ロシアW杯24日目。ベルギー対イングランド。ベルギー勝利に見る3バックの誘惑と、イングランドの困惑

アザールとケインの登場頻度の差、3バックの成熟度の差がスコアに表れた(写真:ロイター/アフロ)

マッチレビューではなく、大きな視点でのW杯レポートの23回目。大会24日目の3位決定戦で見えたのは3バックの誘惑と困惑。ベルギーとイングランドの設計思想と成熟度の違い……。

3バックと聞くと思い出すのが、もう20年近く前、監督ライセンスの実技講座でのことだ。教官に当てられた生徒(私たち)がテーマに応じて練習プランを組み立て、生徒を選手役にして実際にやってみる、という形式の授業。テーマは確か「オフサイドラインの上下動」だった。クラスメートが「システムは[3-5-2]で……」と言い掛けた時だった。「駄目。君、不合格!」と教官が言い放った。

「3バックならフリーマンを最後尾に置く。それでどうやってオフサイドラインを作るんだ?」

横並びの4バックと違って3バックでは、センターのCBが左右のCBのカバーリング役となるから最終ラインはフラットではなく、逆三角形の形となっている。

ベルギーならコンパニが左のフェルトンゲン、右のアルデルワイレルトの斜め後方に、イングランドならストーンズがマグワイア、ウォーカーの斜め後方に位置する。そもそもフラットでないラインではオフサイドラインができない。だから不合格、というのが教官の答えだった。

3バックではオフサイドの課題は不合格

3バックでもフラットになる局面はあるからオフサイドラインを作れないことはない、と今なら思う。

かつて日本代表が実践したフラット3というやり方もあるし、昨日の試合でも、相手ボールで危険が迫っていない時はベルギーもイングランドも5バックのフラットで待っていた。また、逆に相手陣深くに攻め込んでいる時はFW1人を3人掛かりでケアなんてもったいないことはせず、2人でケアし最終ラインを作っていた。

だが、当時は「なるほど、オフサイドラインを作るなら4バックだな」、と単純に理解した。

教官が言いたかったのは、ラインセンス獲得試験では突っ込まれかねない3バックにせず、より簡単な4バックの想定でやった方が良い、ということだったのだろう。

スペインに3バックへのアレルギーがあるのは確かだ。

私が習ったサッカー連盟の育成世代向け推奨システムは[4-3-3]と[4-4-2]だった。いずれも左右対称で3ラインだけ。ゾーンディフェンスのエリアは明確だし、前後のカバーリング関係も子供にもわかりやすい、というのが理由だ。これが[4-2-3-1]になると4ラインになり、1トップの守備担当エリアが広過ぎる(よって守備時は[4-4-2]に変化するなどの手当てが必要になる)などの問題が起きる。

スペインにある3バックアレルギーと偏見

さらにベルギーの[3-4-3]、イングランドの[3-5-2]となると、すでに述べたように3バック内でも真ん中と左右の役割が違うし、オフサイドラインを作るにも状況判断が必要となるし、サイドの2人の上下動の距離が子供にはカバーできないほど過酷になる。

3バックはより特殊で複雑だから、子供は一般的な4バックで学びましょう、というわけだ。だからスペインの育成世代で3バックのチームはほとんどない。

加えて、“3バックは守備的だ”という偏見もある。

3バックは押し込まれると容易に5バックになるし、オフサイドラインを作りにくいので最終ラインも下がり気味になる、と。確かにリーガエスパニョーラでは戦力に乏しいクラブが駆け込み寺的に3バック(実際は5バック)に頼る、というケースが多かった。だが、昨季はフラットの3バックで攻撃的なジローナが躍進したし、今大会でもベルギーは16得点で得点ランキング1位、イングランドは12得点で3位と、攻撃的になれないことはないのだ。

システム表記上のイングランドの欠点とは?

ベルギー対イングランド(2-0)を見ていて思ったのは前回の記事でも書いたが、3バック時のGKからのボール出しの巧拙だ。

ベルギーの方がショートパスを繋いで上がる成功率が高く、イングランドの方が低くてロングボールに頼る率が高い。

ベルギーには必殺のカウンターがあり、昨日の2点も見事なものだったが、相手陣形が整っている時はカウンターを諦め、作り直ししてボールキープに努める。マイボールの間は攻められる心配がなく、時間を使って体力の消耗を抑えることができる。

こういうコントロールはボールを持っていないとできないのだが、後ろからのボール出しがスムーズな分ボールロストの少ないベルギーの方が加速&減速、速攻&遅攻の使い分けができていた。

イングランドのボール出しの問題は、FIFA表記のシステム図[3-1-4-2]によく表れている。

システムやフォーメーションに、まるで数学のような絶対的な解釈や解答を求めるのは馬鹿げたことだと思っているが、この場合は話を単純化できるので紹介したい。

イングランドの場合は[3-1-4-2]という表記に見られるように3バックの[3]と攻撃的MFの[4]の距離が遠く、なかなかこの間でボールが繋がらない。これに対してベルギーの場合は[3-4-3]という表記通り、3バックの[3]と攻撃的MFの[4]の距離が近く、ボールが繋がり易い。これはもちろん下がってボールをもらおう、という意識の強さの違いでもある。

自由なアザールとサイド限定のトリッピアー

そんな馬鹿な、と言うなかれ。

このシステム図を頭に入れて試合を見ていると、グラウンド上で現実に起こっていることを正しく反映していることがわかるのだ。

システム図やフォーメーションを何か重要な法則のように語る見方にはまったく与しないし、並びや配置よりも「どうプレーするか?」という意図の方が大事だと思っているが、図で説明した方が早い、というこんなケースも稀にある。

ベルギーとイングランドの差は、端的に言えばアザールとトリッピアーの差である。

3トップだったりサイドだったりするアザールは、後ろからのボール出しにも積極的に参加する。前でも後ろでもボールに触る。だが、トリッピアーは同じくらい重要な選手であるにもかかわらずなかなか出て来ない。ボールタッチ自体が少ない。

トリッピアーがサイドでの上下動に留まっているのに対し、アザールはより自由に動いているという自由度の違いもある。

ベルギーがデ・ブルイネとアザールに自由を与えられるというのは、周りの選手がそれをカバーできるからで、イングランドの方はまだそこまで戦術理解が達していない、ということかもしれない。アザールのようなドリブルはないかもしれないが卓越したパス能力のあるトリッピアーは、サイド限定では惜しい。

イングランドの伸びしろとベルギーの成熟

途中出場で流れを引き寄せたリンガードも、2トップの近くでだけプレーさせるのはもったいない。デ・ブルイネが任せられているように、3バックからボールをもらう役は彼、という選択もあるのではないか。3バックの前にいるヘンダーソンはカバーリング役としては最適だが、4人のMFとのリンクとしては不十分で、しばしばストーンズと役割がかぶっていた。

あとはケインをもっと見たかった。ボール出しが安定してボールをもっと持てるようになれば、彼の登場機会も自然と増えるのだろうが……。

サウスゲイト監督はおそらく続投で次のEURO2020も3バックで臨むのだろう。配置や役割がどう進化していくのか楽しみだ。

ベルギーの方は今のままで十分成熟している。

カウンター時の流れるような動きとパスワークを見ていると、戦術理解だけでなく相互理解の深さも伝わって来る。EURO2020は優勝候補として臨むことになるに違いない。強さではフランスに敵わなかったが、やろうとしていることの難易度の高さ、美しさでは今大会ナンバー1のチームだった。そんな彼らとの試合が名勝負の1つとして語り継がれることになる日本は、それを誇りにすべきだろう。