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FC東京チャン・ヒョンスがキャプテンを任されるワケ「部員のスマホを全部没収したら嫌われたが…」

金明昱スポーツライター
FC東京でキャプテンを務め、韓国代表では不動のCBとして監督からの信頼も厚い(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

 韓国代表の不動のセンターバック(CB)に成長したFC東京のチャン・ヒョンス。

 チャンは先月の国際親善試合で北アイルランド(1-2)、ポーランド(2-3)戦に先発出場を果たしたが、いずれも惜敗。

 ロシアW杯前に世界との差を体感してきたわけだが、日本に帰国後、すぐに日本の記者たちに囲まれて、様々な質問に答えていた。

 特にロシアW杯で日本と同組のポーランドへの対策について聞かれ、「点を取られても諦めずに戦うことだ」とコメント。アジアのレベルは、まだ世界には及ばないことを感じさせる言葉でもある。

 そんな彼は、昨シーズン途中、中国の広州富力から古巣のFC東京に加入。落ち着いたプレーと体格を生かしたヘディングに定評があり、各年代別代表にも招集され、“第2のホン・ミョンボ”と呼ばれていた。

 今では韓国代表の守備ラインに欠かせない選手へと成長し、しかも、今季はFC東京で史上初の外国人キャプテンを任され、シーズンを戦っている。

「圧倒的な存在感」

 今季、Jリーグ開幕前にチャン・ヒョンスにインタビューする機会に恵まれた。その時、キャプテンを任された経緯について聞くと、こんな答えが返ってきた。

「(長谷川健太)監督に呼ばれて『キャプテンをやってくれないか』と言われたのですが、最初は少し戸惑いました。でも、すぐに頭の中を切り替えて、自分がキャプテンとしてやらなければならないこと、何をすればチームが良い方向に進んでいくのかを考えました」

 間髪入れず、監督からの要望をすぐに受け入れた。考える時間がほしいとも言わなかった。一つ、引っかかったのは、言葉の問題だった。

 チャンは長谷川監督に「日本語ができないんですけど大丈夫ですか?」と聞いた。すると長谷川監督も「問題ない」と言ってくれたという。チャンも「一生懸命がんばります!」と返事した。

 長谷川健太監督もシーズンが開幕する前の2月、韓国代表DFに腕章を託した理由についてこう語っている。

「トレーニングを見ていてもチームを引っ張っていく姿勢が感じられた。圧倒的な存在感がある。キャプテンらしいキャプテンだ」

ホン・ミョンボやチョン・ウヨンも主将を経験

 まだ日本語もそこそこの韓国人選手が、Jリーグクラブでキャプテンに任命されるケースは過去にもある。

 私が最も印象に残っているのはホン・ミョンボだ。1999年から柏レイソルでプレーし、ディフェンダーとボランチとして活躍。韓国人Jリーガーとして初めてキャプテンを務めた。

 また、今季から古巣のヴィッセル神戸に加入した韓国代表MFチョン・ウヨンもキャプテンを任された経験がある。

 彼は日本でプロキャリアをスタートさせ、京都サンガ、ジュビロ磐田を経て14年に神戸に加入。翌15年にはクラブ史上初となる外国人キャプテンを務めた。

 では、FC東京のチャンがなぜキャプテンを任されたのか――。その一端が垣間見える昔話をチャンが教えてくれた。

「実は子どものころから、なぜかチームでキャプテンを任されることが多かったです。小、中、高、大学時代はキャプテンを経験してきましたし、リオ五輪にオーバーエイジ枠で出場したときもそうでした。自分でもなぜ、選ばれてきたのかが分かるのですが、当時からサッカーに対しては本当に真面目だったんだと思います」

目標は「FC東京でリーグ優勝を果たすこと」と語るチャン・ヒョンス(筆者撮影)
目標は「FC東京でリーグ優勝を果たすこと」と語るチャン・ヒョンス(筆者撮影)

曲がったことは許せない性分

 真面目とはどういう部分を指しているのだろうか。

「高校サッカー部のときは、本当に僕は嫌われ者でしたよ(笑)。というのも、キャプテンとしてチームを率いるために、かなり厳しくしたからでしょうね。全国大会で優勝するためには、個人よりもチームを大事にしていましたから。例えば、部員の携帯電話をすべて没収して、月曜日から土曜日まで使えないようにしたり(笑)。理由はサッカーに集中できないからです。で、日曜日になったら返してあげていました。それに、練習中もダラダラしている選手がいたら、きつく走らせたり、同級生の部員に『俺は走らずに別メニューでいいから』と言うやつともバチバチとやりあったこともありますよ(笑)」

 ことサッカーに関してプラスにならないことや、曲がったことは許せない性分。それこそキャプテンを任されたからには、まっとうしようという責任感の強さが言葉からにじみ出ている。

「当時、まったく口をきいてくれなかった同級生や後輩が、何かあれば真っ先に電話をかけてきて、色々と相談に乗ってほしいと頼まれます。それにある後輩が『あのとき、しっかりキャプテンとして導いてくれたからしっかりサッカーすることができたし、今の自分がいる』と言ってくれたことがありました。それを聞くと、真面目にやってきたことは間違っていなかったんだと、報われた気持ちになりますよね」

 なるほど。FC東京でも十分にキャプテンを務められる資質が彼にはある。日本語はまだたどたどしくても、チームのことを第一に考える熱い気持ちが、徐々にチームに浸透していくのは時間の問題だろう。

「キャプテンという立場は難しい」

 それでもキャプテンは、何度任せられても慣れないものとチャンは言う。

「キャプテンという立場はとても難しいです。特にプレッシャーがもの凄い。チームが負けると自分の責任のような部分もありますし、選手がピッチの中で落ち込んでいれば、積極的に声をかけて励ましたり、気持ちを上げていく作業もしていかなければなりません。サポーターや監督、チームメイトの期待に応えるプレーでチームを盛り上げる作業は、そう簡単ではないということです」

 FC東京はここまでリーグ戦5試合を消化して、2勝2敗1分け、勝ち点7で9位と中位に位置している。上位争いへの重要な時期に差し掛かっている。

 チャンの経験とキャプテンシーが、FC東京の士気の高まりに貢献していくことをこれからも期待してやまない。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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