやすいというのがある。

3CBでセンターラインを強化できる。長身のDFを3人選べば空中戦に強くなり、セットプレー対策も万全だ。先の15チームの中に戦力的に格下のチームがかなり含まれているのはそのためだ。

次に、サイドの選手を高い位置に保つことができる。

システム図上は横並びの4バックのSBでもグラウンド上では前にポジショニングする。これがCBが1人増えることによって3CBが横に広がることになり、押し上げられる格好でサイドの選手の位置はさらに高くなる。

なので、SB不足の時に緊急避難的に3バックすることもよくある。3バックのサイドならSBでなくとも務まるから。

デシャン監督がスイス戦で3バックにしたのも、ディネェとリュカのケガで左SBがいなかったからだった。もっとも、これは大外れ。3人目のCBレングレットが失点の原因となってハーフタイムに慌てて4バックに戻した。

バルセロナが3バックにしたのは守備に不安がある右SBデストを前に置いて背後の穴を塞ぐため。レアル・マドリーとアトレティコ・マドリーが3バックにしたのは、ビニシウスとカラスコによってサイド攻撃を強化するためだった。

頼みの綱、空中戦でも劣勢ではドイツに勝ち目はない
頼みの綱、空中戦でも劣勢ではドイツに勝ち目はない写真:代表撮影/ロイター/アフロ

■3バックならボール出しが容易

3バックの3つ目のメリットはボール出しがしやすい、ということだ。

4バックでボール出しをする場合、セントラルMFが下がって来てサポートをする。レアル・マドリーではクロース、バルセロナではブスケッツがそうしている。それでもサポートし切れない時は両CBの間に入ってしまう。

例えば、今スペインでボール出しが最も巧みなソシエダはこのパターンで、セントラルMFのスビメンディが、まるで3番目のCBであるかのような位置取りをする。

いずれにしても、CB2人+セントラルMF1人のトライアングルで数的有利を作ってボールを出す。

■が、ドイツは3人では出せない

このトライアングルが最初からできているのが3バックである。これで、論理的にはボール出しが容易なはず――だが、ドイツはそうではない。ポジショニングが悪いから。

昨日の試合では、3バックが物凄く近い距離でフラットに並んでいて、真ん中のフンメルスがボールを持っていてパスを出しあぐねているシーンがよくあった。

3バックのボール出しの基本の1つは、センターCBを頂点とする逆三角形を作ること。

フンメルスがボールを持っている時は、右CBのギンター、左CBのリュディガーの少なくとも1人は斜め前にいないといけない。こうすることでフンメルスには彼らへのパスコースができるし、彼らがボールを持てばMF、サイドの選手とコンビがしやすくなる。

2つ目は、フラットでもいいから3人は横一杯に広がること。

そうしておいて、彼ら3人の間で横パスをしつつ、間に降りて来るMFか、あるいはサイドとの連係(スペースへ真っ直ぐ縦パス送るなど)でボールを出す。この配置であれば、フンメルスがそのままボールを運び、引き付けておいてフリーになった左右のCBやMFへ渡して出す、という手もある。スビメンディがやって面白いほど成功しているやり方だ。

■クロース頼りなら4バックでいい

ドイツの3バックが近い距離感でフラット、というやり方ではボールが出せない。3バックまとめて2人でマークされてしまえば、数的有利にならない。

なので、クロースがサポートに下がって来ることになるのだが、これでは4バックでできることを3バックでやっているだけ。後ろに人が余るしパスのターゲットが減るしで、3バックの良さが出ないどころかむしろマイナスだ。

もちろん、クロースのピンポイントのキックがあれば、これでもボールは出せるだろう。だが、クロースがマークされたらどうする? それに、結局クロースが出すのなら4バックでいいじゃないか。

ボール出し、ゲームメイク、ラストパス。1人に求め過ぎだ
ボール出し、ゲームメイク、ラストパス。1人に求め過ぎだ写真:代表撮影/ロイター/アフロ

この点、イングランドのボール出しは巧みだった。

ストーンズを下の頂点とする逆三角形はできているし、マグワイアはドイツのプレスが来ないとなると躊躇なく上がって行った。

それと、右CBがSBのウォーカーなので高めのポジショニングができ、代わりに下がって来たトリッピアーが思いっ切りサイドに開いて待つとか、ウォーカーがサイドに開いて彼とストーンズの間のスペースにフィリップスが降りて来るとか多彩で、ドイツは的が絞れていなかった。そのうちに、もともと弱かったドイツのプレスはどんどん様子見になっていく。

そもそも、なぜボール出しが大事なのか?

ボールを確実にキープしながら上がって行くことで数的有利が作れるし、相手がマークに出て来れば、それまでマークされていた選手がフリーになって、2対1になってさらに前進が容易になる。この調子でフリーの選手を攻撃に加えていき、相手のマーカーを置き去りにしていくことで数的格差はさらに広がり、マークのズレ具合は拡大していき、当然チャンスは決定的になる――少なくとも論理的にはそうだ。

■打開もやっぱりクロース任せ

では、ドイツのボール出しが停滞すると何が起こるか? 当然、攻撃は停滞する。前線に確実に、アタッカーがプレーしやすい状況でボールを供給できなくなるから。

となると、どうなる?

フランス戦でもハンガリー戦でもそうだったように、前線の選手たちはクロースからの針の穴を通すようなパス待ち、CBからのアバウトなロングボール待ちになる。それでも得点は不可能ではないが、はなはだ効率が悪い。で、クロースを抑えられれば手も足も出ない。

イングランドはロシアW杯では3バック一本で準決勝まで進んだ。今大会では4バックがメインで3バックはサブだが、ドイツとは年季が違う。ドイツが何年やっているかわからないが、ボール出しの巧拙で成熟度の差が明らかになってしまった。

3バックにこだわる理由が見えぬまま、チームは大会を去ることになり、レーブ監督は辞すことになった。

※残り1試合、スウェーデン対ウクライナについてはこちらに掲載される予定なので、興味があればぜひ。