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聖火リレーのようにトークリレーも全国を回った「いだてん」の歩み 12月8日、浜松でいよいよファイナル

木俣冬フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人
大河ドラマ「いだてん〜東京オリムピック噺〜」45回より 写真提供:NHK

日本ではじめてオリンピックに参加した金栗四三(中村勘九郎)とオリンピックを東京に呼んだ田畑政治(阿部サダヲ)を主人公に、明治、大正、昭和とオリンピックの歴史とそれに関わった人々を描く群像劇。最終章。東京オリンピックを目前に事務総長を辞任させられすっかり気落ちしてしまった田畑だったが“裏組織委員会”活動によってやる気を取り戻す。

大河ドラマ「いだてん〜東京オリムピック噺〜」第45回 「火の鳥」 12月1日放送 演出:一木正恵

オープニングに、オリンピックを観覧される上皇陛下と美智子様が映り、美智子様の気品と美しさは一瞬でも強烈に輝いていて目を奪われた。

事務総長を降ろされて「俺のオリンピック」を奪われた田畑の家に、忘れ物だと「俺のオリンピック」(模型)を届けてくれた顔(松澤・皆川猿時)と顔(岩田・松坂桃李)と顔(森西・東京03角田)と顔(大島・平原テツ)。※念のため「顔」というのは三波春夫(浜野謙太)の「東京五輪音頭」の歌詞「オリンピックの顔と顔」より

政治が好きな川島(浅野忠信)はオリンピックを機会に日本を経済大国にするという政治ゲームを遂行して満足げに政治の世界に戻ってしまう。ある意味すがすがしい。

田畑が辞めたあと、黒澤明監督(増子直純)も記録映画監督を辞退、「君死にたまふことなかれ」で有名な与謝野晶子の次男・与謝野秀(中丸新将)が組織委員に選ばれた。

オリンピックが大好きな田畑は裏組織委員会をやることになった。単なる飲み会みたいなものだが。よくいえば、権限がなくなったが松澤や岩ちんたちの影で暗躍するフィクサーみたいなことだろうか。実際、田畑のアイデアを岩田が会議で代弁している。

徳井義実と安藤サクラの名演技

折しも、東洋の魔女こと日本女子バレーを率いる大松監督(徳井義実)が辞意を表明、田畑は引き留めるべく尽力する。

大松 「田畑さんにとってオリンピックとはなんです?」

田畑 「簡単に聞くね君、オリンピック、人生だよ。生きる目的だよ。すべてだよ」

大松 「それはそれはご愁傷さまでしたな」

田畑にとっては「俺のオリンピック」どころか「俺がオリンピック」みたいになっているが、大松にとっては、選手たちの青春と引き換えにしてしまった忌むべきオリンピック。結婚や出産を女性の幸福と思い、それを河西(安藤サクラ)たちに与えてやりたいと考える大松だったが、当の河西たちにとっては「バレーこそ青春」で、「青春を犠牲にして そう言われるのが一番きらいです。わたしたちは青春を犠牲にしてない。これが青春だから」とドラマの決めセリフみたいなことを言う。いや、これはれっきとしたドラマだけど。史実でも、河西選手がこのようなことを言っているのだと宮藤官九郎がラジオで言っていた。事実はドラマより奇なり。

気を取り直した大松は「おれについて来い!」と言って、オープニングのイントロが鳴る。まるで「君は何をいま見つめているの♪」と歌う青い三角定規の「太陽がくれた季節」(72年に放送された青春ドラマ「飛び出せ!青春」の主題歌でこれで紅白出場もしている)みたいに響いた。

相手を引き立てる才能が惜しい

税金の申告をしてなかったため出演番組をのきなみ降板になってしまった徳井義実が、徳井であることを感じさせず、大松という登場人物をみごとに演じていた。なかなか良かったので、私はスポーツ新聞の記事にヤフーオーサーコメントとしてこのようなものを出した。“監督の熱情と冷静さの両面出しつつ最終的に人情が打ち勝ち、だだ漏れになったところはこの人にならついていきたいと思わせるものがありました。徳井さんは過去、「派遣のオスカル」(09年 NHK)や「私、結婚できないんじゃなくて、しないんです」(16年 TBS系)などでも王子様感を醸しつつ引く時は引いてヒロインを立てる巧さがあり、今回も、自分の見せ場もしっかりやりつつ、安藤サクラさん演じる河西選手たちをみごとに引き立てていました。やわらかい関西弁も、ハードな特訓場面の空気を緩和させていたように感じます。”

ほんとうにいい塩梅で甘さと辛さを兼ね備えた人物をやっていたし、河西だけでなく田畑のことも引き立てていた。バラエティーや音楽番組の司会でも力を発揮していただけはある。

惜しい。いい俳優の条件は演技力があるだけでなく現場に迷惑をかけないことだと私は思う。

女性のドラマもきれいにまとまった

颯爽と練習に励む選手たちを見て、「人見絹枝(菅原小春)や前畑秀子(上白石萌歌)の時代から変わった。国を背負うんじゃなくて自分のためにやってるんじゃんねえ」と感慨にふける田畑。その思い出には歴史には残ってない市井の女性・シマ(杉咲花)もいた。

「変わったんじゃなくて変えたんです」と暗に田畑が変えたと匂わす良妻・菊枝(麻生久美子)。

それこそ彼女たちは「恋」や「結婚」や「出産」という女の幸福を後回しにして日本のために身を挺して頑張った。あれから長い年月が過ぎて、河西選手はそんなプレッシャーを否定できるようになった。

これは田畑がサブタイトルの火の鳥のように復活していくきっかけのひとつだろう。政治と関わらず純粋に理想の「俺のオリンピック」を楽しめばいい。

岩ちんたちは、オリンピックのために、田畑の娘ほか女性たちを「ホステス」改め「コンパニオン」にする。

時代と女性は、「いだてん」の初期の頃からのテーマのひとつで、それゆえ「朝ドラみたい」と言われてきた。かくいう私もそういうことを書いたし、NHKに大河ドラマと朝ドラの定義を聞いたりもした。大河と朝ドラ、どう違う?NHKに聞いてみた【いだてん 第23回】

男性も女性も混ざり合って、歴史の大河を形作っていくのが「いだてん」だと思う。

オリンピックのポスターの順番になってる

「いだてん」も残り2回。まとめに入ってきて、女性が必死で勝ち取ってきたものが45回で書かれた。

ほかに、1964東京オリンピックのポスター第3号ができて、それは水泳で、第2号が陸上短距離だった。第一号は文字と日の丸。「いだてん」のふたりの主人公・金栗四三はマラソンだが走りを、田畑政治は泳ぎをやってきた人物だ。うまいこと1964オリンピックの象徴のようになっているではないか。

第4号は聖火ランナーで、もう一度、前半の金栗がクローズアップされる。亀倉雄策のデザインのように力強く美しい構成だ。また別途、芸術展示ポスターが作られていて、山城隆一デザイン、高梨豊撮影によるポスターのモチーフは扇子に見えるのだ。落語とつながった気がするのは気のせいだろうか。45回の落語エピソードは、大晦日、志ん生(ビートたけし)が一家で紅白歌合戦を見ていると、行方不明になった五りん(神木隆之介)が三波春夫(浜野謙太)について出て踊っている姿を発見するという続きが気になるものだった。

ポスターと「いだてん」の落語との関係はおそらく考え過ぎだろうとは思う。1964東京オリンピックではスポーツのみならず芸術展示が行われ、そこで芸能部門として展示されたのが、歌舞伎、人形浄瑠璃 、雅楽 、能楽 、古典舞踊・邦楽 、民俗芸能だった。そこに落語は入っていない。残念。写真の扇子は能に使う扇子かもしれない。

聖火リレーの最終ランナーは誰に

妄想はともかく、聖火ランナーだ。コンパニオンの面接会場に間違えて、金栗が聖火リレーの最終ランナーに立候補して来る。

「足袋のジジイ、何どもみましたよ」とタクシー運転手だった森西が言う。そう、第一話からタクシーの中から金栗らしい人が走っているのが目撃されていた。

金栗は日本を九州から樺太まで走り続け、その走った道を記した地図を残していて、そこから聖火リレーのコースを思いつく。沖縄から4つに分けて、日本全国を走るのだ。

それでは、最終ランナーは金栗だろうと思いきや、田畑が「ジジイはだめ、未来ある若者に」と冷たい。やっぱり人間には完全なる善人なんていないと思わせた。

水を気にする東都知事

田畑たちの裏組織委員会の盛り上がりとは裏腹に、はからずも田畑たちと違う道を行ってしまった東(松重豊)は、競技場建設が遅れたり、高速道路建設が不評だったり都民に責められ、「せめて水だけはなんとかしないとねえ」とつぶやく。2020オリンピックではいろいろあった国立競技場が2019年、11月30日に完成した。マラソンは北海道でやることになった。あとは水が心配だ。東の心配と呼応している。東がひとりボート漕ぎをやっている姿は切ない。ボート選手だったがその道では大成しなかった東も田畑と岩田と同じ、スポーツで挫折を味わった者だ。

裏組織委員を楽しく行っている田畑の家に酒瓶をもってやって来たものの入れずに外に立っていたら、田畑の娘あつ子(吉川愛)に声をかけられて瓶を落としあたふた去っていく姿も哀しくも可笑しみがあった。松重豊には“孤独”が似合う。

このとき、菊枝は、長年連れ添った田畑のアレとかナニを理解しているわけではなくなんでもいいのだという極地に達していたことを明かす。ことごとく良妻。

こうして美しくも滑稽な人間ドラマはゴールに向かっていく。

「いだてん」のトークリレーもゴール

というところで、日本全国をまわった聖火リレーのように、「いだてん」も日本全国をトークリレーでまわっていた。それが12月8日でゴールとなる。最後に、これまでまわった場所をあげておく。じつに34回もトークショーを行っている。ほんとうにおつかれさまでした! ドラマはあと2回!

1/6 青森県八戸市

1/6 岩手県久慈市

1/13 鹿児島県霧島市

1/20 佐賀県佐賀市

2/23 熊本県玉名市

3/2 熊本県玉名市

3/9 鳥取県鳥取市

3/10 鳥取県鳥取市

3/17 北海道旭川市

3/21 秋田県能代市

3/23 東京都文京区

3/31 長崎県大村市

4/14 岐阜県中津川市

4/20 長野県長野市

4/21 長野県上田市

4/27 熊本県熊本市

4/28 茨城県つくば市

5/12 静岡県御殿場市

5/19 佐賀県鹿島市

5/25 大阪府豊中市

6/16 熊本県玉名市

6/23 兵庫県神戸市

6/30 京都府京都市

7/21 東京都渋谷区

7/27 愛媛県宇和島市

8/4 三重県桑名市

8/18 愛知県岡崎市

8/25 静岡県浜松市

9/8 北海道札幌市

9/22 和歌山県橋本市

11/3 栃木県宇都宮市

11/17 佐賀県有田町

11/30 熊本県熊本市

12/8 静岡県浜松市

会場や出演者はドラマの流れや登場人物の出番にあわせて選んでいて、例えば、9/22「前畑がんばれ」の回は前畑秀子の出身地、和歌山県橋本市でトークショーを行い、直近の佐賀県有田町のトークショーは、ドラマ内で聖火リレーの話題を扱っていたため、聖火リレー踏査隊の森西役の角田をゲストに、2020大会のトーチをデザインした方や、1964の聖火を空輸した方の出身地である佐賀県で実施した。

そしていよいよ12月8日は、大河ドラマ「いだてん」トークツアーグランドファイナル in 浜松市 で宮藤官九郎と松坂桃李が出演し、トークショーとパブリックビューイングの連結イベントを行う。観覧できる人はうらやましいじゃんねー。

第二部 第四十六回「炎のランナー」 演出:西村武五郎 12月8日(日)放送

あらすじ

いよいよ1964年となり聖火リレーの準備は大詰め。岩田(松坂桃李)は最終走者として、原爆投下の日に広島で生まれた青年(井之脇海)を提案するが、政府に忖度する組織委員会で反対にあう。政府はアメリカの対日感情を刺激することを恐れていた。平和の祭典としての五輪を理想とする田畑(阿部サダヲ)は解任以来初めて組織委員会に乗り込む。アメリカとどう向き合うべきか。外交官出身の平沢(星野源)が秘策を思いつく。

みどころ

第46回の中心は“平和の祭典”としてのオリンピック。戦争からたった19年後の1964年に、日本で“平和の祭典”を実現するとはどういう事だったのかを描く。

第46回から最終回にむけて、これまでの歩みが結実していく。序盤から見ていた視聴者にはとりわけ感慨深いものになりそうだ。もう毎回、感慨深いのだがいったいどこまで感慨深くしてくれるのだろうか。

大河ドラマ「いだてん〜東京オリムピック噺(ばなし)〜」

NHK 総合 日曜よる8時〜

脚本:宮藤官九郎

音楽:大友良英

題字:横尾忠則

噺(はなし):ビートたけし

語り:森山未來

出演:阿部サダヲ 中村勘九郎 / 星野源 松坂桃李 麻生久美子 安藤サクラ / 

神木隆之介 荒川良々 川栄李奈 / 松重豊 薬師丸ひろ子 浅野忠信 ほか

演出:井上 剛、西村武五郎、一木正恵、大根 仁ほか

制作統括:訓覇 圭、清水拓哉

「いだてん」各話レビューは、講談社ミモレエンタメ番長揃い踏み「それ、気になってた!」で連載していましたが、

アレがナニして「いだてん」第一部の記事で終了となったため、こちらで第二部を継続してお届けします。

第一部の記事はコチラhttps://mi-mollet.com/search?mode=aa&keyword%5B%5D=%E3%81%84%E3%81%A0%E3%81%A6%E3%82%93%E3%80%9C%E6%9D%B1%E4%BA%AC%E3%82%AA%E3%83%AA%E3%83%A0%E3%83%94%E3%83%83%E3%82%AF%E5%99%BA%EF%BC%88%E3%81%B0%E3%81%AA%E3%81%97%EF%BC%89%E3%80%9C

フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人

角川書店(現KADOKAWA)で書籍編集、TBSドラマのウェブディレクター、映画や演劇のパンフレット編集などの経験を生かし、ドラマ、映画、演劇、アニメ、漫画など文化、芸術、娯楽に関する原稿、ノベライズなどを手がける。日本ペンクラブ会員。 著書『ネットと朝ドラ』『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』、ノベライズ『連続テレビ小説 なつぞら』『小説嵐電』『ちょっと思い出しただけ』『大河ドラマ どうする家康』ほか、『堤幸彦  堤っ』『庵野秀明のフタリシバイ』『蜷川幸雄 身体的物語論』の企画構成、『宮村優子 アスカライソジ」構成などがある

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