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「自分を信じてやるだけ」たった“15分”渋野日向子の単独インタビューから見えたブレない芯の強さとは

金明昱スポーツライター
今年、渋野日向子はどんな活躍を見せてくれるだろうか(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 渋野日向子が全英女子オープンに初出場で初優勝したのが2019年8月。それから約1年後の2020年7月に彼女に単独インタビューしたときのことだ。

 この時はすでにゴルフ界のみならず、国民的なアスリートとしてその名を広めていたときで、シーズン中にも関わらずメディアからのオファーは殺到していたと聞いていた。

 彼女の声を取りたいと思っても、そこはゴルフ優先のスケジュールで動いているため、簡単にインタビューなんて取れるわけがない。

 それでも合間を縫って、貴重な時間を作ってくれたのが去年の7月だった。それこそ1年越しのオファーによって実現したもの。コロナ禍で直接会うことはできず、リモートとはいえ、直接話せる貴重な時間に感謝しなければならなかった。

 ただし、不安があった。マネジメント会社から提示された時間は15分。

 これを“たったの”というべきか、“じゅうぶん”と言うべきなのかだが、スター選手の単独インタビューとなれば後者だったのだろうと、今にしては思う。

 15分で何を聞くべきか。十分な話を引き出せるのか。そんな心配が頭によぎる。

 必ず聞いておきたい質問を改めて精査し、取材に挑んだ。画面越しの渋野は“スマイルシンデレラ”の名の通り、ニコニコと笑っていた。

 それでこちらの緊張もかなり解けたのだが、時間ばかりが気になって仕方なかった。

[渋野日向子「スマイルシンデレラを壊しちゃうよ?」 全英女子OP優勝から1年の思い]

的確な回答は演じられたものではない

 いざ、インタビューが始まる。と同時に、心配は杞憂に終わった。

 質問に対して出てくる言葉は、すべて的確。それも演じたり、作られた話ではなく、とても正直でいて、かつユーモアもあった。これまでの経験がそうさせているのか、とにかく饒舌なトークに驚いた。

 まずは“スマイルシンデレラ”と呼ばれていることについてどう思っているかを聞くと――。

「私、そんなに笑っていたっけなーって思っています」

「怒るときも顔に出します」

「(スマイルシンデレラという印象と)ギャップはあるかもしれませんね(笑)」

 いつも笑っているわけではないですと語気を強めながらも、その話をしているときは「ガハハ」と笑っていた。

 次はプレー中によくお菓子を食べている「もぐもぐタイム」という報道と撮られる写真について。

「撮られるのは嫌じゃないです。カメラマンさん、絶対に狙っているよなーって思うんですけれど。それが嫌で食べなかったときは、おなかが空いちゃうんですよ。それだと意味がないと思ったので、結局は食べています(笑)」

「もうこっちが我慢しても、ゴルフに影響してしまったらいけないので。だったら今までやってきたことを続けるしかないなって。今はもう『どうぞ撮ってください』ですよ」

 この回答を聞いて、渋野は注目されても自然体でいられる選手なのだと思ったものだった。

「すぐに結果が出るわけでもない」

 そしてこの15分の間に、一番聞いておかなければならない質問をぶつけた。

「2019年は好意的なニュースが増えた一方、今季は予選落ちした途端、悲観的な記事も目立つようになりました」と。

 この時は少し真剣な顔つきになったと記憶している。

「いろんな意見があると思いますが、私の気持ちを分かってほしいとも思っていないので、自分を信じてやるだけですね。分かってくれている人に、自分が取り組んでいることや本当の気持ちを分かってもらいたいと思っています」

 いつも笑っているイメージのある選手とはいえ、周囲からどのように見られているのかを、常に敏感に感じ取っているのだろう。言葉のトーンからもそれがひしひしと伝わってくる。

 それに次の言葉から、とても芯が強く、気持ちの切り替えが早い選手だとも感じた。

「注目していただけているというのは、本当にありがたいことです。私もそれを目指していたわけですから。確かに結果が出なくて、(去年の開幕戦「アース・モンダミンカップ」で)予選落ちをしました。あのときは『オフにやってきたことが無駄だったのかな』と言ってしまったんですけれども、いま思えばすぐに結果が出るわけでもない。だから、いつ出るか分からない結果のために、これからも頑張っていかなきゃというのは、もう次の日に思いましたね」

 すぐに結果を追い求めているのではなく、長い目で見て自分のゴルフに取り組んでいる。周囲から聞こえてくる多少の喧騒も楽しみつつ、時にうまく受け流しながら、やるべきことをやり続けている。

 昨年8月から約2カ月の米ツアー転戦で結果が出なかったときも、周囲から色々と騒がれていたが、黙々と自分のすべきことに取り組んでいた。

 それが徐々に実を結び始めると、昨年12月の「全米女子オープン」で優勝争いを演じて4位に入ったのは記憶に新しい。

 渋野は米ツアーに関しては、メジャーなどをスポットで参戦しつつ、Qスクール(予選会)の突破から来年の米ツアー出場を視野に入れている。とても大事な1年になるのは、自分が一番よく分かっているだろう。

「予選落ちする夢を見た」

 2月末には突然、YouTubeチャンネルを開設。開幕を前に大会への意気込みを語っていた。

「ギャラリーが入るのでめっちゃ楽しみです!夢では予選落ちする夢を見ました。現実では予選通過できるようにがんばります(笑)。太ったなーって感じで見ていただければ。でもキレが落ちているわけでもないし」

 目標について聞かれると、「目標は正直ないです。目の前のことしかできないんで。やるべきことをやりきることを今年はがんばります」ときっぱり。

 今年も着実にやるべきことをやる、と心に決めている。その先にきっと結果はついてくると信じている。

 それにしても人を和やかにする独特の雰囲気は、YouTubeチャンネルでも見て取れるし、トークの合間に出る“シブコ節”は今年も全開だ。一方でゴルフへの情熱と向上心も年々、増しているように感じる。

 今年の国内女子ゴルフツアーは、明日から始まる「ダイキンオーキッドレディス」から幕を開ける。昨年以上に、成長した”強い”渋野日向子が見られるのを期待したいものだ。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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