Yahoo!ニュース

EURO開幕!失望トルコの悪例にみる、「引きっ放し」と「堅守速攻」の大違い

木村浩嗣在スペイン・ジャーナリスト
インモービレの2点目。インシーニェの3点目はベストゴールの1つになるかも(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

サッカー欧州選手権、EURO2020が開幕した。7月11日までの1カ月間、51試合を全部見て、戦術、采配など大きな視点とプレー、ジャッジなど小さな視点で、毎日大会や試合を評価していきたい。

セレモニーはコロナ禍に相応しく簡素で、オペラの独唱もイタリアらしかった。が、締めになぜボノ(U2)なのだろうか? 昔のプロテストソングを知る者としては、おめでたいお祭りソングにはがっかりだ。

■教訓、1年前の予選は当てにならない

さて、ダークホースと呼ぶ人も多かったトルコ。今大会の優勝候補はフランスだと思っているが、トルコは予選でフランス相手に1勝1分だったのだ。が、大会延期のせいで予選終了から1年以上経っており、当時の成績が当てにならないことが良くわかった。それよりも今の状態、特にフィジカルコンディションが重要な大会になりそうだ。

トルコの最大の敗因は、カウンターに転じるプランが存在しなったことだ。

引いて守ろうとしていることは、キックオフの時点からすぐにわかった。イタリアにボールを持たせ、下がって自陣に誘い込んでカウンターを狙う。このプラン自体は、優勝候補相手の初戦、引き分けで全然OKという状況を考えれば妥当だ。

問題はどこまで下がって守備ブロックを築くか?

バックパスを追わない。これは普通。キエッリーニ(イタリアCB)がボールを持ってもプレスを掛けない。なるほど。ジョルジーニョ(セントラルMF)を自由にさせている。おいおい!

下がるだけではブロックにならない。いつかは踏み止まってプレスに転じなければならない。が、CBの前にいるジョルジーニョにもプレスを掛けないということは、トルコの最終ラインはペナルティエリアまで下がっているということだ。

■「徳俵」で耐え続けるのは不可能

ペナルティエリアというのは相撲で言えば「徳俵」である。もう後がない。

これ以上下がればミドルシュートが撃てるゴール前まで侵入を許すことになり、PKを犯すリスクもある。下がるメリットよりデメリットの方が大きくなってしまう。なので、例えば堅守速攻の名手アトレティコ・マドリーはペナルティエリアまでしか下がらない(緊急事態を除く)。ここで踏み止まれば「ローブロック」が完成する。

が、ボールがスピナッツォーラ(イタリア左SB)へ渡るとトルコ守備陣はペナルティエリアに踏み込んでしまった! 相撲で言えば土俵外、この時点で負けである。

プレスが来ないからSBもウインガー並みの高い位置取りができる。イタリアは最初見かけ3バックのような形――両CBの間にジョルジーニョが入る――で、ボール出しをしていた。が、プレスが来ないのでキエッリーニにボール出しを任せ、ジョルジーニョは前でボールを触ることができ、SBは安心して上がることができた。左ウインガーのインシーニェはすでに内側に入り、相手CBデミラルを引き付けている……。

■放り込みロングボール対決でCF完敗

ここまで下がって、どうやって攻撃に転じるのか?と思ってみていたら、CFブラクへロングボールを蹴り込むだけ。で、ブラクがどこまで単独で相手CBとバトルしてくれるのか?と楽しみにしていたらキエッリーニに完敗だった。

これではまずいと右サイドのカラハンをブラクのサポートに付けると、今度は守備に大穴が空いた。

特に前半、トルコの右サイドが破られたのは右SBチェリクが孤立したから。戻り切れないカラハンの背後を狙われた。チェリクのサポートをするはずのデミラルはインシーニェに対応。セントラルMFオカイはサポートに間に合わない位置で中途半端に余っていた。

ペナルティエリア内でかろうじて奪い返したボールは、アバウトなロングボールを蹴ることで失い、数秒後にまたペナルティエリアに戻って来る。

まさに、「慌てて出したボールは慌てて戻って来る」(ファンマ・リージョ、スペインの指導者、元ヴィッセル神戸監督)という悪循環で、トルコは防戦一方。

その必然の結果が、シュート数1本対24本、0-3というスコアだった。

■上げ下げの駆け引きで攻撃精度を上げる

個で言えば、GKチャクル、CBデミラル、MFヤズジュ、交代で入ったFWウンデルには見るものがあった。

が、ボールが持てずカウンターが成立しないのでは勝てない。攻めるためにはもっと前へ出る必要がある。CFが少なくともジョルジーニョにプレスを掛け、できればチームの重心をセンターライン付近に置いて、チームの前半分がセンターラインの前、後ろ半分が後にくらいの感覚(いわゆる「ミドルブロック」)。相手の攻撃のいくつかは下がらず、オフサイドトラップで防ぐ。

もちろんラインを下げても良いが、マイボールの時には必ずラインを上げる。相手陣内に攻め込んでいてボールを失った時はバックパスも追う。ラインが上がればボールの回復点も前になり、グラウンダーのパスから始めるカウンターも可能だろう。

そうすれば、ウンデルのドリブルやチャルハノールの技術、ブラクの1度だけ見せた意外な1対1での速さも生きるだろう。というか、それでしか生きない。次戦、対ウェールズではそういうメリハリのあるトルコを見てみたい。

イタリアは評判以上だった。特に3トップの動き方とコンビネーションが素晴らしい。主審マッケリーのジャッジぶりも良かった。VARに頼らないプレーの見極め、アピールをシャットアウトする毅然としたジェスチャーは文句なし。トルコDFが広げた腕にボールが当たってもハンドはなし。リーガエスパニョーラだったらPKだったところだ。みなさん、これが今大会の笛の基準になるので、覚えておきたい。

在スペイン・ジャーナリスト

編集者、コピーライターを経て94年からスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟のコーチライセンスを取得し少年チームを指導。2006年に帰国し『footballista フットボリスタ』編集長に就任。08年からスペイン・セビージャに拠点を移し特派員兼編集長に。15年7月編集長を辞しスペインサッカーを追いつつ、セビージャ市王者となった少年チームを率いる。サラマンカ大学映像コミュニケーション学部に聴講生として5年間在籍。趣味は映画(スペイン映画数百本鑑賞済み)、踊り(セビジャーナス)、おしゃべり、料理を通して人と深くつき合うこと。スペインのシッチェス映画祭とサン・セバスティアン映画祭を毎年取材

木村浩嗣の最近の記事