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朝ドラ「スカーレット」に出演&脚本の快挙。三谷昌登に聞いた朝ドラ裏話

木俣冬フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人
連続テレビ小説「スカーレット」より  写真提供:NHK

〈朝ドラ〉に出演した俳優が〈朝ドラ〉の脚本を書くことはこれまでなかったのではないだろうか。かつて、 第3作・連続テレビ小説「あかつき」の原作者・武者小路実篤がカメオ出演したことはあったが。第93作・連続テレビ小説「あさが来た」のスピンオフドラマの脚本を書き、「スカーレット」に主人公・喜美子(戸田恵梨香)の絵付け火鉢の師匠・フカ先生(イッセー尾形)の2番弟子・磯貝忠彦として出演した三谷昌登が、本編の途中ではさみこまれた特別編「スペシャル・サニーデイ」(第21週)の脚本を書いた。これはかつてない快挙と言っていい。三谷昌登とはどういう人物なのか。脚本執筆や出演時の裏話。そして彼が書いたものではないが台本を事前に読んだという最終回はどうなるのか? ネタバレなしで感想を聞いてみました。

「スカーレット」第21週より 写真提供:NHK
「スカーレット」第21週より 写真提供:NHK

スピンオフではなく本編脚本に大抜擢

ーー特別編を書き始めた時期はいつ頃ですか。

三谷  2019年の11月ぐらいだったでしょうか。僕の誕生日が11月10日で、その頃、内田ゆきチーフプロデューサーからお話を頂戴して、「誰も祝ってくれへん誕生日やけどいいやんか」みたいな気がしたことを覚えています。その頃はまだ打診程度ではありましたけれど。

ーー通常のスピンオフとは違って、番外編的な話を本編に組み込む形ははじめてだと思いますが、どう思いましたか。

三谷  大丈夫かなと思いましたよ、最初(笑)。そりゃあそう思いますよね。一方で、今までのスピンオフだと最初はBSプレミアムでしか見ることができませんが、今回はたくさんの方がご覧になる本編の時間帯。頑張ったらチャンスちゃう? とも思いました。なによりも、〈朝ドラ〉のタイトルバックに自分の名前が最初に出ることは親孝行ですし。実際、おかんは本編見てくれていたので、そういう意味では幸せでした。

ーー大丈夫かなと思ったプレッシャーはどれくらい?

三谷  僕は自分が出ている回だけでなく、全部の回を見て、水橋文美江先生の書く登場人物の掛け合いはとても巧妙で、とにかく水橋タッチのキャラの完成度が高いから、三谷タッチで大丈夫かしらというプレッシャーは感じました。水橋さんの独特の世界観に寄せるとまでは言わないですけど、キャラをリスペクトして書きました。それに、同じ台本を読んでも演じる役者の個性によって違いが出るもので、「スカーレット」に限らず、キャラは役者がつくる部分もあります。だから脚本が違っても役者が同じであれば、キャラの世界観は守られるのではないかと、そこを信じて取り組みました。

――内容はどのように考えましたか。

三谷  年末に前半の総集編が放送され、そこでは大野ファミリーのシーンが少なかったので、第21週では信作(林遣都)と百合子(福田麻由子)、照子(大島優子)と敏春(本田大輔)を描きたいと思いました。あとは内田チーフプロデューサーとチーフディレクターの中島由貴さんと、第21週の演出を担当された野田雄介さんという信頼するスタッフに支えてもらいました。

「林遣都さんが、よくそこ拾ってくれたなって」

――ご自分が出てない回も全部ご覧になっていたのですね。全体をよくわかってらっしゃる方が書いている感じがしました。

三谷  ただ、〈朝ドラ〉って、見る方によって好きな部分が違いますよね。いろんな趣味の方がいて、同じ話を見ていても、各々が違うところに反応している。「あさが来た」のスピンオフドラマを書いたときも、僕が見せ場と思っていたところと違うところに反応している方も多く、そこ拾うんや? と意外に思ったことがありました。今回は、僕が好きなところを林さんがちゃんと演じてくださったので、テレビの前で拍手しました。よくそこ拾ってくれたなって。

ーー三谷さんが見たい林遣都さんはどこだったんですか。

三谷  例えば、敏春さんがおっちょこちょいなことを言って照子がめっちゃ怒って「カレーひとつお願いします」と頼むとき、信作が「カレーをどうすんねん」って言う(2月26日放送・123回)のは、僕の中の信作が言ったんですよ。僕は役者もやっているので、なんとなく役者書き(役者に当てて書く)で、それぞれのセリフを想像して一人でブツブツ言いながら書いているんです。たぶん信作ならそう言うなと思ったんです。「カレーをどうすんねん」って、食べるに決まっているじゃないですか(笑)。せやけど、たぶん、信作は、照子なら鍋ごと敏春にかける可能性をはじめとして、いろんなことを最悪の展開まで想像して、その場合、自分が止めるべきかと思って、「どうすんねん」と言ってしまう感じが僕の信作でした。実際、そのセリフで、林遣都さんがうまいこと言ってくれて嬉しかったんですよ。

ーーワンシチュエーションもので1週間分書くという縛りのなかで、いろんな懐かしの話題なども入れつつ、なおかつちゃんと1本のお話として面白くオチが付いていてよかったです。さらに、〈朝ドラ〉らしい「女性の生き方」みたいなことまで入っていたので、すごいと思いました。

三谷  うれしいです。じゃあ僕もお返しに言いますけど(笑)、木俣さんがレビューでテープレコーダーの再生と夫婦の再生みたいなことを考察していたでしょう。僕はテープレコーダーはシーンを運ぶ道具として使おうと思っただけで、そこまでは考えてなくて。だから、それ、僕が考えたことにしてください(笑)。

ーー私の深読みだったんですね(笑)。……1週間分書く期間はどれくらいですか。

三谷  1日、1話(15分)ちゃいます? だから1週間分書くには6日。調子良ければ5日ぐらいになりますけれど。もちろんそれは初稿をプロデューサーたちが読んで、ここはこうしたら? という意見を出してもらって直していきます。でも第21週は、回想以外、カフェ・サニーのワンシーンだったので書きやすかったです。僕は元々、ワンシチュエーションの舞台をやってきたので、演出の野田さんはそれを知ってくれているから「いけるやろ? 」と任せてくれました。野田さんは大河ドラマ「西郷どん」でもご一緒していましたし、かなり昔から大阪のNHKで仕事を一緒にしているんです。

――ワンシチュエーションのスピンオフドラマを書かせたら、三谷昌登さんにお任せって感じですね。

三谷  もっと言ってください(笑)。

ーー「スカーレット」のスピンオフはもうないのでしょうか。それを三谷さんに聞くのも変ですが(笑)。

三谷  どうでしょうね(笑)。スピンオフするんやったら、夙川アトムさんと僕が演じた1番2番の「弥次喜多」みたいな珍道中記がいいなあ、みたいなことを言って拡散してほしいです(笑)

  「スカーレット」より  写真提供:NHK
「スカーレット」より  写真提供:NHK

戸田恵梨香さんは心から芝居を楽しんでいた

ーー1番さん、2番さんは前半、主人公・喜美子(戸田恵梨香)が信楽でフカ先生(イッセー尾形)に弟子入りしたときの兄弟子です。彼らの活躍ももっと見たいですよね。

三谷  見たいですよね。

ーー出てきます? これから最終回までに。

三谷  出てきません(笑)。でも、水橋先生は僕らの後日談を考えてくれはったんですよ、実は。1番さんは京都の陶芸教室が繁盛してて、2番さんは結婚してなくて、お見合いばっかりしているそうですよ(笑)。

ーー2番さんを演じる俳優としての三谷さんもいい感じでした。

三谷  笑っているだけなんですけどね。

ーーあえてにこにこしていようと考えたんですか。

三谷  そうです。僕の登場シーンを演出した小谷高義さんとそう考えました。彼は第94作・連続テレビ小説「とと姉ちゃん」では助監督でしたが、そんな古くからのつきあいもあって、ざっくばらんに芝居の相談ができました。フカ先生、喜美子、1番さんと個性の強いキャラのなかでどうしようかと話し合って、とにかく喜美ちゃんがあったかい人たちに出会えたなという幸せな感じにしたいとなって。じゃあ、にこにこしてるから、やり過ぎたら言ってと小谷さんに頼みました。とにかくやり過ぎるほどにこにこするから、それを止めてくれって(笑)。4人のシーンはとても楽しかったです。戸田恵梨香さんはどんなセリフも投げたら受け止めるし、いけると思ったら放り込んできてくれるし、すごかったです。それに、あんな細い体でタイトなスケジュール頑張って、僕らにまで気遣って笑ってくれるし。心から芝居を楽しんでやる女優やなと思います。イッセーさんも夙川さんも巧いし、すごい空間でしたよね。とくに、カット尻で必ずフカ先生(イッセー)が遊ぶので、それに乗って芝居することがとても楽しかったです。

「スカーレット」より 写真提供:NHK
「スカーレット」より 写真提供:NHK

「何のために脚本を書いてるの?」と聞かれて

ーー三谷さんは大阪ではなくて京都のご出身ですか。

三谷  京都です。祇園の花街の家に生まれました。だから女子に生まれていれば、きっと芸妓さんか舞妓さんだったと思います。

ーー演劇はいつからはじめたんですか。

三谷  芝居を始めたのは18歳で、劇団つくったのは、20歳か21歳くらいです。小学校の頃はプロ野球選手、中学校でお笑い。その後、プロレスラーになりたくなって格闘技を始めました。でも格闘技も挫折して、僕はいったい何をやりたいんやろうと考えたときに、歴史が好きやなと思って、でも歴史を研究するのはちゃうし、歴史上の人物になりたい。それには時代劇や!と思いついて太秦の東映の俳優養成所に入りました。そこで大部屋俳優を2年ぐらいやって、辞める時に劇団をつくりました。

ーー太秦の養成所出身だから、時代劇もお手の物なんですね。

三谷  いやいやいやいや。僕程度で殺陣できますなんて言ったら、剣会(つるぎかい)の人たちに「なめんな、おまえ」って絶対叱られますよ(笑)。

ーー太秦の映画村で時代劇のショーをよくやっていますが、ああいうものをやっていらしたんですか。

三谷  養成所で1年目の半年目から映画村でアルバイトができるんですよ。そのアルバイトは扮装バイトといって、武士や忍者に扮装してお客さんの案内をしたり、写真撮ったり。その扮装バイトを頑張ると、ショー部門に昇格できるんです。でも僕は扮装バイトをしているときに、養成所でお芝居の先生だった「水戸黄門」などを撮ってはる矢田清巳監督が、里見浩太朗さんと愛川欽也さんの刑事ドラマのレギュラー仕事をくれはって、そこから仕事が増えていったので、養成所の基本的な段階を踏んでないんです。

ーーいい方との出会いに導かれているようですね。

三谷  僕がNHKに初めて出たドラマは田渕久美子先生が脚本を書かれ、浅野温子さんと吉田栄作さんが主演した考古学のドラマ『ダイヤモンドの恋』で、それは田渕先生が僕の芝居を見に来てくれはったことがきっかけでした。そのとき「何のために脚本を書いてるの?」と聞かれたんです。劇団をはじめたとき、言い出しっぺのおまえが書けよと劇団員に言われたからなのですが、いまは「お客さんが笑って楽しんでくれることだけを願って書いてます」と答えたら「それでいいのよ」と。

ーー本来は俳優としてやっていかれたいのですか。

三谷  よく聞かれますが、やっぱり欲を言えば、どっちももちろんやりたいです。人間ってわがままなので、書けへんな、筆止まるなというときは、役者のほうが楽しいと思うし、脚本を書いて、オンエア見て、役者さんがしびれるような芝居してくれたら書く喜びを感じますし。どっちもやめられないですよね。

ーー「西郷どん」や「スカーレット」でやられている脚本協力とはどういうお仕事ですか。

三谷 「スカーレット」の22週は、水橋先生の打ち合わせに参加して21週はこういうことしましたよと引き継ぎながら、22週のアイデア出しにご意見を言わしてもらったんです。例えば、掛井先生が武志に「最高のものなんかできへんで。自分の最善を尽くすだけやで」みたいなことを言うのは僕らのリアルですけどねみたいな感想を言ったりしました。水橋先生がこういうことをやりたいと言ったときに、感想を言ったり、ちょっとだけプラスのアイデアを提案するくらいですよ。

ーー「西郷どん」の時もそういう感じですか。

三谷  僕は時代劇がめっちゃ好きなんで、歴史学者の磯田先生と中園先生の間をつなげるみたいな役割でした。岐阜と長野の県境みたいな存在です(笑)。中園ミホ先生はどんどん本打ち(脚本の方向性を決める打ち合わせ)に来いみたいな方で、僕は「三谷どん」と呼んでもらっていました。水橋先生や中園先生とお仕事させてもらって思ったのは、男性陣が思い付かへんことを思いつかれますね。僕ら男性陣が考えることって王道を狙い過ぎてカチッとしがちですが、違った発想をされるからすごいと思います。田渕先生もそうでしたね。

――王道好きですか。

三谷  もし僕が大河ドラマを書けるなら弁慶が書きたいとずっと思っていて、とくに五条大橋での戦いを描いてみたいです。「忠臣蔵」をやるなら絶対畳屋替えは書きたいし。歴史好きが見たいものは絶対やらなあかんと思っています(笑)。

「スカーレット」最終回はどうなる?

――さて、「スカーレット」の最終回はどうなるかご存知ですか。

三谷  僕は知っています。台本を読みましたから第21週をやるにあたって全話の脚本とDVDを資料としていただいたときに、よければ最後までもらえませんかってお願いしたんです(笑)。

ーー最終回の台本を読んじゃった三谷さん、『スカーレット』の物語全体をどう感じられましたか。

三谷  武志の病気のことはありながら、なるべく幸せな時間を描いていて、ついに武志がフカ先生の絵葉書から想を得た作品を完成させ、「みんなの陶芸展」をやって……。そこに僕ら(1番、2番)が来る説もあったのですが……。僕ら以外のいろんな人は来ます。感動のメンツが来ます。そのあと、さあ、どうなるでしょう? みたいな感じですね。水橋文美江さんの書かれたものを、おこがましくも同じ作り手として言えば、主人公が信楽(地元)からほとんど動かない〈朝ドラ〉も珍しいと思っていました。だんだん家の中が変わっていくとはいえ、ほぼずっと、舞台が川原家で、それを弱点じゃなくて武器にされたと感じました。たとえ同じところにいても人は変わるし、出会う人も変わります。かといって、変わることだけがドラマの面白さではない。喜美子にはいつまでも変わらない友達がいる。第21週では敏春さんの「いや、僕はええと思いますけどね、昔から仲いい3人がこんな地元にいて」と言うセリフが僕は気に入っていて。年月が過ぎ、いろんなことがあっても信楽には喜美子と照子と信作がいる。そういうのはすごくいいなと思うようなお話になっている気がしました。……なんて僕が言っているのを水橋先生が見たら、何、言ってるんだ!とお叱りを受けそうですが……、とにかく、すごく「スカーレット」らしいエンディングだと僕は思います。

Masato Mitani

1977年11月10日、京都府生まれ。脚本家、演出家、俳優。東映俳優養成所を経て、劇団6.89、江戸川プリンセスで演劇活動を行う。主な作品に、ラジオドラマ「罪と罰と人情と」、「中学生日記」、朝ドラ「あさが来た」スピンオフ「割鍋に綴蓋」、朝ドラ「スカーレット」特別編「スペシャル・サニーデイなど。脚本協力に「西郷どん」など。主な出演作品に「スカーレット」「西郷どん」「盤上のアルファ」「家康、江戸を建てる」などがある。太秦映画村の仮面ライダーショーの脚本、演出も手掛ける。2020年8月から放送される「雲霧仁左衛門5」で脚本執筆。

撮影:筆者
撮影:筆者

連続テレビ小説「スカーレット」 

○ 2019年9月30日(月)~2020年3月28日(土)[全150回]

◯NHK総合 月~土 朝8時~、再放送 午後12時45分~

◯BSプレミアム 月~土 朝7時30分~ 再放送 午後11時30分~ 

作:水橋文美江

演出:中島由貴、佐藤譲、鈴木航ほか

音楽:冬野ユミ

キャスト: 戸田恵梨香 ほか

語り:中條誠子アナウンサー

主題歌:Superfly「フレア」

制作統括:内田ゆき

最終回は3月28日(土)

フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人

角川書店(現KADOKAWA)で書籍編集、TBSドラマのウェブディレクター、映画や演劇のパンフレット編集などの経験を生かし、ドラマ、映画、演劇、アニメ、漫画など文化、芸術、娯楽に関する原稿、ノベライズなどを手がける。日本ペンクラブ会員。 著書『ネットと朝ドラ』『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』、ノベライズ『連続テレビ小説 なつぞら』『小説嵐電』『ちょっと思い出しただけ』『大河ドラマ どうする家康』ほか、『堤幸彦  堤っ』『庵野秀明のフタリシバイ』『蜷川幸雄 身体的物語論』の企画構成、『宮村優子 アスカライソジ」構成などがある

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