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世界柔道初Vの丸山に敗れた韓国の金琳煥は日本生まれ。原点は日本の柔道「東京五輪への思いは強い」

金明昱スポーツライター
表彰式で阿部一二三、丸山城志郎の隣に並ぶ金琳煥(キム・イムファン)は在日コリアン(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

 来年の東京五輪のテスト大会を兼ねた2019年世界柔道選手権東京大会。

 大会2日目の男子66キロ級準決勝では、3連覇を狙う阿部一二三と初出場ながら勢いのある丸山城志郎の日本人対決ということで、会場は大いに盛り上がった。

 決勝に進んだのは丸山。相手は韓国の金琳煥(キム・イムファン)だ。

 日本武道館の雰囲気は、外国人選手にとっては完全アウェー。決勝戦は丸山の勝利を願う人がほとんどだっただろう。

 だが、韓国代表の金が日本に特別な思いを抱いていることは、ほとんど知られていない。

 彼は日本生まれの在日コリアン3世。日本で柔の道を歩んできた。

丸山にリベンジならず

 金は決勝戦までの6試合で、4試合を1本勝ちし決勝に勝ち進んだ。

 会場からは金へ送られる大きな声援が何度も聞こえてきた。

 関係者に聞くと「家族や親せき、友人、大学時代の柔道部でしょう」とのこと。

 だが、決勝では丸山に敗れて惜しくも2位。それでも世界選手権で獲得した初のメダルに「ホッとしています」と笑顔を見せる。

 実は今年2月のグランドスラム・デュッセルドルフ大会でも金は、丸山に決勝戦で敗れていた。リベンジはならなかった。

「以前、丸山選手にはドイツでも負けているんですよ。組手では圧倒されていましたし、相手の技の研究も足りなかった。課題は一発の『これ!』っていう技がないので、強い日本人選手のように地力のある選手にはまだ勝てない。もっと地力をつけないとこの上には行けないと思います」

韓国のライバルはリオ五輪銀メダリスト

 金は小学校まで朝鮮学校に通い、中学校から日本の学校へ。全国中学校柔道大会にも出場し、高校時代はインターハイにも出場し頭角を現した。同時に韓国国体にも出場している。

 その後、柔道の名門・東海大学へ進学して力をつけると、卒業後は韓国実業団の「韓国馬事会」に所属し、柔道に専念。

 2016年グランプリ・サムスンでIJFワールド柔道ツアー初優勝したが、同年のリオデジャネイロ五輪には出場できなかった。

 同階級にライバルのアン・バウル(リオ五輪・銀メダリスト)がいたからだ。アンは18年のアジア大会決勝で丸山を破った逸材。

 今回の世界選手権にも出場し、日本選手のライバルになると予想されていたが、2回戦で反則負けを喫した。

 金が東京五輪出場の切符をつかむには、これから始まる韓国内での代表争いに勝たなくてはならない。

「アン・バウル選手はライバル。国内でまず勝って結果を残していかないと五輪出場はできません。今大会でメダルを取って存在感をアピールすることはできましたけれど、まだまだですね。ただ、柔道人生において、(東京五輪に)こういうチャンスはないと思うのでがんばりたい」

 共同取材エリアでは、丸山や阿部を取材する報道陣でごったがえしていた。その隣で静かに話を聞いていたのだが、最後にこう質問を投げた。

「東京五輪には思い入れはありますか?」

 すると金はこう答えた。

「めちゃくちゃありますね。こんなチャンスはないと思っているので、なにがなんでも出場権を勝ち取りたいという気持ちはあります」

 日本で生まれた在日コリアンとして、東京五輪出場は自分の両親だけでなく、日本でお世話になった中学、高校、大学の柔道部の友人や関係者たちに成長した姿を見せ、恩返しする場所だ。

 1年後、再び日本武道館に舞い戻ってきてもらいたい。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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