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“ゴルフ強国=韓国女子”に陰り?韓国選手が積極的に米ツアーに進出しなくなったのは“お金”が理由?

金明昱スポーツライター
世界ランク2位のコ・ジンヨン。今年6月にネリー・コルダに1位の座を譲った(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 “ゴルフ強国”と言われて久しい韓国女子ゴルフ界。

 世界ランキングのトップ10以内に韓国選手は4人もいるが、今年は海外メジャー優勝者が一人もおらず、東京五輪でもメダル獲得に失敗した。

 これまで何人もの選手が毎年、米ツアーに進出してきたが、徐々に海外志向に陰りが見え始めたという。その理由を探ってみた。

申ジエ「海外進出する韓国選手は少なくなる」

「韓国はもうお腹がいっぱいなんだと思います」

 元米女子ゴルフツアー賞金女王で、世界1位も経験した申ジエがそう語った言葉の意味が、最初はよく分からなかった。だが、話を聞いているうちに韓国女子ゴルフ界に少しずつ“異変”が起きていることが分かった。

「これまでは米ツアーに出ていく韓国の選手は多かったですが、これから少なくなると思います。韓国女子ツアーも最近は試合数が増え、賞金額も日本ツアーに匹敵するくらいになりました。そうなると選手たちは、国内だけで満足してしまうのだと思います」

 つまり“お腹がいっぱい”というのは、米ツアーで結果を残す選手たちが毎年輩出されてきた経緯から、それが当然のようになり、国民の関心も薄れてきた部分があるかもしれない。

 韓国女子(KLPGA)ツアーは今季32試合が開催され、賞金総額もツアー史上最高額。日本女子ツアーの規模に迫る勢いで急成長を遂げている。

「私が韓国ツアーで戦っていたときよりも試合数も賞金額もけた違いに増加し、ツアー環境が整ってくると国内で戦うほうがいいと考える選手が増えてもおかしくはありません」(申ジエ)

 もちろん米ツアーに進出して、コンスタントに予選を通過して優勝も重ねれば、日本や韓国よりも賞金を稼げるのは確かだ。

今季韓国ツアーの賞金ランク1位は1億3000万円超え

 ただ、慣れない海外で戦うよりも、国内ツアーが充実していれば、わざわざ海を渡る必要はなくなる。

 現に今シーズンのKLPGAツアーで6勝し、賞金ランク1位を走るパク・ミンジの獲得賞金額は、13億3330万7500ウォン(約1億3333万750円)と日本ツアーのトップ選手に匹敵する額を稼いでいる。

 また、韓国賞金ランク2位のジャン・ハナが7億5238万6666ウォン(約7523万8666円)、3位のパク・ヒョンギョンが7億781万3620ウォン(約7078万1362円)で、以下4位と5位の選手は5億ウォン(約5000万円)を超えている。

 「稼げない」と言われていた韓国ツアーも今は昔。成績さえ残せば今や世界のツアーに匹敵するほど、十分に稼げる場所となったわけだ。

2010年アン・ソンジュは日本でイ・ボミの3倍稼いだ!?

 余談だが、2010年の韓国ツアー賞金女王のイ・ボミの獲得賞金総額は5億5737万6856ウォン(約5573万7685円)。同年の日本ツアー賞金女王のアン・ソンジュは1億4507万7399円を獲得している。

 当時、同じ1位でもアン・ソンジュは、日本でイ・ボミの約3倍の額を稼いでいた。日本が魅力的に映っていたとしてもおかしくはない。

 ただ、2019年にぺ・ソンウが日本ツアー初参戦して以降は、新たな韓国選手は見当たらない。プロテストに合格して正会員になる必要があるなどの条件のほか、コロナ禍の影響で日本進出が難しくなっているのもあるが、母国のツアー環境が整ってきたのが大きな要因になっているのは間違いない。

 それに今シーズンから米ツアーに進出した韓国選手は、2020年の全米女子オープンを制覇したキム・アリムしかおらず、海外志向に少しずつ陰りが見え始めているのは確かなようだ。

11年ぶりに海外メジャー優勝者“ゼロ”の韓国

 かつて韓国の女子選手たちは、米ツアー参戦1年目の1998年に「全米女子オープン」と「全米女子プロゴルフ選手権」でメジャー2勝し、“国民的英雄”となったパク・セリの背中を追い、積極的に米ツアーに進出した。

 現在、日本でプレーしている申ジエ、イ・ボミ、キム・ハヌルのほか、米ツアー選手のパク・インビらは1988年生まれで“パク・セリキッズ”の黄金世代にあたるが、米ツアーに出る選手たちの勢いは、とどまるところを知らなかった。

 2010年から韓国選手は海外メジャーで毎年優勝者を輩出してきたが、「今年は11年ぶりに一人もメジャーで勝てなかった」ことが大きなニュースになっていた。

逆に言えば「メジャーでは勝って当たり前」という認識でいること自体が驚きではあるのだが……。

 それに東京五輪のゴルフでも世界ランク2位のコ・ジンヨン、同3位パク・インビ、同4位キム・セヨン、同7位キム・ヒョージュの4人が出場したが、一人もメダルに届かず、韓国内ではショッキングな出来事として報じられていた。

 海外志向の韓国選手が少なくなったことで、申ジエは「今は韓国にいる選手たちの成長が、少し止まっている状態」と語っていたが、的を射た指摘だと思う。

 時代は移りゆくもの。“ゴルフ強国=韓国”という構図と勢力は、もしかすると数年後には大きく変わっているかもしれない。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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