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NHKの新人演出家がドラマを映画にした理由 「ワンダーウォール 劇場版」

木俣冬フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人
ワンダーウォール 劇場版 (c)2018 NHK

「ワンダーウォール劇場版」は2018年、京都発地域ドラマとして放送され、朝ドラ「カーネーション」などを手掛ける渡辺あやの脚本をはじめとしてそのクオリティーの高さが話題になり、劇場版として公開されることになった作品である。ドラマ放送時の渡辺あやと主演俳優・須藤蓮の対談はコチラ古い歴史を持つ京都の学生寮が老朽化を理由に取り壊される話が持ち上がる。馴染んだ寮を守ろうと立ち上がる寮生たち。両者の間には透明な、でも堅牢な壁が立ちふさがる。甘酸っぱい青春の味がする恋と革命の物語。ドラマ版からすでに映画のような味わいがあったが、劇場版は劇場で見るにふさわしい京都の学生寮とそこに生きる人々の息遣いが伝わってくるものになった。監督は二十代の若手・前田悠希。NHKに入局以来初演出作だったドラマが劇場版になった喜びとそれまでの道のりを聞いた。……と映画公開にあたりインタビューを掲載する予定であったが、4月7日、コロナウイルス感染防止の緊急事態宣言が出されたことで、公開予定だった劇場が一部休業に。公開前に予定されていたイベントも中止している(一部、無観客トークショーを行い配信された)。10日、予定通り公開するのは京都出町座。田中支配人にこの映画の魅力と、映画館が休業せざるを得ない危機的状況について聞いた。そちらも合わせてお読みいただきたい。

 散らかってるが住みやすい近衛寮(C)2018NHK
 散らかってるが住みやすい近衛寮(C)2018NHK

NHKの新鋭、テレビドラマを映画化する

ーー「ワンダーウォール」を作るきっかけはなんだったのでしょうか。

前田:NHKに「地域発ドラマ」という企画枠がありまして、京都局で何かできないかと寺岡環プロデューサーと話したとき、学生をテーマにしよう、それには学生寮を舞台にしたら面白そうだと盛り上がり、実際の学生寮の取材をさせていただきました。渡辺あやさんに脚本を頼んだのは、書いてもらえたら嬉しいなあという憧れに近い気持ちで、ダメ元でお願いしたら、これまでずっと渡辺さんが問題意識を持っていた部分と、古い学生寮に息づいていることがリンクしたようで、ご興味を持っていただけて。そこから本格的に制作がはじまりました。

ーー学生寮の方々に取材して印象に残ったことはありますか。

前田:それまで僕はドキュメンタリーを制作していて、ドラマの演出は「ワンダーウォール」がはじめてでしたが、どんなジャンルでも取材に行く際、当然、NHKの人間として行きますし、相手も「NHKさんが来た」みたいな反応なんです。誰であっても「NHK」でひとくくりにされるというか……。ところが、取材させてもらった寮の方々が、「この寮のことをどう思うか、前田さん個人の意見を聞かせてください」と、NHKとしてではなく、前田悠希個人の考えに向き合おうとしてくるんです。彼らにとって、所属や年齢、立場や肩書は関係なく、あくまで個人なんですね。それがすごく新鮮で印象深かったですね。

ーー社会人になるとどうしても組織に帰属しますし、学生のときですら学年や学部などの所属で判断されがちですが、「ワンダーウォール」で描かれた近衛寮は誰もが平等です。そういう世界は、作品を作って2年経過したいまも、前田さんに影響を及ぼしていますか。

前田:すごく影響を及ぼしていると思います。実は、この企画を立ち上げた時、僕自身、この社会で生きづらさを感じていたといころがありますが、「ワンダーウォール」を作ってからは、少し呼吸がしやすくなったように感じています。名古屋局に異動になったいまでも、ふと京都にいた時の時間を思い出して、心が軽くなるんです。ドラマを制作したときもそうですし、映画化に動き出したときも、寺岡プロデューサー、渡辺あやさん、主演の須藤蓮さんたちと、各々が個人として何を思うか、どうしたいか、たくさん話し合って、ここまでたどり着けた。こうして初監督作について取材を受けることも、皆さんのおかげですし。こういう出会いがあってほんとに良かったと思っています。

ーーテレビドラマ用に作られた作品を劇場版に作り変えるに当たって違う部分はありますか。

前田:劇場版用に新たに撮り下ろした以外は、大筋はほとんど変わっていません。ほんとに細かい部分に手を入れたり、1カットをちょっと延ばしたぐらいです。例えば、冒頭、キューピー(須藤蓮)がバスに乗って寮に向かうシーンも少し長いです。そのほか、カットされていたセリフを復活させています。ドラマ版は59分という決められた枠のなかで作っていて、それによってそぎ落とされた部分が少し伸びることで新たな空気感が生まれるといいなと思っています。

ーー劇場版のサンプルDVD を借りて、ドラマのオンデマンド配信と同時に流して見比べたので冒頭を少し伸ばしていることに気づきました(笑)。伸びた箇所もあれば、微妙につまんであるカットもあったような……。あと、寮のある場面でピアノの演奏音がなくなっていますよね

前田:めちゃめちゃマニアな見方していますね(笑)。ピアノは、画を伸ばした分、音のテンポが合わなくなったというのもありますし、寮の環境音だけ残すことで、独特の空気感みたいなのが出せたと思っています。

ーー劇場で見た時、その空気感が伝わる気がします。「ワンダーウォール」を撮影するとき、どういうところに注意して撮りましたか。

前田:ドキュメンタリーふうに撮ることです。寺岡プロデューサーも僕も、カメラマンも、ドキュメンタリー畑の者が多かったので、あえてその強みを生かして、現実感を強くしたものを作っていこうというビジョンを最初に共有しました。ちょっとドラマっぽくーー例えばカットをたくさん割って編集でテンポよくつないでいくみたいな撮り方をすると、絵空事に見えてしまうような気がして。というのは、寮が抱えている問題を描くに当たって、これは物語のなかだけでなく、現実にも起こり得る問題だと思ったので、見ている人に実感してほしかったんです。

ーーフィクションにもかかわらず生々しさを感じました。

前田:とはいえ、セリフはほとんど渡辺さんが書いたものなので、アドリブはほぼないんですけどね。

撮影中の前田監督(手前) 写真提供:本人
撮影中の前田監督(手前) 写真提供:本人

ベテラン美術スタッフをうならせたとある学生寮

ーー俳優の皆さんが、自然に演じるのが巧みですよね。

前田:ほんとに素晴らしいキャストだったと思います。演技も、事前にみんなで話し合うとき、それぞれ演技プランを持ち寄ってくれたので、もう自由にやってくださいと任せて、それをカメラが撮っていく感じになったことがうれしかったです。須藤くんはこれがデビュー作に近くて、それまで演技経験がほとんどなかったというのもあったので、よく話しました。彼が演じるキューピーはマサラ、志村、三船みたいに強烈なキャラクターがあるわけではなく、ある意味一番中立な立場であるし、自分から何かを発言するというよりは、どっちかっていうと受けることが多いので、どんな感じでそこにいればいいんですかねみたいな話をしました。最初は、変に作り込まず、須藤くんとしていればいいんじゃないですかね?みたいな話をしましたが、やっていくうちに、須藤くんの中でだんだん、須藤蓮という人格とキューピーがうまいことブレンドされていった。後半、みんなが集まって寮でしゃべるシーンは、これこそが須藤くんのキューピーだと感じました。

ーーどの場面もほぼワンタメで長回しで撮ったってことですよね。

前田:基本、1カメで、場合によっては2カメを出しています。かなり長いシーンは途中で切りますが、大体はカットを割らずに1シーンを、ドキュメンタリーのカメラマンが好きなように撮って、その映像を見て、もうちょっと欲しいところを改めて撮るというやり方をしました。

ーー主舞台となった寮はロケセットなんですか。

前田:実在の学生寮を取材させてもらい、滋賀県にある建物をお借りして、かなりそっくりな内装を再現しました。美術スタッフがほんとうにがんばってくれて、寮生役でエキストラ出演してくださった方々が「ここに住めるわ」と言うくらいの生活空間ができました。美術のチーフは山内浩幹さんという朝ドラなども手掛けるベテランの方で、取材した学生寮を見て、美術心がくすぐられるとめちゃめちゃ喜んでいました。建物の経年している部分などをリアルに再現することを「汚し」と言うそうですが「これはもう、汚し屋からしたら、こんないい所はないな」みたいな、めちゃめちゃ子どもみたいに興奮して、あちこちくまなく見学していました。それがロケセットに生かされています。

――夜の闇のなかにぼうっと明かりが灯った玄関が印象的です。

前田:渡辺さんの脚本に、「(寮を)一目見て恋に落ちた」とあるので、通りに並木があって、その奥に吸い込まれるように光がある、あの感じをとにかくしっかり撮ろうと思って、とにかく知恵を絞りました。

――猫が通るのは偶然ですか。

前田:ご想像にお任せします(笑)。

 大学に勤務する美しい女性 (C)2018NHK
 大学に勤務する美しい女性 (C)2018NHK

渡辺あやさんが「楽しいことは波及しやすい」と言った

――劇場版で撮り下ろした場所は、京都の古い酒造だそうですが、そこを選んだ理由は。

前田:京都の古い学生寮とどこか呼応するような場所を使いたかったので、やっぱり京都のどこかがいいなと思い探したところ、劇場版のプロデューサーの上野遼平さんが京都の方で、お知り合いに頼んで使わせて頂けました。

――わざわざ撮り下ろしたシーンで伝えたかったことはなんでしょうか。

前田:ドラマをつくったときは、「ワンダーウォール」に流れている感覚が見る人に伝わっるか不安がありました。ところが、放送されたとき、多くの皆さまから「共感しました」「良かったです」などという反響をいただき、そのとき感じた、物語の世界から想いが広く波及していくような感覚を撮り下ろし場面で再現したかったんです。だからエキストラを募集して、たくさんの方に参加していただきました。僕自身は、撮り下ろしの場面を“壁が取っ払われた世界”と想定しています。老若男女問わず、全ての人が音楽というものでつながって楽しんでいる世界です。渡辺さんが「楽しいという感覚は波及しやすい」とよくおっしゃっていて、まさにそういう雰囲気になりました。作品で描いていることは、シリアスな問題で、当初は、この問題を何とか伝えねばと、拳を振り上げるような感じも多少あったことは否めないのですが、作品を作っていく過程で、何かをやり玉に挙げて、敵をつくるのではなくて、味方を増やしてったほうがいいことに気づきました。味方を増やすにはどうしたらいいかというと、ネガティブな感情ではなくて、ポジティブな感情でつながるということに行き着いたんです。「楽しいという感覚」が劇場版ではより強くなっていると思っています。

ーードラマから2年経過し、日本にはますます様々な困難が降りかかっていて。映画の問題とは同じではないですが、想いの伝わらない「壁」を感じる毎日。そういうときってやっぱり楽しいことが欲しいし、お芝居見たいし、歌いたい、踊りたいみたいな気持ちになります。それができない状態なので余計なのですが。そういう時に映画を見たら涙が出てしまって。多分これ、すごく響くな、今って気がしたんです。

前田:うれしいな。そうですね。そうなってくれるといい。確かに、ほんとはこういう状況だからこそ、肯定されない部分を肯定することで、ちょっとでも気が楽になればいいですよね。

テレビドラマと映画に違いはあるか

――前田さんは学生時代から映画を撮っていたそうですね

前田:早稲田大学の映像サークルみたいな所で自主映画を撮っていました。元々映画がすごく好きで、子どもの時から。映像に携わりたいという気持ちはすごくありました。

ーーよく「これはテレビドラマらしくない」とか「これは映画じゃない」などと言いますが、その違いをどう思いますか。

前田:例えば、2カ月で2時間の映画を1本撮ることと、2カ月で10話分、1話60分のドラマを撮ることでは、制作体制が違います。それによって自ずと作風に違いが出るように思いますが、いまは、演出の仕方や脚本の書き方など、映画とテレビドラマに線引きをする必要もだんだんなくなってきたような気もしています。配信作品というジャンルもできましたし。テレビ局でテレビ番組を作っている側からすると、勝手に映画と線引きしているところがあるとしたら、これからはすべての垣根が曖昧になっていくといいんだろうなと思います。

 大学と学生の間に”壁”ができた(C)2018NHK
 大学と学生の間に”壁”ができた(C)2018NHK

日本の大人たちをどう思うか

ーー 20代の前田さんとしては、日本の大人たちに対してどう思っていますか。

前田:う〜ん……難しいですね。僕は大人たちに対して怒りは感じないんですよ。話せば、世代間の開きは縮まっていくような気がしていて。ただ、思うのは、やっぱり、以前から決まっていることだからと言われるようなことに疑問を感じることや、その疑問をどう共有していいかわからないというもどかしさはあります。

ーーそういう時、どうやって乗り越えるんですか。

前田:例えば、渡辺さんや須藤くんの言動を見ていると、すごくちゃんと自分の意見を言うんですよ。それこそ、年齢や肩書に関係なく。でも僕はまだそのレベルには達していなくて、わかってもらえそうな人にだけ話しちゃうんですよね。僕自身がそれこそ“壁”をつくらないようにしたいのですが……。

ーー渡辺あやさんはフワッとした雰囲気だけど結構気骨のある人という印象ですよね。

前田:そうなんです。僕もそういう人間になりたいです。

ーー NHKにはそういう尊敬できる先輩はいますか。

前田:寺岡さんですね。寺岡プロデューサーに出会えたことがほんとに良かったです。

もうひとつの「ワンダーウォール」がある?

――渡辺あやさんが構成して、須藤さんが出演した京都のドキュメンタリーも前田さんが演出されたのですよね。

前田:「センス・オブ・ワンダー」ですね(2019年に、京都ローカルで放送。その後、総合で深夜に放送された)。「ワンダーウォール」の姉妹編みたいな作品です。

――同時上映しないんですか。

前田:……したいんですけど、それこそいろいろな“壁”がありまして。権利の壁という(笑)。「ワンダーウォール」はオリジナル劇伴ですが、「センス・オブ・ワンダー」は既成の曲を使っているなどあって、商業的に上映するのは難しいんです。

――せめて映画に合わせてまた、NHK総合で放送してほしいです。

前田:寺岡さんが頑張ってくれないかなあ、なんて思っています(笑)。

京都に暮らして京都の映画を撮れてよかった

ーー京都に4年間暮らして、京都の良かったところはどこですか。

前田:ほんとにいい街ですね。京都は。まず、たいてい、歩いて行けるところがいいですね。この前、プライベートで京都に行ったときは、祇園辺りから京都駅まで歩いたら、なんか歩けちゃうんですよね。何で歩けちゃうのかなって考えた時に、近さもありますが、行く道が、常に一様な風景じゃなくて、変化があるんですよ。川があって、神社があって、自然もあれば、街もあってみたいな、常に変わっていくから、全く飽きずに歩けちゃう。これって結構すごいことだなと思うんです。もうひとつは、鴨川の力も大きいです。あんなに人が集まっているにもかかわらず、あんなにきれいな川ってないんじゃないかと思うんですよ。ああいう場所に人が集まって、ピクニックをやったり、ただ佇んだり、それが日常としてあるみたいな経験が、京都に来るまで僕にはなかったので、すごくすてきだなといつも思っています。

ーー京都を舞台にした作品を作ったことをどう思いますか。

前田:京都の放送局に身を置いて、地域ならではのテーマを取材してきた僕の4年間の集大成のように、長い歴史と新しい時代が隣り合わせている京都ならではの作品を撮ることができました。ドラマからはじまったものが映画にもなって、様々な皆さまに見ていただける形になったことがありがたいです。

ーー最後に、今後の前田さんの目標を教えてください。

前田:日本社会の成り立ちに興味があります。蓮くんをはじめとして、生きづらいと若者が思っているとして、その生きづらさはどういう経緯で生まれたか、そういうことを「フィクション」に置き換えてこれからも描けたらいいなと思っています。

前田監督 写真提供:本人
前田監督 写真提供:本人

Yuki Maeda

1993年、東京都生まれ。2015年、早稲田大学卒業後、NHKに入局。京都局でドキュメンタリー制作に携わり、「ワンダーウォール」でドラマ初演出する。「ワンダーウォール劇場版」が初監督作。現在、名古屋局勤務。

=追記:京都の劇場から〜「ワンダーウォール」が劇場で観るべき映画である理由=

4月10日(金)から「ワンダーウォール劇場版」を上映する京都・出町座。

支配人の田中誠一さんは映画を見てこのように思ったと言う。

「渡辺あやさんの脚本の力と美術の作り込み、俳優の世界への没入の仕方などによって、短い時間のなかで京都のとある学生寮で生活する学生たちのリアリティーが鮮やかに描かれています。とりわけ、学生時代から京都で過ごしている僕としては、スクリーンに映った学生たちを我がことのように感じました。興味深かったのは、登場人物たちにとっての理想である、古い学生寮がなくなってほしくないという思いをこの作品のスタッフ、キャストも強く感じていることを映画を通してものすごく感じられたことです。たとえば、この作品をインディペンデントで制作したら、描かれている“壁”の存在がもっと薄く感じられていたかもしれません。本作はNHKで放送されるドラマとして製作されていますから、公共放送の場合、あらゆる方向に配慮が必要になってきて、そこにはそれこそ映画で描かれた“壁”がたくさんあるはずで、それを感じながらどこまで自分たちの理想を貫けるか綱渡りで作ったことに意味があるような気がします」

田中さんは「ワンダーウォール」がテレビドラマを超えて映画になったことには必然があるとも言う。

「描かれている大学寮は、プライベートな場とパブリックな場と両方を兼ねた、“他者と共存”する独特な場所で、映画館もそれに近いと思うんです。テレビ放送は、個人とテレビとの双方向性でしかないけれど、映画館で作品を観るということは“開かれた”ことであって、これは『ワンダーウォール』のテーマと親和性があると感じます。おそらく、NHKで放送したほうがたくさんの人が視るであろうにもかかわらず、映画化して劇場で見てもらうことによってテーマは一層引き立つ。スタッフ、キャストがこの作品を映画にしたかった気持ちがわかるような気がしました」

 劇場で他者に囲まれて観ることで作品をより深く体感できる。公開日を前に行われた先行上映には、映画を身近に感じる学生だけでなく、幅広い市民の方々が興味をもって駆けつけたと言う。上映後のトークイベントでは「この学生寮のモデルは◯◯寮ではないですか?」という質問も出たそうで、それだけ京都で生活している人たちにはリアリティーをもって響くようだ。だからこそ、ぜひ劇場へーーと胸を張って言いたいが、現状、日本はコロナウイルス感染防止のための緊急事態宣言が出ていて映画館も休業しているところが多い。京都の映画館が営業を存続している(4月10日0時現在)が、「刻々と状況が変わるのでわからない」と田中さん。

「開けた場合、『なぜ開けるのか』という意見もありますから、明確に語る理念がないといけないと思っていますが、生命に関わることでもあるため、思いは日々揺れ動いています」と心配を語る。

 世界が経済的に疲弊することで、映画館に限ったことではなく、“文化”がなくてもいいものになってしまうことを危惧する田中さん。なくてもいいものなんてないはずなのだ。「ワンダーウォール」はまさにそれを描いている。

ただただ祈るしかない。誰もが等しく映画を劇場で楽しむことができる日を。

なお「ワンダーウォール 劇場版」の配給SPOTTED PRODUCTIONSは、映画館の休業による公開延期の地域に関して、予定していた劇場は、連絡を取りながらなるべく上映を続け、その他、新たな上映形態を模索しているとのことである。

 エキストラも参加した演奏場面 (C)2018NHK
 エキストラも参加した演奏場面 (C)2018NHK

ワンダーウォール 劇場版

(c)2018 NHK

配給:SPOTTED PRODUCTIONS

4月10日より公開

キャスト:須藤蓮 岡山天音 三村和敬 中崎敏 若葉竜也 山村紅葉 二口大学/成海璃子

監督:前田悠希 

脚本:渡辺あや 

音楽:岩崎太整 

制作統括:寺岡 環

撮影:松宮 拓 

照明:宮西孝明 

録音:中村真吾 

衣装:松本和子 

ヘアメイク:福岡由美 

編集:大庭弘之

サウンドデザイン:畑奈穂子 

キャラクターデザイン:澤田石和寛 

スチール:澤寛 

宣伝美術:trout

劇場版プロデューサー:上野遼平 

製作・著作:NHK 

企画:2020「ワンダーウォール」上映実行委員会

配給・宣伝:SPOTTED PRODUCTIONS 

宣伝協力:MAP  

2018/日本/アメリカンビスタ/5.1ch/68min

オフィシャルサイト 

フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人

角川書店(現KADOKAWA)で書籍編集、TBSドラマのウェブディレクター、映画や演劇のパンフレット編集などの経験を生かし、ドラマ、映画、演劇、アニメ、漫画など文化、芸術、娯楽に関する原稿、ノベライズなどを手がける。日本ペンクラブ会員。 著書『ネットと朝ドラ』『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』、ノベライズ『連続テレビ小説 なつぞら』『小説嵐電』『ちょっと思い出しただけ』『大河ドラマ どうする家康』ほか、『堤幸彦  堤っ』『庵野秀明のフタリシバイ』『蜷川幸雄 身体的物語論』の企画構成、『宮村優子 アスカライソジ」構成などがある

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