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サン・セバスティアン映画祭レポート1日目(23日)。『三度目の殺人』は深夜上映ながら満員御礼

木村浩嗣在スペイン・ジャーナリスト
メイン会場のクルサールへ23日午後到着。『三度目の殺人』など4本を鑑賞。筆者撮影

スペインのサン・セバスティアン映画祭の取材にやって来た。9月22日から30日までの開催のうち私の取材期間は23日から29日まで。個々の映画の詳しい紹介や評価は別にレポートするとして、ここでは映画祭全体の雰囲気や感じたことを中心に書いていく。

泣き笑いの『SEE YOU UP THERE』は◎

サン・セバスティアンの午後4時の気温は27度。日中30度を超える南のセビージャから来た身にはやや過ごしやすいが、それでも北部バスク地方にしては予想よりもかなり暖かい。メイン会場のクルサールはビーチの横にあり、最後の夏を惜しむ多くの人たちが砂浜に寝転がり水の中に入っていた。まずメディアセンターへ直行。記者証が用意されていないというアクシデントもよくあることだし、何度かの押し問答の後ぎりぎり上映に間に合うよう記者証が出る(スペイン人は仕事は遅いが、辻褄は合せる)ということも含めて想定内。北部のバスク地方は南部のアンダルシアにくらべてちゃんとしていることで有名だが、やはりスペインの一部である。

記念の第1本目は『SEE YOU UP THERE』(日本上映へのおすすめ度4。満点は5)

コンペティション外ではあるが公式セレクション入りしたフランス映画。戦争映画として始まり途中でサスペンスに変わりコメディとファンタスティックも加わるというジャンル分け不能の作品で、笑っていいのやら泣いていいのやら。が、その複雑な感情を刺激するのが監督の狙いなのだろう。

2本目は『HANDIA』(上映おすすめ度3)

公式コンペティションに参加し最優秀映画賞『金の貝』賞を目指す19本のうちの1つ。バスク地方を主な舞台にしバスク語で撮られており、配給という意味ではマイナスにあえて挑戦している。テーマは『プレステージ』を想わせるが、この地方への迫害や偏見、風土(山村と森林)を反映してかクリストファー・ノーランの作品よりもさらに暗い。

是枝監督現地入りを見逃す!

3本目は『FACES,PLACES』(上映おすすめ度1)

“ヌーベルバーグの祖母”と呼ばれるアニエス・ベルダと若いカメラマンの写真を使ったコラボプロジェクトを追う。ドキュメンタリーというほどのテーマ性はない(あえて言うとフェミニズムか)からロードムービーと呼んだ方が良いかもしれない。2人の芸術家の作品には涙がこぼれそうになるような強さがあり、ほのぼのした気持ちになれるものの“癒し系”という形容は拒否したい。「おすすめ度」が低いのは日本で一般受けするような性質のものではないので。

4本目は『三度目の殺人』(日本で上映されているので評価はなし)

日本でも高評価のこの作品のクオリティ(特にガラスを使った演出と役所広司の演技)には驚かなかったが、驚かされたのは「サン・セバスティアンに第二の家がある」と言われている是枝裕和監督の人気。この日3度目で深夜0時からの上映だったがチケットは完売。プレス用の招待券もなくキャンセル待ちして入る。法廷劇を退屈にさせない演出はさすがで、死刑制度のないスペインでは死刑のある国を“野蛮”と見なしているから、この国で違った評価のされ方をするかもしれない。

是枝監督本人もこの日の夜に映画祭入りしたらしいが、そのニュースを知ったのは翌日。とにかく隙間なく上映が詰まっているからそれを追うだけで精一杯。スターが近くにいても偶然でなければ会えないという、映画祭の過剰なプログラムについてはまた明日以降紹介したい。

在スペイン・ジャーナリスト

編集者、コピーライターを経て94年からスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟のコーチライセンスを取得し少年チームを指導。2006年に帰国し『footballista フットボリスタ』編集長に就任。08年からスペイン・セビージャに拠点を移し特派員兼編集長に。15年7月編集長を辞しスペインサッカーを追いつつ、セビージャ市王者となった少年チームを率いる。サラマンカ大学映像コミュニケーション学部に聴講生として5年間在籍。趣味は映画(スペイン映画数百本鑑賞済み)、踊り(セビジャーナス)、おしゃべり、料理を通して人と深くつき合うこと。スペインのシッチェス映画祭とサン・セバスティアン映画祭を毎年取材

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