ロシアW杯21日目。ロングボールサッカーを馬鹿にしてはいけない。ロシア、スウェーデン躍進の教訓

今大会のベスト監督チェルチェソフ。王様のジュバを代えるロシアの真のワンマンだ(写真:ロイター/アフロ)

マッチレビューではなく大きな視点でのW杯レポートの20回目。大会21日目の2試合で見えたのは、ロシア、スウェーデン躍進の教訓。ロングボールサッカーを馬鹿にしてはいけない、という自戒である。

ロングボールを馬鹿にしてはいけない、というのは自分に対して言っている。

スペインで「サッカーをする」と言えば、ショートパスを繋ぐサッカーをするという意味。そういうお国柄で、小学生には戦術的・技術的により高度なことを教えた方が、うまくなるし頭も良くなる、という確信があるから、GKにスローさせて前へ繋いで行くやり方を最初に教える。それをかっさらわれて即失点という事態にも動じないのが、指導者だと思っている。よって、どうしてもロングボールを馬鹿にしてしまうのだ。

勝負にこだわるプロの世界では「あり」だと思うのだが、偏見は確かにある。しかし、スウェーデンやロシアを見ていて学べることが大いにあるし、自分でも子供たちにやらせてみたいな、と思った。個の発想に任せるショートパスによる崩しとは対照的に、ロングボールによる攻撃とは、極論すれば攻撃のセットプレー化でありパターン化であるからだ。

スウェーデンのキックオフで見た奇妙な光景

スウェーデン対イングランド(0-2)で見たスウェーデンはキックオフから面白かった。

普通は何となく左右対称に選手を配置するものだが、彼らは全員を左側に寄せた。イングランドの右サイドへボールを放り込むという意思表示である。これ、うちのチームでもやっていた。キックオフもセットプレーだから自分たちの都合の良いように選手を配置してプレーを組み立てれば良い、という発想。この考え方はスウェーデンのほとんどのプレーに貫かれていた。

例えばロングボールでいかにイングランドを攻略するか?

システム上は[4-4-2]で2トップだが、自陣でのFKの時や味方が前を向いてボールを持った時は、1人足して3トップの形で相手の最終ラインに相対する。イングランドは3バックなので3人対3人になるのだが、イングランドは当然これを嫌い数的有利を作るためウイングを下げて5バックにする。これで5人+3人=8人のラインができるわけだが、スウェーデンの真の狙いはその「裏」ではなく「前」のスペースを使うこと。イングランドのアンカー、ヘンダーソンの左右に大きく広がるスペースを狙う。

中盤スカスカでヘンダーソンの左右を狙う

最終ラインで5人対3人の数的不利であれば、その前のスペースでは数的有利ができているはずなのだ。

これ、スウェーデンがショートパスを繋いで上がって行くとイングランドもデレ・アリやリンガードが下がって来てスペースを埋められるのだが、一気にロングボールを放り込んで来られると間に合わない。

ロングボールによって省略された中盤の選手たちは、スペースに走り込んでセカンドボールを拾う。拾えれば即ミドルシュートあるいは、裏へのスルーなど絶対的なチャンスになる。

効率は良くない。見た目も良くない。スウェーデンの中盤はスカスカで人がいないから下手なボールロストをすると、逆に致命的なカウンターを喰う。

だけど、90分間あれば数度は得点チャンスが作れる。イングランドが格上であることは明らかだったが、3度の絶対的なピンチでチームを救いヒーローとなったのは、GKのピックフォードだった。

ジュバありきのロングカウンター

ロシア対クロアチア(2-2 pk 3-4)のロシアが見せたやり方は違う。

ロシアには196センチ、90キロのジュバがいる。世界の一流CBに2人掛かりでマークされてもボールには触ってくれる男がいる。誰もが彼がターゲットだとわかっているのにセットプレーでは必ずヘディングシュートに持ち込んでくれる男がいる。

なので、ジュバがポストプレーをしてくれる前提で、ゴロビンとチェリシェフはセカンドボールを拾い、ジュバが相手を引き付けてできたスペースを使う。これでシュートに持ち込んだり、危険なFKやCKをもらったりして攻撃の形を作る。

中盤を省略している点ではスウェーデンとまったく同じ。省略された中盤の選手は、後ろに残って相手のカウンターに備える。

もう1つのパターンはジュバが左に流れ、右のサメドフ、マリオ・フェルナンデスがサイドをえぐってセンタリングというもの。ロシアの左右は右が攻撃参加、左はまったく上がらず守備に専念という非対称な役割分担になっている。

ロシアは監督のワンマンチーム

ただ、ロシアの強さはジュバのワンマンチームではないこと。どっちかというとチェルチェソフ監督のワンマンチームのように感じる。

この監督は凄い。同点の場面で、スーパーゴールを決めたチェリシェフと絶対的な大黒柱ジュバをベンチに下げる監督は彼しかない。普通は、いつか点を取ってくれるだろう、と期待して残すのだが、チェルチェソフは疲労によって攻撃力が下がったと判断すると、迷いなくクビをすげ替える。

攻撃力が落ちると守備の負担が増す。そうなると、いかに固く運動量がある守備陣でも耐えられない、という判断ではないか。攻撃の柱2人がいなくなると、チェルチェソフはスペイン戦とは異なった手に出た。あの試合のように自陣に引き籠るのではなく、ラインを上げてプレスを前掛かりにしたのだ。

クロアチアなりの中盤省略プランとは?

クロアチアにとっては想定外のシナリオだったのではないか。

守備的MFブロゾビッチを外してFWクラマリッチを先発させたのは、ロシアが引き籠った時の対策だったと思う。スペインの挫折に学んだ彼らは、1.ロングボールの送り先を複数作る、2.SBは開いてグラウンドを広く使う、3.早めにサイドからセンタリングを入れる、4.積極的にドリブルを仕掛けるなど、パス回しに頼らない打開策を用意していた。パス回しに頼らないのだから中盤の構成力は下げてもOK、ラキティッチとモドリッチ2人がいれば十分、それよりもゴール前を強化したいという、クロアチアなりの中盤省略プランだったのではないか。

だが、相手がジュバとチェリシェフを下げロングボール一辺倒のチームでなくなった上にラインを上げられると、ブロゾビッチやコバセビッチを入れて中盤を強化せざるを得なくなった。

つまり采配的には、チェルチェソフがアクション、ダリッチ監督がリアクションだったわけで、この采配合戦はロシア側に軍配が上がった。

災いが福に、福が災いに。ロングボールの名手たち

クロアチア側はブルサリコが負傷したが、代わりに入ったチョルルカと急きょ右SBを務めたビダのコンビで勝ち越し。災いが転じて福となしたかに見えたが、ロシア側にはまだザゴエフが残っていた。開幕戦で負傷しチェリシェフに主役の座を奪われていたエースが絶妙のクロスを上げ、マリオ・フェルナンデスが延長戦終了間際に同点ゴール。PK戦に入ると、GKスボシッチが太ももの後ろを負傷していたのでクロアチアが不利と見られたが、あのロシアのヒーロー、マリオ・フェルナンデスが今度はPKを外してしまう、という皮肉……。

準決勝には実力通り順当な4強が顔をそろえることになったが、ロングボールを軸に格上を苦しめた韓国、オーストラリア、アイスランド、セルビア、デンマーク、スウェーデン、強さを見せつけたポルトガル、ウルグアイ、ロシアのことも忘れられない大会になった。