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「ストイックで隙がない」渋野日向子ら“黄金世代”7人が語っていた米ツアー4勝・畑岡奈紗のスゴさとは?

金明昱スポーツライター
米ツアー4勝目を手にした畑岡。東京五輪での金メダル獲得に弾みをつけた(写真:REX/アフロ)

 東京五輪日本代表の畑岡奈紗が、米女子ツアーのマラソン・クラシックで通算4勝目を挙げた。

 3日間首位を守り、迎えた最終日は大雨で中止となり、通算19アンダーでの優勝。2019年以来、2年ぶりの優勝に「毎年1勝を目標にやっていたので、去年勝てなかったのがすごく悔しかった。今年もシーズンはじめは思うようにいかなかったけど、やっと勝つことができて嬉しい」と笑顔を見せていた。

 東京五輪での金メダルに弾みをつける優勝でもあったが、日本にいるせいか彼女のスゴさがイマイチ伝わってこない。

 しかし、現在の日本の女子プロゴルファーのトップにいるのは紛れもなく畑岡奈紗である。

 世界ランキングは9位で日本勢トップ。米ツアー4勝は日本人女子歴代3位。日本ツアーも5勝のうちメジャーが4勝(うちアマチュアで1勝)だ。

 2019年当時、度肝を抜かれたのが、日本女子オープン3度目の制覇だった。

 畑岡は日本女子オープンをアマチュア時代の16年に初制覇し、17年も連覇。18年は2位だったが、19年に3度目の優勝を果たしている。20歳266日で国内メジャー通算4勝目。これまでの最年少記録だった樋口久子の24歳31日を大きく更新した。

 すでに日本では敵なしの強さだった。米ツアー1年目は環境に慣れるまでが大変だったというが、今ではプレーする姿に貫録さえ漂う。

 ちなみに1999年生まれの畑岡は、渋野日向子、小祝さくら、勝みなみらと同じ“黄金世代”。アマチュアの頃からプロになったあとも、共にプレーしながら、その成長を間近で見てきた選手たちで、畑岡の強さをもっとも知る年代でもある。

 新型コロナウイルスの感染が拡大する前の2019年9月。女子ツアーの現場で、畑岡の強さはどこにあるのかについて、“黄金世代”の7人に話を聞いたことがあった。

 現在はコロナ禍で選手たちとの接触ができないが、当時はまだ選手たちに自由に話が聞けていた。そう考えると今ではとても貴重な証言でもある。当時の取材メモを振り返ると、畑岡さの強さが見えてくる。

「一番は100ヤード前後のショット力」

全英女子オープンを制した渋野日向子は、畑岡の強さについて開口一番「とにかく総合的にうまい」と、それしか言いようがないような口調だった。

「ショットの精度、小技、パター、マネジメントのすべてです。一番は100ヤード前後の距離がめちゃくちゃうまいですね。確実に寄せて、入れてきますからね」

 19年のリゾートトラストレディスでツアー初優勝を飾り、20年はメジャー2勝した原英莉花はこう話していた。

「私が見て個人的に感じるのは、自分のルーティーンを崩さないという印象が強い。勝負所でしっかりバーディーを取っていけるのはすごいと思います。(畑岡さんは)自分の確固たる形を確立できているんじゃないかなと感じます」

今季、賞金ランキング1位の小祝さくらはこう語る。

「ショットの時の下半身の使い方がうまい。インパクト前の腕のおろし方も参考になりますし、体幹が強くてバネがあるのでピョンと飛んで打っている感じがありますが、普通は飛んだらボールにパワーが伝わらないはずなのに(奈紗ちゃんは)そういうスイングにはならない。すごく理にかなったスイングをしていると思います」

「体幹の強さと総合力の高さ」

 高校1年の時にプロツアーで初優勝し、プロ入り後に通算4勝の勝みなみはこう語っていた。

「アマチュアの時に一緒に回ったことがありますが、今も見ていて感じるのは総合的な力があることです。ドライバーの飛距離があり、それに加えてショットの精度や安定感もある。パターも決めなきゃいけないところできっちり入れてきます。一つひとつのプレーにムラがないのが強さですね」

 2019年にツアー初優勝した淺井咲希は「学生の時よりも体つきが確実に変わっている」と話す。

「ものすごくトレーニングしているのが見ていて分かります。体幹の強さがスイングに出ている。米ツアーでの経験値があるので、日本女子オープンなんかは特に深いラフからの打ち方は本当にうまいと思いました。どんな場面にも対応できる能力が高く、とにかく隙がない」

「ゴルフへの思いが抜きんでていた」

 2019年の日本女子オープンで最終日、最終組で畑岡と優勝争いし、2位タイで終えた大里桃子。その強さを再認識していた。

「飛距離も出ますし、体幹もしっかりしているので曲がらない。アメリカでの経験もあって、小技のレパートリーも多い。それにチャンスについたら絶対に外さない。一緒に回りましたが、自分が入れたら、次に絶対に入れ返してくるというメンタルの強さ。総合的にうまい」

 最後に話を聞いたのが2018年にツアー初優勝した新垣比菜。アマチュアのときから畑岡のことをよく知る一人だ。

「すべてにおいて別格ですし、とにかくストイックです。技術レベルも高いし、メンタルも強い。飛距離も正確性もある。周囲の選手とはゴルフに対する思い入れが、本当に違っていて、当時から抜きんでていました」

 畑岡の実力を同年代の誰もが認めていた。東京五輪での金メダル獲得の可能性もかなり高いと見ていいのではないだろうか。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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