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EURO2020第15日。防戦一方でも勝つからベルギーは強いのか?否、だから弱いのか?

木村浩嗣在スペイン・ジャーナリスト
ロナウドは良くやった。割り切れない敗戦だった(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

シュート6本のベルギーが24本のポルトガルに勝つ。ベルギー対ポルトガルのような試合があると、サッカーの公正さを疑ってしまう。ベルギーの枠内シュートはたった1本である。

デンマーク対フィンランドでもフィンランドがたった1本のシュート(枠内も1本)で、23本のデンマークに勝ったが、あれは再開されるべきでなかった試合で非常に特殊な状況下で起こったことで、今再戦したらデンマークが間違いなく雪辱を果たす。が、ベルギーはまたポルトガルに勝ってしまうかもしれない。

■リージョが勝敗予想を拒否する理由

元ヴィッセル神戸監督のファンマ・リージョにインタビューした時に「サッカーで勝つのに敵陣に入る必要はない。キックオフでゴールして、後は守り倒せばいいのだから」と言っていた。“いくら攻めても勝てないこともある不確実性の高い競技だ”というのを嘆き半分、“でも、嘆いてもしょうがない”という現実論半分で語ってくれたのだ。

インタビューの目的は昔のCL決勝マンチェスター・ユナイテッド対バルセロナの勝敗予想だったが、さんざんグアルディオラのバルセロナの凄さを説明してくれた上で、「じゃあバルセロナ優勝ですね」と念を押したら、「いや、どっちが勝つかはわからない。優勢なのはバルセロナだ。敵陣に入らなくたって勝てるのがサッカーなんだから」とぴしゃり。「優勢だったら普通勝つでしょう? バルセロナ勝利でいいじゃないですか?」とこっちもいろいろ変化球で攻めたのだが、「勝敗予想はできない」の一点張り。

あの時から私も目が覚めた。

「どっちが勝つかはわからない」というのは、サッカーをもの凄く知っていて愛しているリージョの真摯さの表れなのである。ポゼッションをしてポジショナルプレーを追求するのもそれが「勝利への最短距離」だとリージョが信じているからなのだが、「絶対に確実な勝利への道」は存在しない。ゴールをしなければ勝てない競技で、ゴールをするために攻め続けても勝てないことはしょっちゅうで、負けることさえある。

■番狂わせが常に面白いとは限らない

「番狂わせがあるから、サッカーは面白い」という人がいる。

私もエイバルが予算規模で十数倍のレアル・マドリーやバルセロナを倒した時は、スカッとする。世知辛い現実社会を想い、「サッカーっていいな」と思う。

しかし、力が拮抗している昨日のような試合で、明らかに良いサッカーをし、それがシュート数の差にも歴然と表れているチームが負けると、「不公平だな」と思う。釈然としない。別にポルトガルファンだからではない。逆の立場だったらベルギーに同情していた。

アルメリア監督時代0-8でグアルディオラのバルセロナに敗れたリージョは解任されたが、今も師弟関係は続く
アルメリア監督時代0-8でグアルディオラのバルセロナに敗れたリージョは解任されたが、今も師弟関係は続く写真:ロイター/アフロ

「サッカーでは『勝利に相応しい』というのは通用しない」とスペインでは言う。大事なのは勝利だけ。「相応しい」は負け惜しみだ、と。しかし、少年サッカー監督としては勝利に相応しいサッカーをすることを目指す。ゴールチャンスを作れば作るほど、シュートを撃てば撃つほど勝利に近づく。監督のできることはそれしかないからだ。

リージョに感謝したい。

■交代の遅れはなぜ?人材不足?

ポルトガルは勝利のためにすべてのことをした。

終盤に近づくにつれ攻勢は激しくなり、80分から試合終了までに5回のチャンスを作った。ゲレイロのシュートはポストを叩き、ルベン・ディアスの強烈なヘディングシュートはGKクルトワの正面に飛び、ロナウドのセンタリングはアンドレ・シルバが押し込む前にクルトワが体を張って止めた。

アンドレ・シルバの飛び込みに対応するクルトワ。終盤は常にこんな感じ
アンドレ・シルバの飛び込みに対応するクルトワ。終盤は常にこんな感じ写真:代表撮影/ロイター/アフロ

一方、ベルギーは勝利のためにすべてのことをしただろうか?

足が止まりトラップやパスは不正確でイーブンボールは次々と奪われる。追加点を狙わなくとも、ボールを遠くでキープして時間を使うだけで良かったのだが、それすらできない。ルカクはペペに全敗で、仲間を探してもイージーなショートパスすら繋がらない。横走りのドルブルでファウルをもらってプレーを切る、ロシアW杯でも見たエデン・アザール得意のチームプレーも残り15分間ぐらいで完全に消えてしまった。ルカクとアザール兄弟の疲労困憊は明確で、メルテンスは疲れていないのにミスをする状態。なのに、ロベルト・マルティネス監督は動かない。やっと87分と94分にアザール兄弟が下がったが、フレッシュな選手で押し返すためではなく、時間稼ぎのための交代だった。

CFは人がいないのだろうか? クリアに近いロングボールを放り込むのがやっとだった状態で、それを収められるか否かは死活問題。ルカクの疲労は決定的なハンディだった。疲れ切ったルカクよりもベンテケやバチュアイは信頼できないのだろうか?

防戦一方のベルギーは果たして強いチームなのか? 否、防戦一方でも勝てるからこそベルギーは強いのか?

デ・ブルイネ、エデン・アザールの負傷の具合も含め、次の準々決勝イタリア戦に向けて不安が残った。

※ベルギーについてはロシアW杯時に、上で書いたことと矛盾することを書いている。参考になれば。

同大会のベルギー対日本についてはこちら。

※残り1試合、オランダ対チェコについてはこちらに掲載される予定なので、興味があればぜひ。

在スペイン・ジャーナリスト

編集者、コピーライターを経て94年からスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟のコーチライセンスを取得し少年チームを指導。2006年に帰国し『footballista フットボリスタ』編集長に就任。08年からスペイン・セビージャに拠点を移し特派員兼編集長に。15年7月編集長を辞しスペインサッカーを追いつつ、セビージャ市王者となった少年チームを率いる。サラマンカ大学映像コミュニケーション学部に聴講生として5年間在籍。趣味は映画(スペイン映画数百本鑑賞済み)、踊り(セビジャーナス)、おしゃべり、料理を通して人と深くつき合うこと。スペインのシッチェス映画祭とサン・セバスティアン映画祭を毎年取材

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