「サッカー人生が終わったわけではない」北朝鮮代表JリーガーがW杯アジア予選不参加の胸中を初激白!

FC琉球の北朝鮮代表MF李栄直がインタビューに答えた(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

 電話越しの声からは、少し無念さがにじみ出ていた。ただ、その決定に納得いかない様子はなかった。

「新型コロナウイルスの感染拡大は世界的に起こっていることなので、選手の安全を考えた場合、W杯アジア予選の辞退は仕方がないという気持ちのほうが大きいです。早い段階に決断できる国も中々ないと思います。選手の立場としては決まりに従うほかありません。それにこれでサッカー人生が終わったわけではありませんから」

 そう気丈に語るのは、J2リーグFC琉球の在日コリアンJリーガーで現役北朝鮮代表MFの李栄直(リ・ヨンジ)だ。

 サッカー北朝鮮代表が、新型コロナウイルス感染防止のため、2022年カタール・ワールドカップ(W杯)アジア2次予選の参加を辞退するというニュースが報じられたのは5月3日。

 韓国メディアが一斉に発信して明らかになったのだが、筆者が関係者に確認したところ、事実であることも確認できた。さらに16日にはアジアサッカー連盟(AFC)が公式に、北朝鮮代表がカタールW杯アジア2次予選を棄権することを発表した。

 ただ、アジア最終予選進出の可能性を十分に残していただけに、この決定には驚きを隠せなかった。

 北朝鮮が属するグループHの2次予選は、6月に韓国で集中開催されることが決まっていた。トルクメニスタンが勝ち点9、韓国(消化が1試合少ない)、レバノン、北朝鮮が勝ち点8。スリランカが勝ち点0。

 各グループ1位と各グループ2位の中の上位4チームが最終予選に進める。つまり北朝鮮は残り3試合の結果によっては、首位通過の可能性もあったわけだ。

 もちろん李栄直もプロサッカー選手である以上、憧れのW杯の舞台に立ちたかったという思いは強かったはずだ。

「サッカー選手としては当然、緊張感のある舞台で試合をしたい気持ちが強いですし、あの場でしか経験できないこともある。なので残念な気持ちがないといえば嘘になります。それでもアスリートは決まったことを受け入れるしかない。一つ残念なのは、カタールW杯を機に引退すると言っていたチームメイトがいるので、最後に同じピッチに立てなくなったのは寂しいですね」

 李が北朝鮮代表に初招集されたのは2014年。同年の仁川アジア大会でU-23代表メンバーに選出され、主力としてプレー。決勝戦で韓国に敗れたものの準優勝に貢献している。その後はA代表に招集がかかり、今年で北朝鮮代表歴は7年目を迎えた。

 2017年12月のEAFF E-1サッカー選手権では、日本代表とも対戦。2019年1月にUAEで開催されたアジアカップにも出場しており、共に戦ってきた仲間とW杯出場を賭けた舞台に立てない寂しさはあってしかりだ。

北朝鮮代表歴は今年で7年目になる李栄直(後列左から4番目)(写真・AFC提供)
北朝鮮代表歴は今年で7年目になる李栄直(後列左から4番目)(写真・AFC提供)

北朝鮮代表に溶け込む秘訣は“しゃべること”

 李は2013年にJリーグの徳島ヴォルティスにプロデビューを果たし、U-23北朝鮮代表入りしたのはその1年後。その後、V・ファーレン長崎、カマタマーレ讃岐、東京ヴェルディを経て、2020年からFC琉球と渡り歩いているが、Jリーグでコンスタントに試合に出場している部分を代表では高く評価しているという。

 ちなみにFC琉球では最終ラインを守るが、代表では攻守のつなぎ役をこなすボランチの役目をこなす。

「日本と朝鮮のサッカースタイルは違いがあるので、Jリーグで培ってきたサッカーを代表で生かすというのは意識しています。朝鮮の選手は攻めの意識が強いので、自分が特に中盤での攻守の切り替え、流れやテンポを見てボールを落ち着かせたりする役目を担っています」

 代表歴が長い分、今はチームに溶け込んでいるものの、初めは慣れるまで時間がかかったと思う。そもそも日本を拠点にする李栄直が、平壌で活動する代表チームに合流し、チームメイトとコミュニケーションを図るのは、国際大会がある時など年に数回あるかないかだ。それに日本から見れば“北朝鮮代表”はどうしても「謎が多いチーム」と想像する人も多いだろう。

 こちらの勝手な想像だが、それこそ社会主義国で育った選手たちの“サッカー観”や物事の捉え方などにも違いがあったりするのではないだろうか。

 特にチーム戦術の理解力を高めるためには、その国の選手の特性や性格などを理解する努力も必要だろう。

 そうした小さな“壁”を取り払うため、彼なりに必死に努力してきたはずだ。どのようにしてチームに必要とされ、北朝鮮代表の監督や選手、コーチたちとコミュニケーションをとってきたのかが気になった。

「とにかくチームメイトと会話する。それが一番です。僕が(朝鮮学校で)子どものころから習ってきた言語と本場では多少、イントネーションの違いがありますが、基本的に会話は問題ありません。チームに溶け込む秘訣は、とにかくしゃべること。そこからプレーや考え方における“ズレ”を直していける。なのでとにかく話すことがシンプルで一番いいかなと思います。日常会話とかでいいんです。その場にある話題に触れるだけでもコミュニケーションは取れますから」

 これは海外でプレーする選手にも共通する部分だろう。積極的に話をして、自分の考えを相手に伝えることで、チームに受け入れられていく姿が想像できた。

南野拓実をリスペクトする北朝鮮選手

 北朝鮮の選手たちは、海外サッカーにもかなり詳しいのだという。

「そもそもセリエAのカリアリ、ペルージャ、ユベントスに所属したFWハン・グァンソンやオーストリア1部でプレーしたFWパク・クァンリョンは欧州のトップでプレーしていたので(現在2人は国内クラブ所属)、逆に自分のほうが彼らから移籍金や環境などの話を聞いて驚く話題のほうが多かったです。もういろんな情報は知っています。Jリーグにも興味はあるみたいですが、当初よりも聞かれなくなりました(笑)」

 世界のサッカーシーンを北朝鮮の選手たちが知っていて当然だ。ワールドカップやUEFAチャンピオンズリーグを見ては、世界のトッププレーヤーに憧れ、いずれは欧州のビッグクラブで戦いたいと思っている。

 意外だったのは「北朝鮮の選手は、日本の選手もよく知っている」という話だった。

「世代別の代表だったころ、日本代表とも対戦していて、特に同年代の南野拓実(サウサンプトン)のことを褒める選手は多かったです。今の北朝鮮代表に南野と同年代が4~5人います。リヴァプールが獲得したことも知っていました。『あの選手はすごくうまいよね』と言っていて、リスペクトしているんです。実力のある選手は対戦すれば分かりますから、素直に認めています。もちろんそれは相手が韓国代表でもです」

背番号10を背負って代表でプレーしたこともあった李栄直(写真・AFC提供)
背番号10を背負って代表でプレーしたこともあった李栄直(写真・AFC提供)

3月の日韓戦は“韓国らしさ”がなかった

 韓国代表と聞けば、思い浮かぶのは、やはりトッテナムで絶対的エースへと成長したソン・フンミンだろう。

 ほかにもかつてガンバ大阪にいたファン・ウィジョ(ボルドー)やザルツブルクで南野拓実と同僚だったファン・ヒチャン(ライプツィヒ)など欧州でプレーする選手がいるが、韓国フル代表と戦ったことがあるJリーガーは李栄直が唯一だ。

 2019年10月、カタールW杯アジア2次予選で北朝鮮・平壌にある金日成スタジアムに韓国代表を迎え、30年ぶりの国際Aマッチが実現した。

 この試合の中継陣や取材記者が入れないなど、さまざまな方面から批判を浴びていたが、結果は0-0の引き分け。このときの韓国代表との対戦をこう振り返る。

「すごく気持ちのこもった試合ができました。自分たちがホームなので優位な状況でしたし、韓国はかなりやりづらそうなのは感じました。その中でもお互いにいいゲームができたと思っています。球際も十分強かった」

 もう一つ、韓国代表の試合で思い出すのは、今年3月25日に10年ぶりに実現した日韓戦だ。

 このとき、韓国代表はソン・フンミンら欧州組がそろわず、国内組がメインの「2軍」と言われ、結果は0-3での惨敗。実際に試合を見たという李は、対戦にこんな感想を抱いていた。

「韓国のパフォーマンスがあまりにもよくなかったというのがまず一つ。コロナ禍で難しい状況で来日したというのもありますけれど、明らかに集中できていない感じがありました。イージーミスもかなり多かったと思います。逆に日本代表のパフォーマンスが素晴らしかったというのは間違いありません。国を背負って戦っている以上、チームの構成に1軍や2軍もないと思います。国を背負うというのは一試合一試合、どんな試合でもベストを尽くさないといけないですから」

 韓国の出来の悪さを指摘しつつ、日本の良さが際立っていたと称賛していた。「韓国にはもっとやってもらいたかった」と語るのは“韓国らしさ”が足りないと感じたからだろう。

2019年10月に北朝鮮・平壌にある金日成スタジアムで行われたカタールW杯アジア2次予選の韓国戦。ソン・フンミン率いるベストメンバーと北朝鮮代表の李栄直は戦った(写真・AFC提供)
2019年10月に北朝鮮・平壌にある金日成スタジアムで行われたカタールW杯アジア2次予選の韓国戦。ソン・フンミン率いるベストメンバーと北朝鮮代表の李栄直は戦った(写真・AFC提供)

「ソン・フンミンは頭3つ抜け出ていた」

 では、仮に韓国にソン・フンミンやファン・ウィジョ、ファン・ヒチャンら欧州組がいれば、試合内容は変わっていただろうか。

 李はソン・フンミンとマッチアップした経験を踏まえてこう語る。

「3月の日本戦は、韓国にソン・フンミンがいたとしても、そこまで大きく結果は変わっていなかったのではとは思います。それくらい日本のモチベーションが高く、気迫も勝っていて内容も良かった。ソン・フンミンは使われる側の選手ですが、韓国代表では彼に信頼を置いています。トッテナムではソン・フンミンを活かす選手はいますが、韓国代表では彼を活かす選手がいないというのが正直な感想です」

 確かに代表でソン・フンミンを巡る起用法については、韓国で何度も議論になっており、現指揮官のパウロ・ベント監督もどのようなシステムで使うのが最適なのかを模索している。現在はソン・フンミンが“活かす側”となり、ファン・ウィジョやファン・ヒチャンが得点を決めるスタイルが確立されつつあるが、ピタリとはまる形ができているとは言い難い。

 それでもソン・フンミンの個人能力の高さとチームに与える影響力は認めざるを得ないだろう。

「もうとっくにアジアレベルは超えています。スピードがあり、プレーのクオリティーも高い。それを90分間、常に出せるのでスキがない。ピッチに立ったとき、22人の中でも頭1つどころか3つぐらいは抜けているなと感じました。それに彼が入るとチームの雰囲気はガラリと変わると思います。後輩たちも『自分たちもやらなければいけない』という感情を持つでしょう。スターなので、影響力は絶対にあると思います」

 “たられば”ではあるが、ソン・フンミンがいればもう少し士気の高い韓国代表が見られたかもしれない。

J2リーグ2位をキープするFC琉球。J1昇格に貢献したいと意気込む(写真・FC RYUKYU)
J2リーグ2位をキープするFC琉球。J1昇格に貢献したいと意気込む(写真・FC RYUKYU)

「FC琉球のJ1昇格に貢献する」

 現在の話に戻そう。李は昨季、FC琉球で38試合に出場してチームに貢献し、Jリーグではキャリア最多出場のシーズンとなった。しかし、今季は練習中のケガで早々に離脱。7週間の十分な休養を経て今は回復したが、ここまで途中出場が5試合(5月15日時点)と満足なプレーはできていない。

「今年、チームが始動してハムストリングの肉離れの損傷がひどく、しっかりと回復させたかったのでリハビリに時間をかけていました」

 焦らずにコンディションの回復に時間をかけたのは、2018年から2シーズン在籍した東京ヴェルディで出会った永井秀樹監督の言葉があったからだという。

「永井監督に『一番、恥ずかしいのは試合に出たときに実力を出せないこと』と言われたのが、自分の中ではかなり重い言葉としてのしかかっていました。試合に出るまでしっかりと準備するのがプロだと思っているので、そういう意味では焦らないようにしています」

 一方で、チームは14試合を終えて10勝3分1敗のリーグ2位(5月15日時点)と好調をキープしている。

「チームも調子がよく、最終ラインの守備もすごくいい。その間に自分が抜けたので、チャンスが回ってこないですが、いつでも準備はできています。去年の自分のパフォーマンスとクオリティーは見せられているので、チャンスが来た時にはしっかりと違いを出せる自信はあります。チームはJ1昇格を目指しているので、そこには貢献しないといけない。個人としては一日一日しっかり成長するためにも、当たり前のことをしっかりこなしていくだけです」

 カタールW杯出場という夢の舞台に立つチャンスは潰えたが、その分、J2での戦いに気持ちを切り替えられる。結果的にはこれで良かった――と心の底から思えるのは、FC琉球がJ1昇格の切符をつかんだときだろうか。