まだ終われない ケイゾク、SPEC、SICK‘Sのプロデューサーが20年間シリーズを作り続ける理由

『SICK'S 厩乃抄』 写真提供:TBS  

今期(2019年10月)のドラマには13年ぶりの続編「まだ結婚できない男」(関西テレビ)や12年ぶりの続編「時効警察はじめました」(テレビ朝日)となぜか10年以上前のドラマの復活が2作も。さらには34年ぶりにドラマ化された「ヤヌスの鏡」(フジテレビ)が配信から地上波放送されたりもしている。いずれも視聴者離れに歯止めをかけたい不断の努力と思うが、そんななかで20年前から同じシリーズを続けているドラマがある。

「SPECサーガ」だ。

映画化もされた人気刑事ドラマ「ケイゾク」(99年 TBS 中谷美紀主演)、同じく映画化された続編で、SF的な要素も組み込んだ「SPEC」シリーズ(2010年~13年 TBS 戸田恵梨香主演)を経て、「SICK'S ~内閣情報調査室特務事項専従係事件簿」(18年 木村文乃主演)が現在、Paraviで配信中、」名付けて「SPECサーガ」としてひとつの壮大な物語となっている。

これだけ長くシリーズものを作っているドラマは、同じ局としては1990年から続く超長寿番組「渡る世間は鬼ばかり」、他局だと2000年からはじまり来年20周年を迎える「相棒」や、今年20周年の「科捜研の女」などがある。「渡る」が家族の年代記、「相棒」「科捜研」は主人公は変わらず一話完結の事件もの。「SPECサーガ」はその2種のハイブリッドのような、事件ものを扱った年代記で、同じ世界観のなかで主人公が代わっていき、かつSF的なパラレルワールドになっているという凝ったものだ。シリーズをつないでいるのは「刑事(でか)魂」と「朝倉」という「悪」の概念。主人公たちは、いつの時代も「朝倉」と戦い続けている。

それもシリーズ20年めとなる19年、「SICKS」恕・覇・厩の三部作(各5話ずつ)でついに完結かと思ったら、9月に行われた「厩」の会見で、まだ続きそうなことを語るではないか。主演の木村文乃が「最終章と思ってやってないっていうか……」と口火を切ると堤幸彦監督が「それ言っちゃう?」と茶化し、「ケイゾク」から出演し続けている竜雷太は「20年もやらせてもらっているので終わっちゃうと生きがいがなくなる」と継続を呼びかけ、堤は「官製はがきで続けてほしいという声が50通超えたら」と期待をもたせた。

明らかに続ける気満々としか思えないがほんとうにまだ続くのか。地上波から配信へ、場所を移してまで、なぜそんなに続けたいのか、「厩乃抄」最終回配信(11月8日)を前にシリーズの生みの親・TBSのプロデューサー植田博樹に聞いた。【前編】

堤幸彦的なものは進化している。

ーー会見&試写で上映した「厩乃抄」11、12話は堤幸彦演出回ではなく、助監督を長くやってきた稲留武さんと白石達也さんの回でした。それでも12話の御厨(木村文乃)と高座(松田翔太)が屋台で語り合うシーンがとても感動的で。

植田:13、14、15は堤監督です。『ケイゾク』でも、堤さんの演出ではなく、伊佐野英樹演出回がいい人もいるし。『SPEC』のときも加藤新演出回がいいという人もいて、皮肉っていやあ、皮肉ですけど。でも、12話の屋台のシーンは大事だからと堤さんも現場に来てくれましたよ。白石君の演出回のほうがちょっとトリッキーだったのが意外でしたけどね。

――ふたりとも堤組で長く助監督やっていますけど、稲留さんは撮影現場で俳優とベースの堤監督の間をつなぐ役割をしているところが大きいかもしれないですね。

植田:そうですね。延長線上にちゃんとありますね。

ーー堤監督のDNAというと、先日NHKで放送された『トリック』のような雰囲気の『ピュア!~一日アイドル署長の事件簿~』をご覧になりました?

植田:『トリック』の蒔田光治さんが脚本を書いているから『トリック』の面影がありましたよね。

――あれも、堤監督の作品についていたこともある藤原知之さんが演出していて。

植田:池井戸作品においてのチーフ演出の福澤克雄オリジナルとそうじゃない回とではやっぱりどこか違う印象を受けるのと同じですね。助監督だった人たちは堤さんのようなものを求められたとき、当時、印象的だった堤さんのやり方を模倣するけれど、堤さんは常にアップデートしていますからね。例えば、人間の裏表の描写が堤さんはすごくうまい。堤さんの衣装合わせって、絶品ですよ。ほんとに次から次へとアイデアが出てくる。「この人は変な宗教にはまって、ネックレスを売りつけられて」とか「ハワイに行ったことないのに、ハワイアンのジュエリーを着けているんだ」とか設定に妙に説得力がある。僕も、それを学ばせてもらったから、『アンナチュラル』のときに様々な人物造形のアイデアを出しました。ちょっとオフサイド気味で却下されたやつも多々ありましたけど(笑)。出番がそれほどない俳優さんのために、一瞬出てきただけでもキャラクターが浮かび上がるような役の掘り下げ方は、堤さんと生野慈朗さんから学びました(☆生野慈朗さんはTBS の名演出家。『ビューティフルライフ』『愛していると言ってくれ』などを演出)。

――採用されたものは。

植田:葬儀屋の眼鏡とかですね。あれは、伊丹十三監督の映画に出ていた葬儀屋から取ったんですよ。江戸家猫八さんが、ああいうパカッとレンズが空く眼鏡を掛けていて、「葬儀屋といえば、もうそういう眼鏡だから」と言って(笑)。でも悲しいかな、スタッフが若いので、「『お葬式』の江戸家猫八みたいに」と言っても話が通じない。まず『お葬式』のDVDを用意して見てもらうことからはじめないとならないんです。それを見て面白がってくれるかわからないし。だんだん世代差を感じるようになってきましたねえ。

――共通言語がなくなっていくわけですね。『SICK’S』の衣装さんは映画『十二人の死にたい子どもたち』も担当した人でしたよね。若い方だけど堤監督の狙いを理解した衣装を選んでいた気がします。

植田:『SICK’S』の美術チームは、すごく優秀です。この前、コメンタリーでも話したことですが、堤さんは突然思いついて、「こういうのない?」と言うと、翌日には、睡眠時間を削ってでも用意してくれる。

――この働き方改革の時代に。

植田:働き改革は、いろんなクオリティーを落とさざるを得ないですよね。それがいいっていう人もいるからしょうがないですけれど。

――「覇」で「精YES肉」という看板があったじゃないですか。「精肉」って看板はもともとロケ場所にあったものですか?

植田:ありました。

――そこに「YES」を入れることになった瞬間はいつですか。

植田:ロケハンのときです。ちょうど、チャゲアスの飛鳥の問題で結構世の中がにぎわっていたときでした。堤さんは、その時、その時のマイブームがあって、『サトリの恋』のときには『シェイプ・オブ・ウォーター』を観たばかりで、まんまパクってますからね(笑)。パクるじゃないか。オマージュだ。

写真提供:TBS
写真提供:TBS

配信だからできるじっくり見せる人間ドラマ

ーー「厩」で特筆すべきは酒向芳さんだと思うんです。ホリックの秘密を握っている男・玄野冥府役。ドラマを引き締めていましたね(朝ドラ「半分、青い。」の岐阜弁の人物や映画『検察側の罪人』の犯人役で注目されたバイプレイヤー)

植田:酒向さんに出てもらったことは大きいですよ。シナリオで玄野が出てくるシーンの制作に差し掛っていたとき、ちょうど『検察側の罪人』の試写を見たんです。しかもその日の昼に、マネージャーさんがちょうど酒向さんのプロフィールをくれて。僕は、そのとき酒向さんのこと知らなかったのですが、映画を見たらものすごく良かったものだから、試写会場から出てすぐに「まだシナリオできてないんですけど」とマネージャーさんに電話をしました。『検察側の罪人』の一般公開後、ものすごくオファーが殺到したそうで、でも最初に電話をしたのが僕だったから、SICK’Sではささやかな役ではあるんですけど出てもらえることになったんです。

――ささやかな役じゃないじゃないですか。

植田:いや、いや、他のオファーからするとですよ。もっと大きい役もいっぱいあったんみたいですよ。

――地上波ではないですしね。

植田:そうなんです。

――面白かったのが『検察側~』をはじめとして、わりとトリッキーなことをされる印象だった酒向さんが、普通のおじさんっぽく存在していて。そこに堤監督、さすがって思ったんですよ。世間のイメージと逆張りするんだなと。

植田:等身大だったでしょう。また、玄野の設定の悲劇性みたいなものが堤さんの琴線に触れたんでしょうね。玄野のように社会に蹂躙された人って実際にいるだろうし……。酒向さんと息子のシーンは、なかなかよかったですよね(拾参話)。

――劇伴かけずに、父と息子の葛藤を芝居で見せましたね。

植田:芝居を相当積み上げたんですよね。堤さんは、時間がないときは、ないときで、なんとかしてくださるのだけれど、あの場面は十数回リハーサルを繰り返していました。あと、御厨とお父さん(嶋田久作)のシーンも良かったですよね。

――父と子っていうのが重なっているんですね。

植田:そういう意味で言うと、『明日の記憶』あたりから、積み重ねてきた堤幸彦の一つの境地ですよね。

ーー『明日の記憶』は親子ものではないですが、堤監督の撮るヒューマニズムを描いた作品のはじまりという感じですね。

写真提供:TBS
写真提供:TBS

今、地上波はコミュ障の物語しか当たらない

――言い方が難しいですけれど、地上波よりも俳優さんが地味めな方が多いじゃないですか。でもそれが逆にいい。芝居をちゃんと味わえるというか。

植田:そう、そう、アジアの某超大国の人たちを演じる俳優さんたちやディーラーを演じた松永天馬さん。松永さんはツイッターを見ていて「顔、面白いな」と思って。それで、堤さんに話したら、堤さんも「この人、知ってる」と言って。配信には、そういう自主制作的な抜擢という楽しみ方がありますね。

――着々と配信のよさを使い倒している感じはしますよね、『SICK’S』シリーズは。

植田:怒る人が少ないですからね。怒る人が少ないと本当に自由ですよ。それに、玄野のような人物を描くとしたらこの番組しかないだろうと思うんですよ。今の地上波ってコミュ障の人たちのラブストーリーしか当たらないから。

――それはTBS の「逃げ恥」とか「凪のお暇」のことですか(笑)。コミュ障だっていろいろ苦しいと思いますが、その内面をえぐるのではなく、そこに触れずにいかに優しい世界を生きるかを描くものが多いですね。

植田:そうですね。

――そうじゃないものが地上波を離れてでも描きたいと。

植田:地上波は勿論魅力的ですが、そこに活路が見いだせない場合は、Paraviなり、Amazonなり、Netflixなり、そういう世界が作れるところがあれば、行きたいです。いまは、Paraviの人が優しくしてくれるので恩返ししたいと思っています。

――一番自由にやれたと思うのは、全15話の中でどこですか。

植田:思い入れの深いシーンばかりだからなあ。それで言うと、今回、シナリオを、全部、先に作っているから現場にほとんど立ち会えたんですよ。だから、このシーンはどういうタイミングで撮ったか鮮明に覚えていて、例えば、秘書官のカニのシーンとかは、「ほんとにカニ臭かったな」っていう記憶があるし、竜さんはだいぶお年にもかかわらずセリフがスムーズに入っていて感激したとか(笑)。

――竜さんといえば、『SPEC』の映画で壮絶に野々村が死んで、双子の弟で再登場したことが最初は半信半疑でしたが、ずっと見ていると違和感がなくなりますね。

植田:なくなります。もう、竜さんいてこその『SPEC』サーガだから。

――試写会で木村さんと松田さんと竜さんのコンビネーションがいい感じだとおっしゃっていましたが、ほんとうにいい感じに見えます。

植田:『ケイゾク』のときはメンバーがいっぱいいたけれど、今は3人しかいないから。竜さんは、お父さんみたいな感じが、撮影中も撮影外も、常にあるし、文乃さんと松田さんのコンビも、回を重ねて、すごくいい感じになりましたよね。

――三人で「何か食べに行きましょう」「安くていいです」みたいなことを言いながら歩いていく場面がすごくよくて。植田さんはエリートなのに、われわれ下層の者たちの喜びと悲しみに下りてきてくれますよね。

植田:お客さんを転がすために(笑)。それは冗談として、「恕」の脚本をつくったときはそれが浮かんで来なかった。「恕」の現場に行って、文乃さんや松田さんの資質を知ったことで制作できたように思います。松田さんは、おしゃれでクールなイメージがあるけど、徹頭徹尾レディファーストで、そこが特に男っぽいし、文乃さんは気遣いの人。差し入れがケータリングなんですよ。堤組はあまり休憩を取らずにどんどん撮っていくので、お弁当だと一斉に配って10分で休憩終わりみたいなことがあるけれど、ケータリングにしたら、みんなが順番に食べる間、休めるという発想だそうで。しかも、品数も多いし、野菜も多いし、お弁当では食べられないメニューを文乃さんがわざわざ考えてくれているんです。料理がお得意なので。

――いい人ですね。

植田:すっごい、いい座長ですよ。役者は、もちろんその芝居だけで評価すべきではあるが、それとは別に、この現場での彼女の座長感みたいなものはありますよ。

――芝居の巧さだけでなく人柄って大事ですね。そんなこともあって、アットホーム感が物語にも出たということですか。

植田:そうですね。トクムのセットの場所も、何か馴染んできたというか。

――あそこは本当にいいロケ場所を見つけられて……

そんなトクムに特殊部隊が突入するのが拾四話。

というところで本題……「SPECサーガ」の今後について、11月8日公開予定の植田博樹プロデューサーインタビュー後編に「継続」。

取材の前編を終えて

「渡る世間は鬼ばかり」をはじめとして、「相棒」も「科捜研の女」も、登場人物もやっていることもほぼ変わらずに30年、20年と続いている。「渡る世間~」は主人公が年をとり環境が変わり家族が増えたり減ったりしている年代記としての物語があるが、「相棒」や「科捜研」は殺人事件を延々解決し続けている。「水戸黄門」のようなものだ。三ヶ月で消費されていくたいていの連続ドラマたちと比べて、安定した視聴率や人気を獲得し続けることは尊い。

一方、12、3年ぶりに復活した番組は、あの頃、ドラマファンたちが好きだったもの、人気のあったものを懐かしく思う人達に向けてのもの。それもまた視聴者が見たいと思うものを提供しているわけだ。

ところが、SPECシリーズはちょっと違う。視聴者が見たいものはいったん終わって、ちょっと違うものがはじまるのだ。主人公が変わり、出演者が変わり、趣向や技術などはアップデートしながら、地上波から配信に場所を変えてまで世界にはびこる「悪」の存在を追い続ける。

それは、毎年、新しいライダーが出てくる仮面ライダーシリーズともまた違う。

新しいシリーズになるたび、新たな主人公に違和感を覚えながらも、我々視聴者は作り手のブレない意思に最終的にはねじ伏せられていってしまう。それこそ作家の力である。だが作っているのは個人事業主の小説家や漫画家ではない。テレビ局の社員プロデューサーである。その人が、尊敬する演出家とともに20年以上、同じ作品を作り続ける、その熱には頭が下がる。「ガンダム」シリーズだって富野由悠季監督が関わってないものもあるのだから。

20年、場所を変えながらも作り続け、格闘し、視聴者と共に年をとっていく。そんな「継続は力なり」の力が無駄ではないことを証明してほしいと思う。だからこそ、疲弊して勢いが弱まって終わっていくのではなく、いつまでも強くあってほしいと願う。

写真提供:TBS
写真提供:TBS

PROFILE

うえだ・ひろき◯67年2月3日、兵庫県生まれ。京都大学法学部卒業後、TBS入社。ドラマ制作部のプロデューサーとして、数々のヒットドラマを手がける。代表作に『ケイゾク』『Beautiful Life』『GOOD LUCK!!』『SPEC』シリーズ、『ATARU』『安堂ロイド~A.I .knows LOVE?~』『家族狩り』『まっしろ』『ヤメゴク~ヤクザやめていただきます~』『神の舌を持つ男』『A LIFE~愛しき人~ 』『IQ246~華麗なる事件簿~』『アンナチュラル』など

SPECサーガ完結篇『SICK'S 厩乃抄 ~内閣情報調査室特務事項専従係事件簿~』

Paraviで配信中  15話は11月8日配信

原案・西荻弓絵

プロデュース 植田博樹

監督 堤幸彦

出演 木村文乃 松田翔太 

   

   黒島結菜

   波岡一喜

   宅麻伸(友情出演)

   竜雷太ほか