Yahoo!ニュース

主題歌、構成、題材に見る「おかえりモネ」の特殊性 制作統括に訊いた

木俣冬フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人
おかえりモネ 写真提供:NHK

朝ドラこと連続テレビ小説「おかえりモネ」(NHK 脚本:安達奈緒子)が最終回を迎えた。最後の週、第24週「あなたの思う未来へ」ではBUMP OF CHICKENによる主題歌「なないろ」が第116回、第119回、最終回と3回、番組の後半にタイトル映像なしでかかった。とりわけ最終回は歌詞と登場人物のこれまでの歩みを重ね合わせぐっと来た視聴者も多いのではないだろうか。

「なないろ」は朝ドラ史上、稀有な主題歌だった。それは歌詞に表れている。朝ドラで歌詞のある主題歌が使用されるようになった最初が 1984年度「ロマンス」で、以後、インストの時もあれば歌詞のある時もあって今に至っている。その中に「僕」が主体の歌詞もいくつもあるが、そこには必ず「君」や「あなた」も出てくる。筆者は「おかえりモネ」がはじまった時にそれについてコラムを書いたことがある。

「エール」などのように男性主人公もたまにあるが女性のドラマという認識の強いシリーズなので主題歌も女性を意識したものが多いのだろう。ところが「なないろ」はドラマで使用された部分の歌詞に「僕」しか出てこない(ただしドラマに使用されていない部分には「君」が入っている)。「僕」が必ずしも男性を表すわけではなく女性が使うこともあると考えても「なないろ」は朝ドラの主題歌の中では新しく感じた。東日本大震災から10年、東北を応援するドラマとしてスタートした「おかえりモネ」は、ヒロイン百音(清原果耶)と恋人・菅波(坂口健太郎)との関係が恋愛とは限らず同志的なものにも見えるという描き方も新鮮だった。また、震災のみならず2020年に起きたコロナ禍を思わせる描写もあり、様々な面で“現代”と向き合った意欲作といえるだろう。最終回に当たって制作統括の吉永証さんに書面にて取材を行った(回答ままを掲載します。質問は若干簡略化しました)

――吉永さんは「なないろ」の歌詞を読んだときどう思われましたか。

平易な言葉で書かれた歌詞ですが、言葉の選び方や組み合わせ方が、とても新鮮で、いろいろなイメージが膨らむ歌詞だと思いました。

――女性が「僕」を使ってもいいというこの時代だからこその取り組みだったのでしょうか。最初から意図したことでしたか。

バンプオブチキンの藤原さんが、お考えになったことです。こちら(NHK)から、何かお願いをしたことはありません。

――「僕」しか出てこない主題歌や、百音の衣裳なども性差が明確なものを選択していないように感じましたが、ジェンダーを意識されましたか。

強くジェンダーを意識してはいません。安達さんの台本を元に、俳優さんと役を作り上げる中で、自然にそのようになったと思います。

――とても印象的な楽曲でした。歌詞に脚本(ストーリー)が影響されるようなことはあったでしょうか。

直接影響を受けてはいないと思いますが、私たちスタッフも脚本の安達さんも、このドラマの描きたい世界にすごく合っていると感じています。

――主題歌を作るとき、アーティストの方に、吉永さんはどれくらい要望を伝えますか。また台本は何話分くらい渡しますか。

ドラマが描く世界観、今回で言えば天気や気象といった自然と向き合うヒロインであることや、モネはどういう人間であるか、どんなことを考えているか、どんな方向に進もうとしているかということをお伝えしました。イメージする曲のテンポ感や雰囲気などもお伝えしました。台本は4週分くらいお渡しました。

――毎朝、「なないろ」を聞く半年間、視聴者の方にこの曲がどのように響いてほしいと思っていましたか。

繰り返し聞くことで、より心に響いてくる曲だと思います。毎朝、聞いてもらって、前向きな気持ちになってくれたらいいと思いました。

以下は主題歌と関係なく最終回に当たっての質問です。

――東日本大震災についてのドラマに取り組んでいたところにコロナ禍が起こったとき、吉永さんは何を感じましたか。そしてこんな時、どんなドラマを作るべきだと考えましたか。

震災は人の力が及ばないものですし、コロナもまた震災と同じように、たやすく解決できるものではありません。モネが、どうなるかわからない明日を知りたいと懸命に考えていたように、私たちもコロナ禍でどう前に進めばよいかを、何かしらドラマの中に込めて描けないかと思いました。

――震災のときの祖母・雅代(竹下景子)と未知(蒔田彩珠)のこと、美波(坂井真紀)の死亡届などについて触れない時間が長くとられています。また田中さん(塚本晋也)の結末も出てきません。このことには何か意図がありますか。

抱えている痛みは、それに向かい合い、受け止める時間が、人それぞれに必要だと思います。ドラマの中では、考えたり迷ったりする時間は意味があると描き、結論を急ごうとしていません。そうしたことが、影響しているのかもしれません。

――半年間、見てきた視聴者へメッセージをお願いします。ラストシーンに込めた思いなども教えてください

半年間、見ていただけたことに大変感謝しています。これまでと変わらず、誠実に前向きに生きるモネや人々の姿を見ていただけたらと思います。希望が持てるラストになっているので、最後まで、よろしくお願いします。

撮影時にコロナ禍が起こるなど多難だった「おかえりモネ」。とはいえ想像し得なかった出来事を経たことで、「私たちに距離や時間は関係ない」という最終回の百音が菅波にかけるセリフも生まれたのではないだろうか。この概念や、主題歌を含め、これまでの朝ドラのセオリー的なところすら超えていくような、新たな時代の物語に挑んだ忘れられないドラマになったと思う。

おかえりモネ  写真提供:NHK
おかえりモネ  写真提供:NHK

フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人

角川書店(現KADOKAWA)で書籍編集、TBSドラマのウェブディレクター、映画や演劇のパンフレット編集などの経験を生かし、ドラマ、映画、演劇、アニメ、漫画など文化、芸術、娯楽に関する原稿、ノベライズなどを手がける。日本ペンクラブ会員。 著書『ネットと朝ドラ』『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』、ノベライズ『連続テレビ小説 なつぞら』『小説嵐電』『ちょっと思い出しただけ』『大河ドラマ どうする家康』ほか、『堤幸彦  堤っ』『庵野秀明のフタリシバイ』『蜷川幸雄 身体的物語論』の企画構成、『宮村優子 アスカライソジ」構成などがある

木俣冬の最近の記事