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憧れの選手に宮里藍はもう古い?女子ゴルフメジャーVの川崎春花や馬場咲希ら10代が台頭するワケ

金明昱スポーツライター
全米女子アマチュアゴルフ選手権で優勝した17歳の馬場咲希(写真提供・JGA)

「目標とする選手は稲見萌寧さんです。以前練習ラウンドや試合でも回ったことがあるんですが、ゴルフにストイックな部分がすごい。私だったらミスになるところでミスにならない。そこからバーディーを獲ってくる、それが本当の強さだと思います」

 先週開催された女子ゴルフの国内メジャー「日本女子プロゴルフ選手権コニカミノルタ杯」でツアー初優勝した19歳のルーキー・川崎春花は、憧れの選手について聞かれてこう答えていた。一昔前までは憧れの選手に「宮里藍」と答える選手も少なくなかったが、昨年の賞金女王でもある稲見に憧れ、目標にするところ、時代に移り変わりの早さを感じずにはいられなかった。

 2003年生まれの川崎は、昨年11月のプロテストに合格したばかりのルーキーながら、最終日に1イーグル、6バーディーと8つスコアを伸ばして逆転優勝。「メンタルは全然弱いです」と言いながらも、「(最終日は)特に緊張しなかった」というのだから恐れ入る。

若手は勢いあって恐れ知らず?

 新人は怖いもの知らず、というのが正しいだろうか。恐れることなく勢いあるがまま、安全なプレーよりも、ピンを狙って攻め続けられる強さが若手の武器とも言える。

 川崎と同じ2003年度生まれには、今季のレギュラーツアーで結果を残している選手が多い。昨年のプロテスト1位通過を果たした尾関彩美悠(おぜき・あみゆ)は、トップ10入りが3回。「宮里藍サントリレディスオープン」では最終日・最終組を経験し5位タイ。佐藤心結(さとう・みゆ)は「ニチレイレディス」で初日、2日目に首位に立ち、最終的には5位。先週の選手権でも4位タイに入って実力を見せつけた。

 また、2004年生まれの18歳、櫻井心那(さくらい・ここな)は、現在最年少ツアープロながら、今季下部のステップ・アップ・ツアーで初優勝し、8月の「北海道meijiカップ」では2位タイに入って存在感を示している。

 もちろんその上の世代にも、昨年6月にプロテストに合格した2002年生まれの岩井千怜(今季ツアー2週連続優勝)、明愛の双子姉妹など、結果を出している選手が次々と登場している。

 さらに、今年の全米女子アマチュアゴルフ選手権を制した17歳の馬場咲希(代々木高2年)にも注目が集まっており、彼女もまたプロ入りすればスター選手候補となるのは間違いない。とにかく、10代の選手がここまで結果を残せるのは、まぐれや偶然ではないだろう。

若手は目が肥えている?

 結果を残す10代の選手がなぜ増えてきているのか。

 以前、ツアー14勝の有村智恵に話を聞く機会があったのだが、そこで若手が台頭する理由をいくつか挙げてくれた。結論から言えば、「環境、意識、道具」――。この3つ変化が、若手の実力を大きく伸ばす要因になっているという。

「私が若手の頃は、鏡の前や誰かに見てもらうというアナログな確認方法でした。今は自分のスイングをスマホで撮ってすぐに見られるようになりましたし、海外の有名選手のスイングを解析した動画が気軽に見られるのも大きいと思います」

 10代の選手が生まれて間もなく、スマホを手にできる環境があったのだから、物心ついた時にはトッププロのスイングを動画で気軽に見られたわけだ。

 もちろんベテラン選手たちも今やその恩恵を受けているわけで、つい先日、ツアー会場のドライビングレンジでは、イ・ボミのショットをマネージャーが後方から“折り畳み”の大画面スマホで撮影して、それを何度も確認し合っていたが、今ではそんな光景は当たり前になった。若手のほうがもしかすると“目が肥えている”部分があるのかもしれない。

ライバルの多さが刺激になる

 また、有村は若手の意識の変化も大きいと言っていた。

「私たちの時代は高校卒業後にプロの試合に出られるルーキーは少なかったですが、今では18~20歳くらいのたくさんの選手が毎年プロ入りしています。その中の誰かが結果を残すことで『自分もできる』となる相乗効果が生まれています」

 有村も宮里藍や横峯さくら、上田桃子、諸見里しのぶといった実力者たちとしのぎを削り、「追いつこうと必死だった」と言っていた。ライバルとの争いの中で、実力を向上させることは大事な要素で、近年の女子ツアーでは1998年度生まれの“黄金世代”から、そうした相乗効果が顕著に表れてきたと感じる。

 鹿児島高校1年時にプロツアーで優勝した勝みなみを皮切りに、畑岡奈紗、渋野日向子、小祝さくらなどここまで11人のツアー優勝者が誕生している。その下の世代もしかりで、「あの選手ができたなら自分でも勝てる」という意識の高まりは、競争力を高める大事な要素だ。

ショットは曲げなくていい?

 最後はゴルフの専門的な話になるが、有村は道具の進化による攻め方の変化についても挙げていた。

「同世代や先輩の方々と会話すると、『自分たちが若い頃のゴルフは球を操ったり、曲げたりする練習を主にしていた』という話になります。今は道具の性能が上がって“曲がらないクラブ”になっています。クラブの操作性、直進性がすごく良くなって球も上がります。つまり、それによってゴルフの攻め方も変わります。今は“曲げなきゃいけない場面”というのは、ほとんどなく、とにかくピンの根元に高い球を打つことが、攻め方としては合っていると思います」

 道具の進化とともに、その練習方法や内容も大きく変化する。若手はそれに合った練習を繰り返し、試合では果敢にピンを狙っていくシーンが随所に見られるが、それを繰り返すことでレベルが向上しているのだろう。

 10代、20代前半の選手が女子ツアーを牽引する今、「勢い」や「運」という表現は間違った見方なのかもしれない。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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