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“キム・ヨナの後継者”は韓国フィギュアスケート界にいるのか?国際大会で“ヨナ・キッズ”台頭のワケ

金明昱スポーツライター
キム・ヨナの後継者と言われるユ・ヨン。五輪メダルに最も近い韓国選手だ(写真:松尾/アフロスポーツ)

 北京冬季五輪の開幕を来年2月に控え、フィギュアスケート界も盛り上がりを見せ始めている。

 今日から開幕するフィギュアスケートGPシリーズ第4戦NHK杯で、日本勢のエースの羽生結弦と紀平梨花は、右足首を痛めて欠場。その他の出場選手の顔ぶれを見ると、女子シングルスに3名の韓国選手が出場する。17歳のユ・ヨン、18歳のイム・ウンス、16歳のウィ・ソヨンがそれだ。

 韓国のフィギュアスケート選手といえば、2010年のバンクーバー五輪金メダリストのキム・ヨナの名を思い浮かべる人がほとんどだろう。

 日本のフィギュアファンにとっても、浅田真央と長らくライバル関係であったことでもなじみが深い。それに現在も韓国ではCM出演や雑誌の特集などに引っ張りだこで、人気と影響力は今もなお健在だ。

 ただ、キム・ヨナが現役引退したあと、韓国フィギュアスケート界には、彼女を超える逸材はまだ表れていない。今も“キム・ヨナの後継者”の登場を待ち望んでいるところだが、ここ数年で層が厚くなっているのだ。

 前述したNHK杯に出場する3人がそうであり、そのほかにも有能な選手が次々と登場している。キム・ヨナのあとフィギュアスケート界に登場した10代の選手たちのことを韓国では“ヨナ・キッズ”と呼ぶ。

 五輪でメダルを獲得したキム・ヨナに憧れてフィギュアスケートを始めた選手たちが、ようやく表舞台に立ち始めたのだが、その中には“キム・ヨナの後継者”と言われ、北京冬季五輪でメダルを期待されている選手もいる。

キム・ヨナも飛べなかった3回転半成功させたユ・ヨンに期待

 まず、今回のNHK杯に出場するユ・ヨン、イム・ウンス、ウィ・ソヨンはどんな選手なのかを見ていきたい。

 今、韓国フィギュアスケートの女子選手の中でもっとも期待されているのが、17歳のユ・ヨンだ。

 12歳から練習を始めたというトリプルアクセルを飛べるのが最大の武器。国際スケート連盟公認大会では史上11人目の成功者で、年々、演技力も高まっている。

実績も輝かしい。2016年の韓国選手権で11歳7カ月の歴代最年少で優勝。2018年平昌五輪の代表選抜戦でも14歳ながら1位となるも、年齢制限(満15歳以上)で五輪に出場できなかった。

キム・ヨナに憧れてフィギュアスケート始めたユ・ヨン
キム・ヨナに憧れてフィギュアスケート始めたユ・ヨン写真:松尾/アフロスポーツ

 キム・ヨナ以降の国内大会で初めて200点を記録した選手で、2018年から2020年まで韓国選手権で3連覇を達成しており、“キム・ヨナの後継者”と言われるまでに成長した。

 さらに2019-2020シーズンはグランプリシリーズのデビュー戦となったカナダ大会では、トリプルアクセル(3回転半)を成功させて、217.49点で3位の銅メダルを獲得した。キム・ヨナも飛べなかった「3回転半を初めて成功させた韓国人選手」としても注目を浴びている。

 その後、2020年の四大陸選手権(ソウル開催)でも2位、今年10月グランプリシリーズ第1戦アメリカでは、冒頭から大技のトリプルアクセルを成功させ、SPとフリーの合計216.7点、ステップでも最高レベル4を記録して3位に入った。

日本人コーチから指導受けるユ・ヨン

 韓国経済サイト「newsian」は同大会でのユ・ヨンの結果について「日本の坂本花織を下してメダルを獲得したことに意味がある」と伝えていたが、日本の新たなライバルとなるのは必至だ。

 ちなみに宮原知子や紀平梨花を指導していた濱田美栄コーチからも指導を受けていることでも有名だ。

 濱田コーチについて「一つ一つ、細かいところまで気遣ってくれるコーチ。ジャンプの技術を教えてくれたことは私にとって大きな助けになっている」と語っている。彼女が北京五輪に出場できれば、日本のライバルとなる第一候補となるだろう。

北京五輪出場を狙うイム・ウンス。「小顔でかわいい」との声も多い人気選手
北京五輪出場を狙うイム・ウンス。「小顔でかわいい」との声も多い人気選手写真:松尾/アフロスポーツ

技術高い“ヨナ・キッズ”が続々と台頭

18歳のイム・ウンスも期待されている選手の一人。

 2017年の韓国選手権で初優勝し、同年世界ジュニア選手権では、SPとフリーで自己最高得点をマークして4位入賞。韓国選手としてはキム・ヨナに次ぐ成績として注目された。

 また、2019年に埼玉県で開催された世界フィギュアスケート選手権でも、キム・ヨナ以降、初めて国際スケート連盟(ISU)公認の大会で総合点200点を越えた。ただ、ここ数年は本番で実力を発揮できないでいる。

 ジュニア時代の注目度に比べて、シニアに移行してからは体形の変化からジャンプにミスが目立つ。トリプルルッツ-トリプルトゥループのコンビネーションジャンプもミスなく飛べていたが、最近では思うようなジャンプが見せられていない。北京五輪切符獲得へは正念場となっており、今大会でどれだけミスの少ない演技が見せられるかに注目が集まる。

 そしてNHK杯初出場となるのが、16歳のウィ・ソヨンだ。ジュニア時代は国内大会のほか、グランプリシリーズで入賞を経験。2020年に世界ジュニア選手権に初出場し、自己最高得点をマークし6位に入賞している。

 スケーティングではレイバックスピンの技術が高く、ジュニアグランプリでもレベル4の判定を受けるほど。ジャンプの成功率も高いが、構成点が低いとされている。

 他にもNHK杯には出場していないが、今年3月の世界選手権(ストックホルム)に出場した選手の中で最年少ながら10位に入った16歳のイ・ヘイン、今年の韓国選手権で優勝し、3月の世界選手権で11位(SP5位、フリー13位)に入った18歳のキム・イェリムも“ヨナ・キッズ”と呼ばれる選手たちだ。

今年の韓国選手権で優勝したキム・イェリム
今年の韓国選手権で優勝したキム・イェリム写真:松尾/アフロスポーツ

北京五輪チケット2枚をかけた争いがし烈の韓国

 韓国のフィギュアスケート選手たちが近年、国際大会で躍進しているのは、一にも二にもキム・ヨナの影響が大きい。

 こうした流れについて「中央日報」は「“フィギュアの女王”キム・ヨナの遺産が結実している。2010年バンクーバー五輪で金メダルを獲得したキム・ヨナに憧れて、フィギュアスケートを始めた2000年生まれの選手がいま銀板を輝かせている。“ヨナ・キッズ”1世代から、今では2世代が登場した。彼女たちは北京冬季五輪出場に向けて、国内でし烈な争いを戦うことになる」と伝えている。

 キム・ヨナが表舞台から去ったあとにまかれた種は、しっかりと芽を出し、国際大会でのメダル獲得へと着実につながっている。

 韓国女子選手に与えられる北京五輪の切符は2枚。本大会で日本のライバルになる選手が誰になるのか、今から注目しておくのもいいだろう。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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