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なぜリオ五輪“日本代表”の野村敏京が“韓国”にゴルフアカデミーを設立したのか?

金明昱スポーツライター
2016年リオ五輪ゴルフ日本代表として出場した野村敏京。日韓にルーツを持つ(写真:ロイター/アフロ)

 米女子ゴルフツアーを主戦場にしながら3勝、日本ツアー1勝、韓国ツアー1勝している野村敏京(のむら・はるきょう)。

 日本人の父と韓国人の母との間に生まれ、日韓の二重国籍だったが、2011年に日本を選択。リオ五輪のゴルフ競技に日本代表として出場し、メダルに1打及ばず4位だったのも記憶に新しい。

 彼女は今年で30歳になるが、まだ現役を続けられる年齢でもある。だが、2018年から数年は腰痛で米ツアーを長期離脱。

 治療続けながら、たびたび米ツアーに出場していたが、完全復帰に至るのは難しい状況だった。2021年シーズンは出場9試合にとどまり、予選落ちが8回。賞金ランキングも184位と低迷していた。

 今年に入り韓国メディアの「韓国経済」がソウルにいる野村に会い、近況について取材し、「韓・米・日通算5勝の野村敏京が実業家として新たな挑戦を始める。ゴルフ教育とトレーニング、リハビリなど効率的にゴルフの実力を育てる総合サービスを提供する『JOOBゴルフアカデミー』を開設した」と伝えている。

 米女子ツアーを主戦場にする野村。現役を引退して事業を開始するのかと思いきやそうではないようで、今季も米ツアーに数試合の出場を予定しているという。

「各種資格取得してニーズに応える」

 記事の中で野村はこう語っている。

「怪我の影響で自分の夢をあきらめるのは悔しいですが、私のような選手がこれ以上で出てこないようにしなければいけないと思いました。解剖学を勉強し、腰を安定させるための筋肉の強化方法、腰に負担にならないゴルフの研究を始めました」

 2年間に及ぶ腰痛の治療の過程で、リハビリに関する資格も取得。現在はピラティスの国際資格の取得を準備しているという。

 新たにオープンした「JOOBアカデミー」の事務所には、米ツアー選手のパク・ソンヒョンやチョン・インジなどからお祝いの花輪が届けられていたそうだ。

 野村は今後、同アカデミーで、「韓国男子ゴルフツアーでプレーする弟・京平と共にと共に物理治療の専門家を迎え入れ、レッスンとゴルフのための体力管理、ケガをした後のリハビリなど様々なニーズに応えていきたい」という。

韓国ジュニア育成に注力

 さらに(韓国の)小・中・高のゴルファーに向けた指導とメンタル面の強化に焦点を当てていくとのこと。

「最近は米ツアーでタイ、中国の選手たちが躍進し、『韓国ゴルフ危機論』が出てきていて、それが少し残念に思っています。私は“韓国式ゴルフ”が持ち味の選手です。私の“根っこ”でもある韓国ゴルフが、タイや中国に脅かされる状況は好ましくありません。ジュニアたちに段階的に必要なゴルフ技術を伝え、世界トップを狙う最初の気持ちを引き起こしてあげたい」

 前述したが、野村の国籍は日本である。しかし、ここまで韓国に愛着を示すのも無理もない。彼女は日本で生まれ、幼少期を過ごしたが、高校時代など青春時代を過ごしたのは韓国。

 多感な時期に韓国でゴルフを学び、今も米ツアーで戦う韓国の選手たちとも切磋琢磨してきたからだ。自分のゴルフが培われた韓国に恩返ししたいという思いがあるのだろう。

「ツアーへの未練や後悔はない」と語る野村。“第2の人生”に向けた準備を着々と進めている。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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