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“不可解判定”に恨み節の韓国。ショートトラック失格で五輪メダルゼロの衝撃。過去には“オーノ事件”も

金明昱スポーツライター
ショートトラック1000メートル準決勝で失格となった韓国のファン・デホン(写真:ロイター/アフロ)

 映像を何度見ても妨害したとは思えなかった。

 7日に行われた北京冬季五輪のショートトラック1000メートル準決勝の男子1組で、世界記録保持者で前回平昌五輪銀メダリストのファン・デホンが1位で入線したが、レース後の審議で失格になった。

 その理由は中国の選手を抜き去る過程でレーン変更が遅れたというもの。

 しかし、競技映像を見た限りでは、前を走る2人の中国選手のわずかな隙間をかいくぐり、トップに躍り出たファン・デホンの高い技術力が光ったレースだと感じた。だからこそ判定後の失格はなおさら衝撃だった。

 これで2位、3位だった地元・中国の2選手が繰り上がりで決勝に進出。だが、これだけでは終わらない。

 同2組で出場したイ・ジュンソも2位で入線したが、ハンガリーの選手との接触の過程で、レーン変更の遅れが指摘されてペナルティで失格。これによって、中国の選手が2位で決勝に進んだ。

 そしてショートトラック1000メートル決勝では、ハンガリーの選手が1位で入線して金メダルかと思われた。

 しかし、ここでもビデオ判定の末にレース中に反則があったとイエローカードが出され、繰り上がりで中国の選手が金メダル、銀メダルでワンツーフィニッシュした。

反則での失格も想定していた?

「襟をかすめただけでも反則負けになりうる」――。

 北京五輪開幕前にそう語っていたのは、韓国ショートトラック代表のクァク・ユンギで、ある程度、反則での失格や転倒は想定内だったのかもしれない。

 そこで思い出すのは、「オーノ事件」である。

 アメリカの元ショートトラック選手のアポロ・アントン・オーノは、2002年ソルトレークシティ五輪1500メートルと2006年トリノ五輪500メートルで金メダルを獲得。

 韓国で大騒動になったのは、2002年のソルトレークシティ五輪の1500メートル決勝だ。オーノは2着でゴールしたが、1着でゴールしたキム・ドンソンが進路妨害のために失格となり、金メダルを獲得した。

 この時、オーノがオーバーリアクションしたと韓国側が猛抗議。オーノへの中傷や脅迫が相次いだ。当時、2002年サッカー日韓ワールドカップが開催された年で、韓国はアメリカ戦で同点ゴールを決めたアン・ジョンファンが、スケートのゴールパフォーマンスをしていたのを今もよく記憶している。

 “悪縁”とも言われたキム・ドンソンとオーノだが、2010年にアメリカで8年ぶりに再会。2014年ソチ五輪で互いに解説者として出会い、スケート界の発展に貢献している。

 まさに「昨日の敵は今日の友」。かつてのライバルも年月が経てば、若かりし頃のいい思い出だ。

“判定での失格”が目立つ印象の北京五輪

 しかし、今回の北京五輪ばかりは、そうはいかない雰囲気がある。ましてや中国はホーム開催。韓国もビデオ判定になればある程度、相手に有利になることは、受け入れる心構えはできていたと思う。

 それにしても今回のあいまいな判定に、韓国側の怒りは収まらない。

 大韓体育会は8日に緊急記者会見を開き、「国際スポーツ仲裁裁判所(CAS)に提訴することを決めた。今回の判定の不当性を公式化し、国際スケート界とスポーツ界で韓国の選手たちに悔しいことが起きないように最善を尽くす」と明かした。

 不可解な判定でいえば、スキージャンプの新種目・混合団体で高梨沙羅の「スーツ規定違反」での失格が大きなニュースとなっているが、“納得がしがたい判定”で選手たちが泣きを見るのは、見ている側としては胸が痛む。

 それこそ培った技術や成果を試合で披露し、そこから様々なドラマが生まれ、そこに人々は熱狂し感動する。分かりにくい判定結果が目立ち、大会全体に水を差すことだけは避けたい。

 もちろん公平さを保つためのルールは必要。しかし、素人目では理解しがたい細かなルールに関しては、再考する必要があると感じる。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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