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【単独インタビュー】元日本代表MF小林祐希「人にどう思われてもいい」“韓国2部”の今

金明昱スポーツライター
今夏から韓国2部でプレーしている小林祐希(写真・ソウルイーランド提供)

「日本代表はまだ諦めていません。今でもワールドカップ(W杯)に出たいと思っています。そこでプレーするのはすごく楽しいんです」

 今年7月、韓国2部(Kリーグ2)のソウルイーランドに移籍した元日本代表の小林祐希は自らそう切り出した。現役のプロサッカー選手である以上、今も日本代表を目指し、W杯に出たいという思いを持つのは当然だ。

「僕は話すなら正直にいたい」。韓国挑戦の経緯と現状、この先に描いていることなど様々な思いを告白してくれた。

「どうなるか分からない世界もおもしろい」

――ソウルイーランドに7月に加入して約2カ月が経ちました。チームは7勝13分12敗の9位ですが、チームの感触はどのようなものですか?

 韓国に来る前は、ボールを保持してポゼッションを高めてゴールに迫るサッカーをすると思ってチームに来たのですが、裏に蹴って走るようなサッカーをしているので正直、戸惑いがありました。

――現実はかなりギャップがあったということでしょうか?

 ギャップはありましたね。でもそこは想定内です。韓国に来たからにはチームのスタイルに順応していかなきゃいけませんから。自分を生かしてもらったり、周りを生かしたりとできることをどんどん考えなきゃいけない。チームが良くなっていく糸口はあると思っています。ゲームごとにポゼッション率も高まっていますし、いい雰囲気に変えていこうというチームメイトの気持ちはすごく伝わってきます。

――オランダ、ベルギー、カタールに続き自身4か国目となる海外挑戦で、韓国を選択した理由を改めて教えてください。

 外国人選手として海外でプレーできるのかは、もうこの先わかりません。海外でいろんな経験をしたいという思いはあったなかで、最初に正式なレターが届いたのが韓国でした。GMから手紙が届いて、エージェントの人も毎日電話をくれていました。本当に来てほしいというのが伝わりました。チームの最後のピースとして来てほしいと熱心にオファーをくれていたんです。必要とされているなら挑戦する価値はあると判断しました。

――“2部”という場所は特に気にならなかったのでしょうか?

 チームで結果を残して、自分のポテンシャルや能力を買ってくれるチームがあれば、例えば韓国1部の蔚山現代や全北現代のようなトップチームにも行ける可能性はあります。ソウルイーランドが1部に上がって、ビッグクラブになっていく礎を築いていけるのであれば、それもチャンスですよね。一度、そういう茨(いばら)の道というか、どうなるか分からない世界もおもしろそうだし、行ってみようかなというのもありました。

――デビュー前から韓国ではプレースタイルが似ていると「第2の本田圭佑」と紹介されていました。

 人が僕のことをどう見ていているかは気になりません。でも、比較されるというのはうれしいことだし、ありがたいんですよね。ただ、本田圭佑選手に申し訳ないというか…。ビッグプレイヤーなので率直にうれしいです。

チームに合流して日は浅いが徐々にフィットしてきている(写真・ソウルイーランド提供)
チームに合流して日は浅いが徐々にフィットしてきている(写真・ソウルイーランド提供)

韓国のフィジカルが強いと言われるワケ

――7月5日の第19節、安山グリナース戦でデビューしてから、ここまで8試合に出場して1アシスト。実際にピッチに立ってみて感じる韓国サッカーはどのようなものでしょうか?

 よく韓国はフィジカルや球際が強いのが特徴と言われますよね。それはなぜなのか。ここからは個人的な見解ですが、例えば相手の守備にみんながマークをつかれた状態でプレーしていて、ボールを受けたときにガチャッとつぶされると、相手の方がフィジカルが強いとか、インテンシティが高いと見えると思います。でも、こまめにマークしづらいポジションをとっていれば、そうはならないですよね。フリーの選手はいるのに前に急いで蹴ってしまい、相手の大きな選手にヘディングで跳ね返されてしまう。競り合いで勝てないと「強い外国人を補強しよう」となります。そうしたプレーが続くと、韓国では小さい選手の技術が目立たないのかなと感じます。

――実際にピッチに立つとそのように感じるわけですね。

 もちろんフィジカル的に“強い”選手が多いとは感じます。ただ、僕のチームで言うと、ボールを間で受けられるところにいるのに、それを見つけられない選手がいたり、細かい気のきいたプレーがあまり見られません。僕はヨーロッパで、オランダとベルギーでプレーしましたが、選手をフリーにさせるための動きとかの練習は、試合の3~4日前からやります。現状は誰をどこでフリーにさせたいという意図がないままプレーしているので、少しもどかしいです。どこかで1対1で勝負して、たまたま勝ったらチャンスで、負けたらピンチになる。だから韓国は「フィジカルの国」となるのかな。「これはコリアンスタイルだ」と僕に言ってくるんですけれどもね(笑)。

――そうした“コリアンスタイル”にも順応していかないといけない難しさはありますか?

 そこは自分をチームにフィットさせられるように努力しています。もちろん自分の特徴を生かしたプレーでチームに違いを生む働きもしたい。ただ、フィジカル勝負になったら、速いやつ、でかいやつ、強いやつが勝つに決まっています。でも、サッカーは小さくても遅くても、ポジショニングや止める蹴るの技術、戦術でも守備のはめ方などがしっかりできれば勝てる可能性のあるスポーツなんです。

――今年のアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)も見ていると思いますが、Kリーグ1部の3チームが準々決勝まで勝ち進みました。プレーの質は“コリアンスタイル”の要素が比重を占めていると感じますか?

この前、蔚山現代と川崎フロンターレのACLの試合をテレビで見たのですが、蔚山の選手たちはみんな当たり前のことをやっていて、すごくうまいなと感じました。味方がボールを持っているときに気の利くポジショニングが細かくできていると感じましたし、決してフィジカルばかりのサッカーという印象ではなかったですね。

韓国のフィジカルが強いと感じる理由について細かく説明してくれた小林(写真・韓国プロサッカー連盟提供)
韓国のフィジカルが強いと感じる理由について細かく説明してくれた小林(写真・韓国プロサッカー連盟提供)

――韓国での練習環境や生活はもう慣れましたか?

 まだ歴史が浅いクラブなので、練習場は決まった場所がなくて、3つを転々とする日々です。もう車移動は慣れましたし、食事も韓国料理は好きなので問題ありません。サムギョプサルとかチヂミが好きですね。あと、オランダ時代からのシェフもいるので、そこも不自由はありませんよ。和食の食材も欧州に比べて手に入りやすいんです。選手との会話に関しても通訳の方がいますし、日本語を話せる選手が2人もいるので、ほぼ問題ありませんよ。

「言語のアドバンテージはあったほうがいい」

――韓国での話をメインに聞いてきましたが、これまでオランダ、ベルギー、カタールでもプレーしています。海外で成功するために必要だと感じたものはありますか?

 やっぱり言葉ですよね。絶対に言語のアドバンテージはあったほうがいいです。小さいうちから英語を勉強しておいたほうがいいと思いました。プレーする国の言語をしゃべれるというのは大きいですよ。監督に直接自分の思いを伝えられ、言っていることがダイレクトに理解できるというのはやっぱり信頼関係にもつながります。それじゃなかったらもうスーパーなプレーをするしかないです(笑)。

――オランダのSCヘーレンフェーンでは1年目から30試合連続先発出場など活躍しました。何か印象に残るエピソードはありますか?

 当時の監督がミーティングで「ユウキ、何か言うことがあるだろう」っていうんですよ。「お前のためにマグネットを置くから、これは意見が違うなとか、僕の意見はこうだなと思ったら、これを動かして伝えてくれ」と。英語もほとんど話せない状態でしたが、しゃべらないといけないシチュエーションに置かれてしまって(笑)。実際に話し始めるとみんなに笑われるのですが、笑いも込みで頑張るからみんなと仲良くなれたのはありました。そういうコミュニケーションの部分はかなり大きいかなと思います。それがもう行ったときからペラペラの状態で行くのなら最高だと思います。

――海外に行ってかなり性格が変わりましたか?

 ヨーロッパへ行ったときは、もうヨーロッパ人だと思って行動するんで、日本にいるときよりもかなりクレイジーになれます(笑)。現地の感覚で、変な言葉も言うし、ふざけるし、バカにもなれます。日本でそれをやったら引かれるだろうみたいなことも全然できます。現地の雰囲気に合わせられるようになったということです。

――日本だとそうはいきませんよね(笑)

 やっぱり「小林祐希だ」みたいなイメージはあるじゃないですか。日本にいたときの「小林祐希」はほとんどふざけたりしないので。

海外でプレーする前に「英語は学んでおいたほうがいい」という(写真・韓国プロサッカー連盟提供)
海外でプレーする前に「英語は学んでおいたほうがいい」という(写真・韓国プロサッカー連盟提供)

「僕は好かれていないのかも」

――ちなみに日本ではどのようなイメージを持たれていると感じますか?

 あんまり好かれていないんじゃないですか(笑)。誰にどう思われていてもどうでもいいんです。でも僕と会って話したら、嫌がっていた人も大体は僕のことを好きになってくれるんです(笑)。

――裏表なく正直に話す方との印象を受けましたが、そこに惹かれる方は多い気はします。

 そうですか(笑)。だけど、何ですかね…。あんまり自分の意見をガンガン言ったり、自分のやりたいことをやって、それができる人というのは限られているし、少ないじゃないですか。だから、「そういうやつはむかつく」とか「うらやましいとか」が、もしかしたらあるのかもしれません。自分ができていない分、「何だあいつ」と思われるのはあるかもしれないし、僕と意見が純粋に違うだけかもしれない。だけど、小さいころからサッカー一本で頑張ってやってきたから、会って話をしたら、みんな分かってくれると思うんです。でも、世の中の人すべてと価値観や考え方が合うのは無理なので、自分が思ったことややりたいことをやっているだけなんですよね。つまり、僕は誰に何と言われていても、自分のやりたい道を進んでいるそれだけです。

――腕や背中に入れているタトゥーもたびたび話題になりますが、まだ日本ではネガティブなイメージがありますよね。

 僕は家族やいろんな人の想いを詰めてタトゥーを入れているのですが、みんなに理解してほしいとは思っていません。そういう人もいるんだよくらいに、見てくれればいいと思っています。ただ、タトゥーはなるべくならないほうがいい。若い子が入れたいなと言っていたら、僕はやめておけと言います。ないに越したことはないんで。ただ、入れたタトゥーに対して30年後の自分が嫌だなと思うのか、自分で誇りを持てるのか、です。自分に誇りが持てると思うんだったら入れてもいいと思っています。

――ちなみにツイッターなどのSNSとはどのように付き合っていますか?韓国2部に行ったタイミングで「廃れた」との書き込みも拝見しました。

 その書き込みに対しては、「韓国2部もレベル高いねって思ってもらえるように頑張ります」と返信したのですが、正直、ちゃんと見てから言ってほしいですよね。カタールに行った時も、「レベルが低い」とか言われましたが、実際に試合を見てから言うべきです。カタールで10~20億をもらっている選手がいるので、弱いわけがないんです。ただ、一つ一つ相手しているのではなくて、この意見は少し違うなと思ったときに「この人は何を言っているんだろ」と思って返すときがあります(笑)

「誰になんと言われても自分のやりたい道を進む」と語る(写真・韓国プロサッカー連盟提供)
「誰になんと言われても自分のやりたい道を進む」と語る(写真・韓国プロサッカー連盟提供)

「相手の気持ちを察するのが“日本人の良さ”」

――海外に出てみて日本を俯瞰的に見た場合、何か感じることはありましたか?

 監督やコーチに「お前はこうしろ」と言われたら、「はい、すみませんでした」と謝って、自分の意見を言わないことが多いと思います。日本は何かに常に気を使って生活しないといけない部分がとても多いなと感じることはあります。先輩や周りの人に何か言われたらどうしようとか、こういうふうに思われていないかとか、余計なことを考えちゃう。そこは日本だけでなく、韓国も似ているところがありますよ。

――欧州クラブにいたときは周囲をあまり気にしなかった?

 欧州では俺は俺、お前はお前、それこそいろんな考え方がありますよね。目指しているところが一緒だったら共に頑張ろうぜとなりますし、それが違うなら、別にお互いが頑張ればいいじゃない、みたいなスタンスです。別にお前を認めてないわけじゃないけれども、俺にも俺の考え方があるから、俺はこの考え方でやるからと。

――そういう意味では小林選手自身のライフスタイルは、日本よりも海外にいるほうが合っているのでしょうか?

 とはいえ、僕も根は日本人なんですよ(笑)。それは言わなくても察しろよとか、僕だったら分かることもありますから。僕はその気持ちを分かってあげられるのにとか、そういう日本人だからこその良さがあるんですよね。僕はそれもあって、海外クラブで受け入れてもらえたのかもしれません。相手の気持ちを何も言わなくても察してあげられるという部分は、すごく大事だなと思います。

――つまり、自分の主張をハッキリ言う欧米のようなスタイルと日本のわびさびのような美意識と両方備えたほうがいいと?

 どちらも持っているほうがいいです。自分の意見をガンと言うシーンもあったほうがいいし、相手の意見を尊重して、気持ちを分かってあげようと思うシーンもあったほうがいい。使い分けられる人がやっぱり一番賢いんじゃないかなと思います。

「代表に生き残れなかったのは自分の問題」

――2019年以降、遠ざかっている日本代表への想いはどうでしょうか?

 もちろん今もW杯に出たいと思っています。正直、韓国の2部への移籍はそこに出る可能性を下げるということですが、それでも諦めていません。代表はすごく楽しいんです。練習しているだけでうまくなっている気しかしないですからね。みんな感覚や技術が優れているし、戦術眼もあります。個人戦術も高く、フィジカル面もそうです。やっぱり日に日にどんどん良くなっているのが分かるんで、楽しいんですよ。

――代表入りという目標もこの先のパフォーマンスや結果次第ということですね

 国を代表して、みんなで世界一を目指すなんて、それだけですごくないですか? そこで1位になりたいというのはずっと思っています。代表に生き残れなかったのは自分の問題。ここからまた代表へ戻るためにどういう選択をしていくかは考えていきたいです。結果次第では代表への可能性もゼロではない。そこに向かってやるべきだと思っています。

――最後に。今年29歳ですが、この先のビジョンはどのように描いていますか?

 僕はJリーグで東京ヴェルディとジュビロ磐田にお世話になったので、最後は恩返しがしたいという思いがあります。特にヴェルディの育成で育ちましたし、強いヴェルディをずっと見てきましたから。ジュビロも当時は名波(浩)さん、福西(崇史)さん、藤田(俊哉)さんらがいた時代は映像でしか見たことないですが、すごく強かった。そういう伝統あるクラブにいたという自負があります。もしご縁があって、いつかお世話になったクラブに恩返しができれば、これほどうれしいことはないですね。

日本代表への強い想いも口にした小林(写真・ソウルイーランド提供)
日本代表への強い想いも口にした小林(写真・ソウルイーランド提供)

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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