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「VARのノーゴール判定で士気が高まった」物議を醸す神戸の得点取り消し。Kリーグ選手は慣れている?

金明昱スポーツライター
蔚山が神戸に逆転で勝利し決勝進出を決めた。(写真:ロイター/アフロ)

 12月13日、アジア・チャンピオンズリーグ(ACL)の準決勝で蔚山現代とヴィッセル神戸が対戦。試合は延長戦までもつれこみ、蔚山が2-1で神戸に逆転で勝利した。

 蔚山現代のエースナンバー10番を背負うユン・ピッカラムは、ACL準決勝でヴィッセル神戸との激戦を振り返り、こう語っていた。

「先に失点され、難しい試合だったが、最後まで諦めない気持ちが逆転できた理由だ。運もあったが、次の試合もしっかりと準備をしていい試合をしたい」

 さらにVARで、神戸のゴールが取り消しになったことについて聞かれ、こうも語っている。

「あのゴールが取り消しになって、選手たちの士気が高まったのは事実です。あのゴールがもし認められていたら、2点追う展開だったのでもっとしんどかったと思います。2点決めて逆転するというよりも、1点を先に決めて、追うという考えで挑んだ結果、逆転できた」

 試合を少し振り返っておきたい。前半を0-0で折り返し、後半に均衡を破ったのは神戸。52分、CKから山口蛍がダイレクトで右足を振り抜いて先制した。

 75分にも、神戸の佐々木大樹がゴールを決めて2-0でリードしたと思われたが、VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)判定によりノーゴール。

 物議をかもしているのは、中盤でボールを奪取した安井拓也のプレーがファウルとされ、ゴールを取り消されたことだ。この微妙な判定に蔚山は救われた。

 これで首の皮一枚つながった蔚山。80分には、蔚山のユン・ピッカラムが決めたゴールが、副審がオフサイドフラッグを挙げていたため、VAR判定となったが、得点を認められて1-1。この判定がゴールとされたのも大きい。

 延長戦に入ってからは、両者が体力を消耗するなかでの死闘となったが、延長後半119分にGK前川黛也がファウルを取られてPKに。これをネグランが決めて蔚山が2-1で勝利した。

 ユンも語っているように蔚山にとっては、神戸のゴール取り消しが、勝利を狙う上で大きなポイントになったのは間違いない。

アジアで初のVAR導入は韓国

 一方で、韓国側にはこんな論調もある。

 スポーツ・芸能ニュースサイト「OSEN」は「神戸を始め、日本側としてはVAR判定に強い不満を表している。彼らはVARが蔚山に有利に作用したと主張している。ただ、日本のJリーグはKリーグと違って、まだリーグ内でVARを採用していない」と報じている。

 つまり、VARを採用しているKリーグでプレーする選手たちは、その後の判定に一喜一憂せずプレーできる環境に慣れている、と言いたいのかもしれない。

 コロナ禍で見送りになっていた今季JリーグのVAR導入は、2021年と2022年シーズンに再導入することが決定している。

 実はアジアで最初にVARを導入したのは韓国Kリーグだ。

 2017年7月からKリーグ1(1部)、18年からKリーグ2(2部)で導入された。すでに3年の歴史がある。

 2017年6月に韓国プロサッカー連盟がVARの説明会を行い、当時の韓国メディアはこう報じている。

「韓国プロサッカー連盟は2018年からの導入を予定していたが、誤審による抗議や不満の声が高まり、前倒しで実施することが決まった」

 ただ、そう簡単に導入できるものでもない。FIFAの手続きに沿ったトレーニングが必要とされ、審判員の養成や設備面などで入念に準備を進めなければ、逆に試合の進行に支障が出る。

KリーグではVAR判定による誤審も

 VAR導入を急いだことによるメリットとデメリットはある。

 2019年に「韓国日報」が「VARの中間評価」という記事をまとめている。

「2018年は410試合(Kリーグ1が228試合、Kリーグ2が182試合)で、施行されたVAR判定の回数は計151回(Kリーグ1が79回、Kリーグ2が72回)。4.3試合当たり1回の判定変更があった」

 これだけVAR判定が多いと、映像を確認しながらもミスジャッジとなったケースもある。

 韓国のサッカー担当記者は「勇み足でVARを導入してしまったので失敗も多い。レフェリーのレベルに問題を抱えていたり、VAR使っても誤審を見逃したりする試合もあります」と語っていた。

 実際、2019年のKリーグ1第7節(4月14日)、FCソウル対江原FCの試合では、明らかにオフサイドによる得点が、VAR判定でゴールと認められるという事態に。のちにこのレフェリーは連盟から処分を受けている。

 確かに今回、神戸に勝利した蔚山には運があったし、それが有利に作用した部分は否めない。

 ただ、Kリーグでプレーする選手たちには、“VAR判定”への慣れや免疫があるとも感じる。

 来年からはJリーグでも、VAR判定による微妙なジャッジが話題に上がるのではないだろうか。選手やファンも心の準備はしておいたほうがいいかもしれない。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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