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「カムカムエヴリバディ」のタイトルバックがこれまでの朝ドラと違う理由。制作者が込めた思い

木俣冬フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人
「カムカムエヴリバディ」より 写真提供:NHK

“朝ドラ”こと連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』(NHK 月〜金 朝8時〜)がはじまって2週目。朝ドラ初の三世代ヒロイン(上白石萌音、深津絵里、川栄李奈)で1925年から100年間の歴史を描くスケールの大きな朝ドラ。第一部・岡山編は上白石萌音が演じる和菓子屋の娘・橘安子の恋物語からはじまった。知的で優しく紳士的な雉(きじ)真(ま)稔(松村北斗)と身分違いの恋に悩む安子。11月10日(水)放送の第8回では安子が恋に憂いながら電車に乗っている場面の後に安子の心もようを歌うように主題歌「アルデバラン」がかかった。

ドラマの途中で主題歌が流れることは朝ドラでもあることで、例えば『エール』(2020年前期)の第1話でタイトルバックが出たのは開始13分頃という遅さである。時には主題歌だけ流れて本編画面にテロップが出ることもある。『おかえりモネ』の最終週は二度三度その手法が採られた。だが『カムカムエヴリバディ』第8回ほど登場人物の感情と主題歌が重なる使い方はなかなかないのではないか。ほんとうに安子の心情が胸に迫った。

●岡山と大阪の距離を感じさせたかった

安達もじりチーフディレクターは第8話の演出意図をこのように語った。

「台本ではタイトルの入る位置は通常であるドラマの前半に指定されていました。僕も撮影中は指定位置に入れるつもりでいました。ところが編集しながら安子の気持ちをたどって行った時、タイトルで区切らずこのまま観たくなる感覚を覚えました。ちょうど大阪と岡山の距離感を感じさせたいとも思ったこともあって、安子が大阪を出たらタイトルバックが出るように編集してみたらとても流れが気持ちよくなったんです。朝ドラのフォーマット上、タイトルバックの位置がこれくらいでもいいか、確認してこの位置に決めました」

●朝ドラにおけるタイトルバックのフォーマットはあるのか

制作統括・堀之内礼二郎チーフプロデューサーに聞いてみるとーー

「何分までにタイトルバックを流さないといけないというような決まりは特にはないんです。開始から3分以内にはタイトルバックを出したほうがいいような空気がなんとなくありますが、厳密なものではありません」と言う。「ただし、主題歌の時間は、ロングバージョン90秒前後、ショートバージョン70秒前後という基準はあります。これも厳密ではないですが、主題歌の尺が1秒増えるだけでも本編に影響があるので、そこは大幅に超えないようにしています。毎回のことなので、15分の中の1秒は大きいんですよ」とのこと。このルールをふまえてアーティストは主題歌を作るそうだ。

●「アルデバラン」はどうやってできたか

 朝ドラ主題歌の平均的な制作スケジュールは、放送開始の1年くらい前にアーティストに依頼して、放送半年前がおおよその締め切り。そこからタイトルバックの映像を作っていく。今回は、20年の夏に楽曲の制作をAIに依頼し、21年の年明けくらいにデモ音源が来て、春には尺が決定。極めて順調に進行したという。ドラマのキーワードと共にテーマや物語に込めた思いを伝え、台本を何冊か渡した後は、アーティストの自由な発想に任せた。作詞作曲の森山直太朗はAIのチームの選択だった。出来上がった曲は、不穏な未来を前にしながらも「君と私は仲良くなれるかな」「笑って笑って愛しい人」「君と君の大切な人が幸せであるそのために」と聞いている人たちへ祈りを込めて呼びかけるものになっているように感じる。

●何作も朝ドラに関わってきた堀之内さんの考える朝ドラ主題歌

「これまで僕がプロデューサーとして関わった朝ドラでは『べっぴんさん』でMr.Childrenさんに、『まんぷく』ではDREAMS COME TRUEさんに主題歌をお願いしましたが、それぞれのドラマにこめた思いを表現した本当に素晴らしい歌を作って頂きましたが、どちらかというと聞いて楽しむ楽曲だったと思います。今回の『アルデバラン』は曲調が緩やかで歌詞もシンプルなので、多くの方に口ずさんでいただけるのではないかと思っています。聞いている方が自分のテーマソングのように感じられるものであるといいなと考えています。朝ドラは月〜金まで毎日、基本的には朝という一日のまりに見るものです。ドラマの内容も主題歌も触れることでいいエネルギーを得ていただけるものをお届けしようと心がけている。特に今回の『カムカム』は100年、3世代のファミリーストーリーですから、現代を生きる若い方たちが100年前に生きていた人の物語を観た時、それは自分の今と地続きであること、そして自分の命はとても貴重なものであるということを感じてほしいと思って本編も作っています。安子さんはあなたのおばあちゃんの物語でもあると思って観ていただけるように、手触りやニオイなどが実感できるような画面づくりを、チーム全員で工夫しています」

●タイトルバックに画期的なトライが行われていた。

「今回のタイトルバックでちょっと新しいかなと思っているところは、タイトルロゴが最後に出るところなんです。これまでの朝ドラはほとんどが曲のはじめにロゴが出ます。『カムカム』では最初に英語のロゴが出ますが、正式なロゴは最後に登場するんです。『カムカム』が始まる、という気分が高まったところで物語を見て頂けたら、と考えました」

堀之内さんに言われて、現在オンデマンドで見ることのできる作品を確認すると確かにすべてタイトルバックの冒頭にタイトルロゴが出てきた。『カムカム』ではこれまでずっと連続テレビ小説『○○○○○』と最初にガツンと打ち出してきた朝ドラではなかなかチャレンジングなことを行っている。一見、オーソドックスな朝ドラに見えて、さりげなく挑戦的なことをやっていると安達もじりさんも言う。そもそも半年間で100年もの時間と三世代の人物の人生を描くというこれまでにないことだ。「アルデバラン」も私たちに呼びかけて親しみを感じさせる歌詞ながらとても壮大な宇宙的な広がりも感じる。『カムカムエヴリバディ』の100年が私たちに何を見せてくれるのかゆっくり伴走していきたい。

連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』

毎週月曜~土曜 NHK総合 午前8時~(土曜は一週間の振り返り)

制作統括:堀之内礼二郎 櫻井賢

作:藤本有紀

プロデューサー:葛西勇也 橋本果奈 斎藤明日香

演出:安達もじり 橋爪紳一朗 深川貴志 松岡一史

音楽:金子隆博

主演:上白石萌音 深津絵里 川栄李奈

語り:城田優

主題歌:AI「アルデバラン」

フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人

角川書店(現KADOKAWA)で書籍編集、TBSドラマのウェブディレクター、映画や演劇のパンフレット編集などの経験を生かし、ドラマ、映画、演劇、アニメ、漫画など文化、芸術、娯楽に関する原稿、ノベライズなどを手がける。日本ペンクラブ会員。 著書『ネットと朝ドラ』『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』、ノベライズ『連続テレビ小説 なつぞら』『小説嵐電』『ちょっと思い出しただけ』『大河ドラマ どうする家康』ほか、『堤幸彦  堤っ』『庵野秀明のフタリシバイ』『蜷川幸雄 身体的物語論』の企画構成、『宮村優子 アスカライソジ」構成などがある

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