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「黄金世代にはまだ負けない」賞金女王・鈴木愛から見えた“意地”と“プライド”、そして東京五輪

金明昱スポーツライター
2019年賞金女王の鈴木愛。今年も女王筆頭候補。東京五輪出場へも意欲十分だ(写真:REX/アフロ)

 年末年始のテレビ特番を見ていると、バラエティー番組やトーク番組など、渋野日向子の姿をたくさん見たという人も多かったに違いない。

 その流れで同年代の“黄金世代”も数多く出演していた。

 昨年の全英女子オープンを制したあとから、“スマイルシンデレラ”と呼ばれた渋野のブレイクを放っておくことはないと思っていたが、これほどまでに女子プロゴルファーが注目を浴びた一年も珍しいと思う。

 それとは対照的に2019年に賞金女王となった鈴木愛の話題は、そこまで多くはなかったと感じる。

 もちろん、賞金女王争いを演じたことで確かに注目の存在ではあったが、鈴木が日本で頂点に立ったあともオフの話題は賞金ランキング2位の渋野と“黄金世代”一色だった。

 少し気の毒な感じもしていたが、鈴木もそうなることは重々承知で、今は自分のすべきことに集中している。

 東京五輪が開催される今年は、さらに闘志を燃やしていると思う。

 それを感じられたのが、昨年末のインタビューからだった。

デビュー当初の車は「マーチ」

 2017年以来2度目の賞金女王になった鈴木愛。年間7勝、その強さは確かに他の追随を許さないものだった。

 鈴木愛のことをプロデビュー当時から知っているが、相当な苦労人だ。

 今でこそ年間1億円を稼ぐトッププロだが、下部ツアーで戦っていた2013年、彼女が乗っていた車は日産の「マーチ」だった。小さな車に多くの荷物を入れて、母と日本各地を転戦していたのだ。

 この話を本人にするととても嫌がられるのだが、経費を節約しながら、コツコツと練習して実力を上げ、試合で結果を残していく姿はまさに成功者のお手本でもある。

 夜遅くまで居残り練習する姿もよく見ていた。よく“練習の虫”と言われていたが、ライバルを追い越すという強い意思と練習量で今の立場を手に入れた努力家だと思う。

 昨年はLPGAチャンピオンシップリコーカップの初日に風の読み違いをキャディのせいにしてしまう“発言”があったが、これも彼女がゴルフに対して真面目な性格で、それだけ勝負に賭ける強い思いがあるからだと思うのは自分だけだろうか。

 彼女の強さの要素の一つでもあると思う。

「“負けられない”と言うか“まだ負けない”」

 そんな鈴木に“黄金世代”について聞くと、正直にこう話していた。

「私はあまり考えていません。彼女たちは勢いはあると思いますが、“負けられない”と言うか“まだ負けない”って思っています」

 賞金女王としての意地とプライドを垣間見た瞬間だった。

「私もたくさん練習してきましたし、優勝の経験も多くしてきました。それに勝つよりも負けることのほうが山ほどあります。勝つことよりも、負けるほうがその後の糧になります。敗北をどのように生かすのか、そして課題も見えてきます。負けた回数が多い分、経験も多く、成長もしていると思っています。だからまだ負けません」

 そう断言する鈴木が目指すのは、もちろん東京五輪出場だ。

「2つの米メジャーで結果残す」

 1月6日時点の鈴木の世界ランキングは14位。現在、同6位の畑岡奈紗、11位の渋野日向子に次いで、日本勢3番手の鈴木。6月29日付けのオリンピックランキングで15位以内に入れば、3人の出場が可能だ。

「日本のコースは毎年回っているので、頭の中にしっかりとデータがあるのですが、海外(アメリカ)のコースに行った時はその蓄積がありません。グリーンのラインやコースマネジメントもそうで、まだ自信を持って打てなかったりするので、そこは課題です。とにかく日本の試合よりもポイントが高い米ツアーで、出場するどれかの試合で活躍できればいいなと思っています。メジャーのANAインスピレーションか全米女子オープンは、自分の中でもかなり大きな試合なので、その2つでまずは結果を残したいです」

 米ツアーで着実にポイントを上げて、畑岡奈紗、渋野日向子を追い越す気持ちで、世界ランキングを上げて東京五輪出場権を勝ち取るつもりだ。

 鈴木の存在感もさらに増しそうな気配もある。自身3度目の賞金女王も決して不可能ではないはずだ。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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